メモリープレイヤー

GARAHIくホ心京ハeu(がらひくほみ

第1話

○(回想)粗斗の家(夜)

   粗斗(8)が父親(40)の腹部にナイフを刺している。

粗斗の父親「この……」

   父親の顔を見る粗斗。

粗斗の父親「ひと…ごろし…」

   恐怖に染まった母親(30)の顔を見る粗斗。

粗斗「…かあ…さん」

   涙目の粗斗。  

    

○(回想終わり)母親の病室(朝)

   母親が眠っているベットで、顔を伏せて寝ている粗斗(16)が起きる。

粗斗「……寝てたのか」

   目を擦る粗斗。

粗斗「母さん…」

   眠っている母親を一度見て、病室を出る。


○粗斗と京香の部屋の前(朝)

   粗斗はドアの前に止まり、もらった部屋の鍵番号と部屋番号を確認する。

   粗斗と京香(16)の名前が入った名札がドア上に貼ってある。

粗斗「ここだな…ルームメイトはもう来てるのかな」

   粗斗は鍵を開け、玄関のドアを開く。

   玄関に靴が置いてあることに気づく粗斗。

   シャワーの音が聴こえてくる。

粗斗「シャワー?」

   お風呂のドアが開く音が聞こえる。

京香「あ、もしかして、ルームメイト?」

粗斗M「女の声⁉︎ ルームメイトって女⁉︎」

京香「ごめんね、先、シャワー浴びちゃって…」

   洗面台のドアが開き、京香が裸のままでてくる。

   京香と粗斗は数秒間見つめ合う。

粗斗M「落ち着け、俺。落ち着いて言葉を選ぶんだ!」

粗斗「…ご馳走さまでした」

   手を合わせてお辞儀をする粗斗。

京香「お粗末さまでした」

   粗斗にお辞儀を返す京香。

京香「じゃない‼︎」

   京香の打撃が粗斗の頬に飛んでくる。

京香は素早く大事な部分に手を当てて隠す。   

粗斗「ですよね」

   京香は服を着る。

京香「なんで男が⁉︎ 私の部屋から出てって‼︎」

粗斗「『私の部屋』って、ここ俺の部屋なんだが」

京香「名札みたの?」

粗斗「俺の名前もちゃんと入ってたぞ」


○粗斗と京香の部屋の前(朝)

   粗斗と京香は一度家の外に出て、ドア上の名札を見上げる。

   『305 粗斗 京香』と名前が入っている。

京香「ほら、私の名前が入って…え?」

粗斗「俺の名前、入ってるだろ?」

京香「粗斗……」

京香「…もしかして」

   京香は目を細めて、粗斗の顔をじっと見つめる。

粗斗「な、何か?」

京香「あ‼︎」

   京香は大きく目を見開き、粗斗に指を向ける。

京香「そーちゃん!」

粗斗「え?」

京香「覚えてない? 幼馴染の…」

粗斗「んー」

   粗斗は京香の顔をじっと見つめ返す。

* * *(フラッシュ)

粗斗は小学二年生の頃の京香を思い出す。

* * *(フラッシュ終わり)

