第11話


 次の日、案の定マルクスは二日酔いになっていた。

 重い頭に鞭打って執務室へ出勤する。

 アルバートはめずらしくもう出勤しており、「おはよう」と笑顔で挨拶してくる。

 マルクスは平常通りにしようと務めるが、二日酔いもあり中々仕事がはかどらない。


「どうした?具合がわるそうだが。」


 アルバートの問いかけに


「いや、大丈夫だ。問題ない。」


 そう答えるが、実は全然大丈夫じゃない。頭はいたいし、吐き気もする。


「マルクスは二日酔いなんだよ。相当具合が悪いはずだよ。」


 ルドルフのくっくっくとこらえるような笑いがドアの側から聞こえる。


「ルドルフと一緒に飲んだのか?」


「ああ、昨日は強い酒をしこたま飲んでいたから、相当なダメージだと思うぞ。

 今日はムリしない方が良いかもな?」


 そう言ってルドルフはニヤニヤと笑う。


「マルクスにしては珍しいな。相当具合が悪そうだ。今日は戻って休んだらどうだ?

 特別急ぎの仕事があるわけでなし、ゆっくり休んでも大丈夫だろう。」


 自分の主に余計な心配をかけてしまった。

 今日の二日酔いはさすがに厳しい。俺は甘んじてその言葉を受け入れる。


「すまない。この借りは必ず返す。」


 そう言うと、机の上をまとめて帰り支度をする。


「気にするな、しばらく休みらしい休みもなかったから。ゆっくり休んでくれ。」


 アルバートはいつも通りの笑顔でそう言った。

 まるで、昨日のことがなかったかのように。


 そう、昨日のあれは彼の中では特別なことではなかったのかもしれない。

 自分だけが気にしているのかも?

 そして、このまま時が流れて王妃の茶会の後、二人は・・・


 ドクンと鼓動が大きくひとつ鳴る。


 息が苦しくなる。自分でもどうして良いかわからない。そんな感覚がずっと続いている。

 今はアルバートの顔を見るのもつらい。


 身体に鞭打って執務室を後にしようとした時、


「マルクス、あまり無理をするなよ。」


 背中から声がする。

 俺は振り返らずに「すまない。」かすれた声で答えながら室を後にする。


 ふらつく足を引きずるように廊下を歩く。

 すれ違う文官や女官たちに怪訝そうな顔で見られる。

 そんなに酷い顔をしているんだろうか?と思いながら馬車置きまで歩を進める。


 馬車に乗り邸へ向かう道中、王都の街を進む中町ゆく人の姿を眺めつつ、最近のことをぼんやりと考えていた。

 なぜこんなことになったんだろうか?

 元々は自分が余計なことをしたことが原因だ。なんでそんなことをしてしまったのか?

 考えても、考えてもわからない。魔が差したとしか思えないのだ。

 アリーシャともそれなりにうまくいっていたと思う。

 もう今更なんだろうか?

 彼女の気持ちはアルバートの元に移ってしまったのか?


 そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。




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