第10話淫紋は下腹部にあるのがよく似合うと思う

 ーーリンカ目線ーー

 

 お婆様のエ〇触手に襲われて気を失ってしまっていたみたい(悶絶)。

 意識を取り戻すと無機質で冷たい匂いのする部屋にいて上を向くと、天井には明かりが点灯してる。

 起き上がろうとすると両手両足が痛くなる。

 その瞬間、アタシは自分がベッドに固く縛り付けられたことに気づいたわ。

 腕を引っ張り、足を引っ掛け、色々試したけどすべてが全然無駄。

 完全に自由を失ってる。

 部屋の奥から近づく足音を聞きこえて、見覚えのある、どころか親族であるその人に私は激高しながら尋ねる。


「お婆様! マサに何をしたの!?」


「奴の記憶はわっちの術式でそのほとんどを封じ込ませてもらった。 案ずるな。 我が一族の婿にふさわしくなければリンカ。 お主に関する記憶だけ封じて術式は解除してやるつもりだ」


 ここはアタシ達が通う高校内にある隠し地下ラボの一室。

 机や本棚がぎっしりと並び、何かしらの実験器具が机の上に散らばっている。

 微かに香る薬品の匂いが漂っていて、慣れない雰囲気に不快感が募ったわ。


 人間の様な見た目だけど、お婆様やアタシはいわゆる妖狐の一族。

 お婆様に至ってはアタシより小さな見た目だけど一体どのくらいの年月を生きていらっしゃるのかは本人すらも曖昧みたい。

 アタシ達妖狐の一族は元々のスペックは人間とほぼ変わらない。

 人間の劣情を取り込む(?)事で妖狐はその法力を高めていく。

 お婆様も多くの劣情を取り込むことで(??)法力を高めて今では日本社会を裏で一大勢力を築き上げている方。


燐火りんか。 お主も既に齢は十五を迎えている。 婿を迎える準備をする時が来たのだ(日本の法令とは違いまして)」


「……わかってるわお婆様。 でもマサを婿になんか迎えさせない……アタシの婿になるなんてマサにとって残酷すぎる事だから」


 アタシが妖狐だからじゃない。

 マサの愛は超重いけど、アタシを誰よりも愛してくれている事なんてとっくにお腹の底まで理解してる。

 きっとアタシが人間でなくてもちっとも気にしないと思う。

 でも、マサがアタシと夫婦になるという事はマサの気持ちを置き去りにして一人ぼっちにさせてしまう事。

 そんなのは……イヤ。(リンカの愛も大概重いです)


「そんな顔をするな燐火りんか わっちも女じゃ。 お主の気持ちはよくわかる。 愛しき者を想いながら別の人間の劣情を取り込むのは辛かろう。 そこでわっちの術式でそなたの下腹部に淫紋を埋め込んでおいた」


「淫紋?(なんか嫌な予感がするわね)」


「うむ。 今宵の満月が一番輝くときにその淫紋が薄紅色から劣情を表す薔薇色に光輝く。 そうなればお主は想い人のことなど忘れて劣情を取り込む完璧な妖狐となる。 バンバンザイというわけじゃ」


「想い人を忘れる!? マサの事を忘れて劣情妖狐として生きていくってこと!? サイアクじゃない!?(このババアぜんぜんわかってねぇー!)」


 全くありがたくもないタダの迷惑なんですけど!

 なんでちょっと『しきたりだから仕方ないけどグッジョブじゃろ?』みたいな顔してんのよ!?

 長く生きすぎてボケちゃったとかいうレベル越えてるわ!

 完全に倫理観ぶっ壊れちゃってるじゃない!


「イヤ……やめてババ……お婆様……アタシ約束したの。 マサがアタシを忘れてもアタシだけはマサを忘れないって。 マサを忘れてしまうくらいならマサを想いながら別の人の劣情を取り込む方が何倍もマシ……お願いババア」


「ババア呼ばわり隠すなら最後まで隠さぬか。 ふむ。 しかし淫紋は仕込んでしまったしのぅ」


 いや、だから仕込む前に少しは相談しろよこのババア。

 一族を繁栄させつつ、龍の末裔である紅龍ホンロンすら凌ぐ法力の持ち主であるババアは完全なワンマン経営者。(紅龍ホンロンのエネルギー波がクソソソくらいならババアはフ〇ーザくらい)

 勝手に先走って行動して尻拭いを紅龍ホンロンに任せることも少なくないとか。


「ならばもう一つの可能性に賭けてみるがよい。 貴様の想い人が見事わっちの術式と劣情を克服し、お主を見つけ出して『ある事』をすれば淫紋は完成せぬ。 が、淫紋が完成すればお主は完璧な劣情妖狐。 二度と想い人を思い出すこともあるまい。 どちらにしろお主にはここでおとなしくしていてもらう」


 そう言ってババアは身を翻して部屋を出ようとする。

 しかし言い忘れたとばかりにくつくつと笑い始めると。


「ああそうじゃ。 気を付けた方がいい。 その淫紋はお主の劣情を煽るようになっている。 さながら感度3000倍有名な改造手術といったところじゃ。 もし満月を前にその劣情に身を委ねても淫紋は先に完成してしまうので気をしっかりと保つがいい」


 そういってババアは部屋を後にする。

 いわれて気づく。

 確かに今のアタシは衣服のこすれどころか呼吸するだけで、想像を絶する快感が全身に響きわたる。

 なのに両手両足を縛られて、劣情を解放する手段がないアタシは艶っぽい吐息を吐き出しながら、もじもじと股を閉じたり開いたりするぐらいしかできない。


「くっ……ぅ……」


 矯声のような吐息を吐きながら自身に起こる劣情を抑えようとしても快感がとめどもなくあふれ、興奮状態が続き更に劣情を催してしまいそうになる。

 それでもアタシは耐える。


「マサぁ……助けてよぉ……リンカ……マサの事忘れたくなぃ」


 一人でべそをかきながら劣情に耐える事しかできなかったけど……


 ーーいっぽうその頃、正彦はーー


「起きろ」(バケツ水バッシャーン!)