粗斗「もしかして、小一に転校した京香?」

京香「そうそう!」

粗斗「だいぶ成長したな」

   粗斗は京香を見渡す。

京香「そーちゃんもね」

粗斗「そりゃ、もう十何年だもんな」

京香「あー! よかった」

粗斗「何が?」

京香「私、知らない人に裸見られたと思った」

粗斗「ごめん、あれは事故だったんだよ」

京香「それは、もういいんだけど…」

   京香が頬を赤く染めて、モゾモゾしている。

粗斗「どうしたんだ?」

京香「実は…」

粗斗「私、裸を見られた相手と結婚しなきゃいけないの‼︎」

粗斗「…え?」

京香「まじ」

粗斗「まじか…ごめん」

京香「でも、別に私はいいけどね。そーちゃんが結婚相手で」

粗斗「え?」

京香「だって私、昔からそーちゃんしか好きになったことないもん」

粗斗「唐突の告白⁉︎」

京香「そーちゃんは、私のことどう思ってるの?」

粗斗「どう思ってるって言われても…」

粗斗M「小一の頃からずっと好きだったって、言うの恥ずかしい!」

京香「もしかして、私だけが…」

   京香が暗い顔をして下を向く。

粗斗「あーもう‼︎」

粗斗「す、好きだよ! 小学生の頃から‼︎」

京香「ほんと?」

粗斗「ほんと!」

   京香と粗斗の間に気まずい空気が流れる。

京香「ありがと」

   頬を赤く染める京香と粗斗。


○粗斗と京香の部屋の中

   京香と粗斗がテーブルに座り、お茶を飲んでいる。

京香「あ、同じ部屋ってことは私たちペアってこと?」

粗斗「そう、なるな」

京香「そういえば、大会の案内もらった?」

粗斗「もらってない」

   机に置いてある紙を京香が粗斗に渡す。

京香「そーちゃんも、メモリープレイヤーに選ばれたんだね」

粗斗「確か」

粗斗「トラウマを持った人たちが武器(トラウマ)を使って戦う人のことだよな?」

京香「そうだよ」

   大会案内と書かれた紙を手に取り、読み上げていく。

粗斗「大会出場必須条件…」

粗斗「その一、二人一組のペアでのみ出場」

粗斗「その二、トラウマ克服者のみ」

粗斗「京香…俺、トラウマ克服できてない」

   粗斗が青ざめた顔で京香を見る。

京香「え⁉︎」

   粗斗の発言でお茶を飲んでいた京香が咽せる。

粗斗「どうしよ」

京香「トラウマ克服できてないと出れないよ!」

粗斗「京香は、トラウマ克服したのか?」

京香「してるよ」

   京香は胸を張り、笑顔で答える。

粗斗「すごいな」

粗斗「何か一つでも克服できていれば、いいんだから」

京香「一番克服できそうなトラウマとかないの?」

粗斗「一番…」

   粗斗が数秒目を瞑って考える。

粗斗「刃物とか」

京香「刃物…か」

   京香の表情が少し暗くなる。

京香「私、さっき先生が言ってるの聴いたんだけど」

粗斗「ん?」

   京香が一度お茶を飲む。

京香「トラウマの深さで強さが変わるらしんだよね」

粗斗「深さ?」

京香「傷つきのレベル的な?」

粗斗「そんなんあるんだ」

京香「あんまり言わないほうがいいかもだけど」

   申し訳なさそうな表情になる京香。

京香「きっとそーちゃんのトラウマは強いと思う」

粗斗「そうかな」

粗斗「なあ、一つ聞きたいんだけど」

京香「何?」

粗斗「トラウマって克服したらどうなるんだ?」

京香「入学式で説明されたじゃん!」

粗斗「ごめん、聴いてなかった」

京香「ちゃんと聴いとかなきゃ」

   京香は一度ため息をつく。

粗斗「ごめん」

京香「一回しか説明しないからね?」

粗斗「お願いします」

   粗斗は軽く頭を下げる。

京香「簡単に言えば、トラウマを克服したら、そのトラウマになった物を自在に操れるの」

粗斗「ん?」

   粗斗が小首をかしげる。

京香「えーっとね。例えば」

京香「火がトラウマだったら、火を自在に操れて、刀がトラウマだったら刀を自在に操れる」

京香「だから、そーちゃんがトラウマ克服して、投げナイフは絶対に相手に当たるし、刀とかは絶対に折れなかったりする」

   粗斗は頷きながら聞いている。

粗斗「なんとなく、理解した」

京香「よし、今からトラウマ克服しに行こうよ!」

   京香は椅子から立ち上がる。

粗斗「…そうだな」

京香「訓練場に行こー!」

   京香が右腕を上に上げる。

粗斗「お、おー」

   粗斗も釣られて一緒に右腕を上げる。


○訓練場(昼)

