第7話

 あの茶会の席から1か月が経とうとしている。その間、距離をおきたいという彼女の言葉の通り、連絡はせずに事態を静観していたが、約束通りアルバートとアリーシャは手紙のやり取りをしていた。

 1か月の間で10通。ほぼ1週間に2回の割合だ。

 これはもう、なんていうか、恋人同士でもこんなに手紙をやりとりするものなのだろうか?


 アルバート宛ての手紙を管理するのも側近である俺の仕事だ。

 今日の手紙の中にアリーシャからの物が含まれているのを確認できた


「あ、アリーシャ嬢からの手紙だ。」


 花の絵の描かれた薄い桃色の封筒を手に取り、ペーパーナイフで嬉しそうに封を開ける。

 その姿は恋に浮かれた人のそれである。

 読むにつれ段々と笑顔が険しくなってくる。なにかあったのだろうか?


「手紙のやりとりも頻繁なようだが、どうなんだ?順調なのか?」


 それとなく聞いてみるが


「どうなんだろう?別に普通じゃないか?」


 いや、聞きたいのはそんな答えじゃないんだよ。もっと具体的な事が聞きたいんだよ。と思うが、仲介役を買ってでた手前そんなことも聞けるわけもなく。

 するとドアの前から「ブフフ」と笑い声が聞こえる。




「アル、マルクスはもっと具体的な事が聞きたいんだよ。手紙の内容とか、二人の仲がどれくらい親密になったのかとかさ。

 まったくいい加減素直になればいいものを。」


 ドアの前で警護をしていたルドルフがニヤニヤした顔で口を挟んでくる。


「いや、そういうわけではないが。仮にもまだ婚約者ではあるし、ハミル家からもなんの音沙汰もない。距離をおきたいと言われた以上、こちらから動くのもどうかと思ってな。」


「ふ~ん。いくら距離をおきたいって言われたってさあ、ここは男から謝罪するべきなんじゃないの?仮にも婚約者なんだし。もし婚約解消するにしたってわだかまりは残さない方が良いだろうしねえ。」


 壁に寄りかかりながら腕を組み、さも偉そうに忠告してくるルドルフだが、いや、まったくその通りでぐうの音も出ないとはこのことだと感心した。

 

「実はアリーシャ嬢からの手紙は、庭園の薔薇が満開だろうから案内してくれないかという内容だったんだ。さすがにどうしたものかと思ったけど、、、マルクスと一緒なら大丈夫な気がするんだが?どうだろう?」


 そう言ってまっすぐな目で俺を見てくる。もう、こいつの中では答えは出ているんだろうに。


「そうだな。俺が側にいれば周りの目も大丈夫だろう。庭園を散策した後、お茶にすれば問題ないんじゃないか?」


 アルバートの欲しい答えを出してやるのも側近の務めだ。


「そうだな。わかった。じゃあ、そのようにアリーシャ嬢に返事を書くよ。

 協力ありがとう。マルクス。」


 嬉しそうに机に向かい、さっそく返事を書き始める姿にもう何も言う事はできない。


「おいおい、本当に大丈夫なのか?俺は知らんぞ。」


 ルドルフが相変わらず上から目線で何やらつぶやいている。

 ま、なんとかなるだろう?そんな風にその時の俺は考えていた。




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