彼方よりきたりて

伊南

プロローグ

「貴方は王立学院に行ってはならない。その先の生を平穏無事に過ごしたいと望むなら、決して行っては駄目」


 ――昔、夢の中で見知らぬ少女に言われた言葉。

 顔ははっきり覚えていないけれど、艶やかな黒髪は今でも印象に残っている。

 当時は何を言われているのか判らなかった。

 何故学院に行ってはいけないのか。

 学院に行ったら何が起こるのか。

 そもそも少女は何故それを知っているのか。

 当然僕はその疑問を少女にぶつけた。

 少女は少し困ったように笑い、間を置いてから口を開く。


「今はまだ言えない。……正直なところ、貴方とこうして話していることすら、本当は駄目なことだから」

 自嘲気味に笑った後、少女は言葉を続けた。

「でも、私は貴方を助けたいの。……この先、貴方が受ける……理不尽な事の全てから貴方を守りたい」

 そう話す少女からははっきりとした決意がうかがえる。……僕は何も言えず小さく頷く事しか出来なかった。


「……有り難う」

  ふわりと笑うような少女の声。

「貴方が完全に大丈夫だと確定したらまた会いに来るわ。その時に全てを話すから、今は何も聞かずに言うとおりにしてほしい」

 少女がそう言った後、少女と世界がぐにゃりと歪む。

「……ここまでね」

 歪む世界の中、少女の声だけがその場に響いた。


「最後にひとつ。――には気をつけて」


 一部が聞き取れず、もう一度言ってもらおうとしたが歪んだ世界は一気に反転して何も見えなくなった。


 ……何年も前に見た、不思議な少女の夢。


  その夢を思い返しながら、僕はゆっくりと歩みを進める。

 そうして僕は――由緒ある王立学院の大きな門をくぐった。

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