   砂埃が舞っているドーム型の訓練場で立っている京香と粗斗。鞘に入った刀を持っている京香。 

京香「そーちゃんのトラウマって刃物全般?」

粗斗「そうだけど」

京香「なら、刀とかどう?」

粗斗「いい? と思う」

京香「もーちゃんと答えてよ」

粗斗「だって、怖いんだよ」

京香「分かるけど」

粗斗「京香は怖くなかったのか?」

京香「怖かったけど、でも、克服しなきゃいけないから」

粗斗「強いな、京香は」

京香「そーちゃんも克服できると思う!」

粗斗「そうかな」

   俯く粗斗。

チャラ男「あれ? こんな所に可愛い女がおる!」

根暗な男「チャラ君は女の人みんなにそれ言ってるじゃん」

   チャラ男(18)と根暗な男(18)が粗斗と京香の方に歩いてくる。

   チャラ男と根暗な男が粗斗と京香の前で立ち止まる。

チャラ男「君、こんな男より、俺と遊ばない?」

京香「だれ?」

チャラ男「俺を知らないのか? 俺は有名な貴族様だぞ?」

   チャラ男が自身を親指で指す。

京香「知らない」

チャラ男「まあいい。それにしても」

チャラ男「君、いい体してるね」

   チャラ男が京香の体を舐め回すように見渡す。

京香「ごめんなさい。私、キモい人とは関わらないようにしてるの」

チャラ男「キモいって、コイツよりかは断然イケてると思うけどな」

   チャラ男が粗斗を指差して、ニヤニヤしている。

京香「あんた、死にたいの?」

チャラ男「おおー。怒った顔いいねー」

   チャラ男がニヤニヤしながら舌なめずりをする。

京香「死ね」

   京香がチャラ男に軽蔑の目を向ける。

チャラ男「コイツのトラウマ克服しようとしてるの?」

京香「あんたには関係ないでしょ」

根暗な男「さっき、トラウマ克服って聴こえてきた」

京香「だったら何?」

   チャラ男が粗斗を一度見る。

チャラ男「コイツみたいなイケてない奴にトラウマ克服は無理だと思うぞ」

京香「あんまり私のそーちゃんの悪口言うと、殺すよ?」

粗斗「京香、俺は大丈夫だから」

   粗斗が京香の方に手を置いて止める。

京香「でも…」

   チャラ男がギャハハと笑う。

   根暗な男がふふふと笑う。

チャラ男「そうだ! なら、かけようぜ」

京香「何を?」

   京香が怒った視線でチャラ男を睨みつける。

チャラ男「コイツがトラウマ克服できるかどうか」

チャラ男「コイツが克服できなかったら、そうだな」

チャラ男「君は俺のメイドな」

   粗斗が驚く。京香は少し黙って、返事を返す。

京香「わかった」

粗斗「だめだ!」

粗斗が京香の方を向く。

京香「大丈夫! そーちゃんなら、絶対に克服できるから」

   粗斗の方を振り向き、笑顔を見せる京香。

粗斗「もし、トラウマ克服したら、そーちゃんに謝って」

   京香はチャラ男の方に向き直り、笑顔から怒った表情に変える。

チャラ男「いいぜ、なら五時間後にここで決闘して、トラウマ克服したか見てやるよ」

京香「分かった」

チャラ男「なら、契約を結ぶぞ」

チャラ男「メモリーに誓う。我らはここに自身の全てを捧げ、契約いたす」

   チャラ男は自身の左胸にグーで握った手を当てる。

京香「メモリーに誓う。我らはここに自身の全てを捧げ、契約いたす」

   京香は自身の左胸にグーで握った手を当てる。

チャラ男「これで、コイツが克服できなかったら、君は俺の性奴隷だ」

根暗な男「契約は絶対に破れない」

チャラ男「それじゃーな」

   チャラ男と根暗な男はニヤニヤしながら訓練場を出ていく。

粗斗「どうしてあんな契約を!」

粗斗「あいつ、明らかに京香の体目当てだろ!」

   粗斗は京香の前に立つ。

京香「そーちゃんなら、克服できるよ」

粗斗「そんなの、守れる保証はないだろ!」

   粗斗は京香を怒る。

京香「私は、そーちゃんが克服するって、信じてるから」

粗斗「…」

   粗斗は俯きながら、謝る。

京香「いいから、そろそろ始めよ」

粗斗「あ、ああ」

粗斗M「絶対に克服しないと…!」

京香「いい? まず落ち着いて深呼吸。暴走しそうになったら刀を離すの」

粗斗「わ、分かった」

京香「それじゃ渡すよ」

   京香は持っていた刀を粗斗に渡す。

粗斗は深呼吸をして、受け取った刀をじっと見つめる。

震えた右手で鞘から刀を抜く。

刀を抜き終わり、粗斗は過呼吸になり始める。

粗斗「…あっ‼︎…あっ‼︎…」

京香「頑張って! 落ち着いて!」

粗斗「うっ‼︎ あぁぁぁー‼︎」

   粗斗が刀を振り、暴走が始まる。

粗斗「そーちゃん! 刀を離して!」

   刀から黒いオーラが出てくる。

   黒いオーラが徐々に粗斗を侵食していく。

京香「だめ!」

   京香が粗斗に抱きつき、刀を振り払う。

粗斗「うっ…‼︎」

   粗斗が頭を押さえながら倒れ込む。

京香「そーちゃん!」


○(回想)粗斗の家

   粗斗の母親が粗斗の父親に頬を殴られ、床に倒れ込む。

粗斗の母親「…もう、許してください」

粗斗の父親「うるせえなー」

粗斗の父親「サンドバッグは喋らねんだよ」

   床に転がった母親を蹴る父親。

粗斗「母さん!」

粗斗「父さん! もうやめてよ!」

   倒れ込んだ母親を庇う粗斗。

粗斗「母さんは何も悪くないだろ!」

粗斗の父親「ああ? なんも悪くねーよ」

   頭を掻きむしる父親。

粗斗の父親「なら、なんで母さんをいじめるんだよ!」 

粗斗の父親「DVってそんなもんだろ」

   父親が粗斗を見下す。

粗斗「そんな…」

粗斗の父親「なんだ、お前も殴っても欲しいのか?」

   粗斗が父親を睨みつける。

粗斗「ぼ、僕が代わりになるから! だから母さんを殴らないで!」

粗斗の父親「いい根性してんな」

   粗斗の父親が粗斗を殴ろうとする。粗斗は歯を食いしばる。

粗斗の母親「やめてください! 粗斗には手を出さないで!」

   母親が父親に土下座をする。

粗斗の母親「私はいくら殴られてもいいので! 粗斗だけは!」

粗斗の父親「だから、サンドバッグは喋んなって」

   父親が粗斗を蹴り飛ばし、母親の頭を踏みつける。

   粗斗の近くに落ちているナイフを見つける。

粗斗M「コイツがいなければ…」

   粗斗がナイフを握る。

粗斗M「僕が、コイツを殺せば…!」

   粗斗がナイフを強く握り、ゆっくり父親の方に歩いていく。

粗斗の父親「ほら、もう一回言えよ」

粗斗の母親「す…すみません」

粗斗「やめろー‼︎」

   父親が振り向き、粗斗が父親の腹部にナイフを刺す。

粗斗の父親「お…まえ」

   ナイフを抜こうとしている粗斗の父親。

粗斗「お前がいなければ!」

   粗斗はナイフを深く差し込む。

粗斗の母親「粗斗! やめて!」

粗斗「あぁぁー‼︎」

   粗斗が父親の腹部に何度もナイフを刺す。

粗斗「死んじゃえ」

   父親が吐血する。父親が腹部に刺さったナイフを抜こうとしている。

   粗斗は父親にナイフを再度深く刺し込む。

粗斗の父親「この…人殺しが…」

   父親が倒れる。粗斗が血まみれのナイフを強く握ったまま立ち尽くす。

粗斗「かあ…さん…」

   粗斗が母親の顔を見る。母親が恐怖に染まった顔をしている。

粗斗「母さん…僕。人を…父さんを殺しちゃった…」

粗斗「人…殺し。僕は人…殺し」

   母親が粗斗と死んだ父親を見て、気を失う。

粗斗「母さん…母さん!」


○(回想終わり)訓練場(昼)

   粗斗が目を覚ます。

粗斗「…母さん…」

   京香に膝枕されている粗斗。

京香「やっとお目覚めですか」

粗斗「京香…か」

粗斗「なんで俺、膝枕されてんだ?」

京香「そーちゃんが暴走して倒れちゃったから」

粗斗「そっか、膝枕とかさせてごめんな」

京香「いいよ、私がやりたかったから」

   粗斗の頭を撫でる京香。

粗斗「ありがと」

京香「ねえ、トラウマを聞いてもいい?」

粗斗「…」

   沈黙する粗斗。

京香「いやなら、無理に、とは言わないんだけど」

粗斗「…聞いて欲しい」

   粗斗は体を起こす。

粗斗「俺さ、小三の頃に虐待をしてくる父親を殺したんだ」

京香「うん」

   優しい声で、返事をして聞いている京香。

粗斗「母さんを守るためだったとしても、俺は父さんを殺した」

粗斗「俺は人殺しだ。だから、母さんはあの時から目を覚まさないんだ」

京香「そーちゃんは、自分がしたこと間違ってると思う?」

粗斗「分からない」

京香「ならいいじゃん」

粗斗「でも、俺は人を殺した」

   粗斗は俯く。

京香「私なら、同じことをしてたと思う」

   粗斗の頭をなでる京香。

粗斗「え…?」

   顔を上げる粗斗。

京香「私は大切な人を守るためなら、父親だろうと、殺す」

京香「もちろん、そーちゃんを守るためなら、躊躇なく人を殺すよ」

   微笑みながら話す京香。

粗斗「京香には、人を殺してほしくないな」

京香「なら、そーちゃんが私を守らなくちゃね」

   粗斗も微笑み返す。

京香「そういえば、そーちゃんはどうして大会に出ようとしてるの?」

粗斗「優勝したら、なんでも願いが叶うって聴いたから」

粗斗「優勝して、自分のトラウマを全部消してもらおうかなって」

京香「トラウマを消してもらうために、トラウマを克服するって、なんか可笑しいね」

   京香がフフと笑う。

粗斗「確かにな」

   粗斗も京香に釣られ、同じように笑う。

粗斗「京香のトラウマは?」

   京香は少し考えた後、指を唇に当てる。

京香「秘密」

粗斗「なんで教えてくれないんだ?」

京香「決闘の時にね」

粗斗「なんだよそれ」

京香「ほら、一休みしたしそろそろ再開しよ!」

   立ち上がる京香。

粗斗「俺、本当に克服できるのかな」

京香「私は信じてるよ。克服できるって」

   京香が粗斗を後ろから抱き締める。

粗斗「でも、刀を見ただけで暴走するって」

京香「そーちゃんはどうして刀が怖いの?」

粗斗「どうして…」

京香「刃物で父親を殺したから?」

粗斗「分からない」

京香「きっとそーちゃんは」

京香「刀は人を殺すモノと思ってるからだめなんじゃないかな?」

粗斗「どういう…」

京香「刀は人を殺す道具じゃないと思えばいいんじゃない?」

粗斗「でも、どうやって…」

京香「簡単な話だよ」

粗斗「簡単?」

   眉を顰める粗斗。

京香「私を守るために、刀を使えばいいんだよ」

粗斗「守るために…」

   下を見つめる粗斗。

粗斗「でも…」

京香「そーちゃんは、私を守ってくれないの?」

粗斗「守りたい! けど…」

粗斗「こんな俺じゃ、京香を守れない…」

京香「どうして?」

粗斗「トラウマをまともに克服できないし、それに」

粗斗「俺は、人殺しだから」

京香「そーちゃん」

   京香が粗斗の前に立つ。

   京香が粗斗の顔を両手で抑え、京香が粗斗をじっと見つめる。

京香「さっきも言ったけど、私はそーちゃんがやったことは間違ってないと思う」

京香「それに私は、そーちゃんが人殺しだとしても、好きなのは変わらない」

粗斗「京香…」

京香「もし、私が人を殺したらそーちゃんは私を嫌いになる?」

粗斗「そんなことない!」

   京香の手を掴む粗斗。

京香「でしょ? だから、私を信じて」

京香「そーちゃんならできる!」

粗斗「そ、そうかな」

京香「そうだよ! だから、がんばろ!」

粗斗「おう!」

   粗斗が立ち上がる。

京香「もう時間ないんだから、決闘の時間まで克服しよ」

粗斗「そうだな」


○同(夜)

   チャラ男と根暗な男が訓練場に入ってくる。根暗な男が黒いバッグをからっている。

チャラ男「時間になったが、俺のもんになる気になったかー」

京香「そんなのなる訳ないでしょ」

根暗な男「プライドが強い方が堕とすの楽しい」

チャラ男「だな」

「で、克服はできたのか?」

粗斗「まだ…」

チャラ男「なんだよそれ! 負け確じゃん」

チャラ男と根暗な男はクスクスと笑う。

粗斗「まだ、確定じゃない」

チャラ男「あ?」

粗斗「決闘が終わるまでに克服すればまだ大丈夫」

京香「そんなの、無理に決まってんだろ」

チャラ男「今まで克服できなかったカスが、そんな簡単にできる訳ねえだろ」

京香「できるよ。そーちゃんなら」

粗斗「…ありがと」

根暗な男「いいから、早く始める」

京香「ルールは相手の紋章を二つ破壊した方が勝ち」

根暗「それと、戦闘不能か、降参した方が負け」

チャラ男「始めようか!」

   根暗な男がバッグから長い鞭とガラス板を取り出す。

   根暗な男がガラス板を鞭で打って割り始める。

   京香は腰につけていたホルスターからハンドガンを取り出す。

粗斗「銃…」

京香「うん。嫌いになった?」

粗斗「いや、かっこいいよ」

京香「ありがと」

チャラ男「さぁ、始めるか」

京香「いい? そーちゃんが克服できるまで、私が時間を稼ぐ」

京香「アイツらの攻撃を全部防ぐから、そーちゃんは克服することに専念して」

粗斗「わ、分かった。頼む」

チャラ男「じゃー、開始!」

   京香は、根暗な男とチャラ男に数発銃弾を撃ち牽制する。

粗斗M「俺が、克服しないと京香が…」

粗斗M「絶対に克服する!」

   粗斗は震えながら刀を持ち、深呼吸する。

粗斗「…俺ならできる!」

京香「そうだよ!」

「殺さず、痛ぶってやろうぜ」

   チャラ男が割ったガラスの破片を飛ばしてくる。そのガラスの破片を京香が銃で撃って、粉砕していく。

   隙ができた京香に根暗な男が鞭で京香の脚を打つ。

京香「いっ!」

   膝をつく京香。

粗斗「京香!」

京香「大丈夫だから! そーちゃんは克服に集中して!」

粗斗「わ、分かった…」

   膝をついた京香にチャラ男がガラスを飛ばし、服を切っていく。

   ガラスの破片の切り傷が増えていく京香。

チャラ男「全裸になっちまうぞー!」

   チャラ男がギャハハと笑っている。

京香「そんなんじゃ、私には勝てないよ」

   切り傷が治っていく京香。

チャラ男「へー。なら、ちょっと痛い目に合ってもらおうかな」

   根暗な男が京香の脚めがけて鞭を打つ。鞭を避けていく京香。

   ガラスの破片を京香に全部飛ばす。

   銃弾でガラスの破片を消していくが、数が多すぎて間に合わず、横に避ける京香。

   避けた京香に尖ったガラスが飛んでくる。

京香「あ…」

   避けきれず、京香の腹部にガラスが刺さる。

粗斗「京香…!」

   京香が倒れ込む。

粗斗「お前…!」

   粗斗の刀から黒いオーラが溢れてくる。

   黒いオーラが粗斗を一気に飲み込む。

粗斗「あぁぁー‼︎」

   粗斗が目にも止まらぬ速さで、チャラ男の前に現れる。

チャラ男「…⁉︎」

粗斗「お前は、殺す」

   粗斗は素早く、チャラ男の心臓を貫く。

根暗な男「うわぁぁぁ‼︎」

   傷が治り、起き上がる京香。

京香「そーちゃん…だめ!」

   ゆっくりと根暗な男に近づく粗斗。

根暗な男「ち、近づくな!」

   鞭で粗斗を打つが、粗斗は刀で鞭を切る。

   京香は飛び起きて粗斗に抱きつく。

粗斗「…う…うう」

京香「トラウマに飲み込まれちゃダメ!」

京香「そーちゃん! 帰ってきて!」


○真っ暗な空間(夜)

   血まみれの手で刀を握っている粗斗。

粗斗「あれ、ここは?」

   粗斗の目の前に粗斗の小さい頃の姿をしたトラウマが現れる。

トラウマ「ここは、君の心の中。そして僕は、君のトラウマ」

粗斗「小さい頃の、俺…」   

粗斗が自身の手を見て驚く。

粗斗「な…なんなんだこれ⁉︎」

トラウマ「君はまた、人を殺したんだよ」

   粗斗がトラウマをみる。

粗斗「また…人を殺した…」

トラウマ「そうだ、君はまた人を殺した。二回も」

粗斗「そんな…」

トラウマ「あの時、父さんを殺さなくても、他の方法があったかもしれないのに」

トラウマ「君は、殺したんだ」

粗斗「他の方法があったかもしれないのに…俺は…」

粗斗「父さんを殺したんだ…」

粗斗「そうだよ、君は間違いを犯したんだ」

トラウマ「ねえ、君はなんで生きてるの?」

粗斗「なんでだろ」

トラウマ「君が生きてるから、お母さんは目を覚まさないんじゃないの?」

   京香の声が少しづつ聞こえてくる。

京香「…ちゃ…!」

粗斗「そうだ、俺が死ねば」

京香「ちゃん…!」

粗斗「俺が死ねば、母さんは起きてくれるのかな」

京香「そー…ちゃん…」

トラウマ「もういっそ、死んじゃえば?」

トラウマ「楽になりたいだろ?」

粗斗「楽に……」

京香「そーちゃん!」

粗斗「京香…ごめん」

京香「死んじゃダメ!」

粗斗「でも、また人を殺して…」

京香「だから何! そーちゃんは私を守るためにやってくれたんでしょ!」

京香「私は守ってくれて、嬉しかった!」

粗斗「京香って、本当に優しいよな」

   少し微笑む粗斗。

粗斗「こんな俺のために」

粗斗「でも、いいんだ。俺が死んだら、母さんが起きてくれるかもしれないから」

京香「なんでそうなるの!」

粗斗「俺が死ねば」

   目を瞑る粗斗。

京香「トラウマに呑み込まれないで!」

粗斗「母さん…」

京香「そーちゃん目を覚まして!」

トラウマ「そうだよ。君が死ねば、母さんは起きれくれる。君も楽になれる」

トラウマ「ほら、やり方は分かるだろ」

   トラウマが刀を粗斗に渡す。

粗斗「刀を…」

トラウマ「あの時父さんを刺した時みたい」

粗斗「お腹に…」

   刀をお腹に刺す粗斗。


○訓練場(夕方)

   粗斗に抱きついている京香。刀が京香に刺さっている。

   目を覚ます粗斗。

粗斗「…これで……⁉︎」

   京香の背中に刀が刺さっていることを気づく粗斗。

   その場でゆっくりと倒れていく京香。

   焦る粗斗。

京香「やっと、目を覚ました」

粗斗「どうして…」

青ざめた顔でいる粗斗の頬を叩く京香。

京香「よく聞きいて! そーちゃんがやったことは間違ってない!」

粗斗「でも…別の方法があったかも」

京香「確かにあの時、そーちゃんは間違いを犯したかもしれない!」

京香「他に方法があったかもしれない!」

京香「けど、私は間違いだとは思わない!」

粗斗「でも…」

京香「現に、そーちゃんのおかげでお母さんは助かったじゃない!」

粗斗「僕が父さんを殺したから、母さんは目を覚まさないんだ」

京香「それでも、そーちゃんは間違ってない!」

京香「たとえ誰に何を言われても、私はいつまでもそーちゃんの味方だから」

   微笑みながら粗斗に抱きつく京香。

粗斗「どうして…そこまで」

京香「だって、私は。そーちゃんのお嫁さんだから」

京香「夫を助けるのは嫁の仕事でしょ」

粗斗「でも……」

京香「だっても、でももない! 誰に何を言われても私はそーちゃんを肯定し続ける」

京香「その刃物で人を傷つけたと思うなら、今度はその刃物で私を守ってよ!」

京香「嫁を守るのがそーちゃん。夫の仕事でしょ!」

京香「嫁だけ残して、勝手に死ぬなんて許さないんだからね」

京香は刺さった刀を抜く。すると、京香の傷が瞬く間に治っていく。

粗斗「傷が…」

京香「私なら大丈夫だから」

粗斗「…刀を使って、俺は、京香を守る!」

粗斗「あの時の自分が嫌いだった。でも、あの時の自分は間違いじゃない。そう京香が言ってくれるから!」

   粗斗が刀を握り、ゆっくり瞬きをする。

粗斗「この武器(トラウマ)は京香を守るために使う!」

   一瞬で粗斗は根暗な男の紋章を真っ二つにする。

京香「トラウマ克服、おめでと」

粗斗「迷惑かけて、ごめん」

   深く頭を下げる粗斗。

京香「私、謝れるより、感謝される方が好きなんだけどな」

粗斗「ごめん。ありがとう」

   二人は笑い合う。

   粗斗の携帯に病院から電話が来る。

粗斗「もしもし…」

   医者から母親の意識が戻ったと言われる。

粗斗「…⁉︎」

   目を見開く粗斗。

京香「どうしたの?」

粗斗「母さん…意識戻ったって」

   携帯が手から落ちる。

京香「よかったね!」

粗斗「…よかった」

   電話越しに声が聴こえてくる。

粗斗の母親「…そ…と。ありがと…」

粗斗「う…ん」

   電話を切る粗斗。

京香「さぁ、これからよろしくね! 旦那さん」

粗斗「ああ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メモリープレイヤー GARAHIくホ心京ハeu(がらひくほみ @such

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る