「う……」


 またもホンロンにバケツ一杯の水を容赦なくぶちまけられて、冷たい水が体中にしみわたる。


「ここは……?……制服を着た状態で"俺"の目の前でブラを外して誘惑してくるギャルは……どこに……?」


「趣向は楽しんでもらえたようだな」


 一体何度目だ?

 ゲーミングチェアに手足を縛られて相変わらず身動きのとれない俺。


「ふんっ。 大したやつだ。 これほどまでにVRの劣情に耐える奴は我ら異形でも少ない。 やはりオレの秘蔵『おばば様が軽蔑した視線で足蹴にしてくる』シチュをみせねばなるまいか」


「やめろ……そんな事をしても無駄だ。 俺の要素テリトリーはメスガキだ……ロリババアに趣味はない……(似て非なるもの)」


「ほう。 劣情に抗うだけでなく己も取り戻しつつあるとは本当に大したやつだ。 だがむしろ自我を取り戻しつつあるのが仇となったな」

 

 幸福なシチュエーションに耐えかねて、息も絶え絶えな状態の俺にホンロンは追撃の手をまったくゆるめない。

 ホンロンの意図が読めた俺はこれ以上VRを体験させないように懇願する。


「ま、 まさか……やめろ……後生だ。 それだけは! !」


 記憶はまだ完全に戻っていない。

 むしろ俺の最も大事な部分にこそプロテクトがかかっている感じだ。

 だから、今だからこそ危険なんだ。

 記憶があいまいな状態だからこそ俺は……俺のもっとも大事なものに劣情を催してしまう。(普段からです)


「『三人の大好きな幼馴染とただれた劣情関係を持ってしまった』シチュだ。 たっぷりと楽しむがいい」


 ホンロンは容赦のない男だった。

 表情を変えずに再度俺にVRゴーグルを装着してくる。


「や、やめろ!!! 頼む! ゴーグルを外してくれ!(どきどき)」


 ゴーグルを装着されて俺の脳内に直接飛び込んできた映像それは。

 爆乳系幼馴染とスレンダー系美人幼馴染とちっぱい系生意気幼馴染が下着姿で誘惑してくる光景だった。


 その光景がもはや俺には現実なのかVRなのか区別がつかず、桃源郷の果てにたどり着いた感覚に襲われて俺は絶叫する。

 

「ぐ、ぐわあああ!(うわわあ。凄いなぁ)」


 とにかく凄かった。

 その時の俺には名前も思い出せない大切な幼馴染が大ピンチなことに気づくことすらできなかった。


 ーー劣情VR中のできごと?ーー


「まー君、そんなに踊ってるとご飯こぼしちゃうぞ」


「僕はおいしいと踊っちゃうんだよ!」


「父さんが作ったチャーハンなんてべちゃべちゃだろ? そんなにおいしいかなぁ?」


 VR地獄無限月読の果てか?

 ガキの頃の俺と……父さんだ。

 

「お父さんも早く食べてよ! おいしくて絶対に踊っちゃうよ!」


 普段仕事であまり会うことのない父さんが休みの日に作ってくれたチャーハンが嬉しくて、俺はハイテンションに両腕をぐるぐると回転させてそのおいしさを表現していた。

 今の俺の料理と比べたら父さんのチャーハンは確かにべちゃべちゃだった。


「父さんは別に自分でつくったチャーハン食べたって踊らないよ……もぐっ……む!?」


「お父さん?」


 そういってスプーンを口にいれた瞬間父さんは両腕をぐるぐると回し始めて踊り始める。


「おいしーーー! なんてね!」


「きゃははは!」


 そのわざとらしい様子を見たガキの俺はけたけたと笑っている。

 

 ノリが良くて、いつも俺の前ではニコニコ笑っていて、俺を楽しませようと真剣で。

 身体があまり強くなくて、よく入院を繰り返したりする割に仕事も忙しくする父さんは家に居ることが少なかった。

 

 だから、俺も父さんが家にいる間は父さんを楽しませたくて必死だった。


「お父さんのそーいうノリ、 マー君は本当に大好きねぇ」


 母さんもニコニコと食卓へ顔を出してきた。

 でも、母さんは父さんがつくったチャーハンを食べないでコンビニかなんかで買ったパンを食べていた。

 

「だってお父さんズルいんだよ。 僕が笑うまでしつこくネタを繰り返したりするから、しょうがなく笑ってるんだよ」

 

 強がってるけど、俺は父さんがグラビアアイドルの劣情ポーズとかしただけで大爆笑しただろう。

 「どこに劣情があんねん!」的な感じで。(どんな子供だよ)


「まー君を笑わせるなんざ、超かんたんよ! なあああーーー!?」


 当時は元ネタに気づかなかったが、そうやってエシデ◯シみたいな変顔を披露されるだけで俺は大爆笑だ。

 笑いすぎてゲホゲホとむせている。

 俺にとっちゃ最高に幸せな時間だった。


 その夜、俺が眠ったと思って母さんが父さんに話してる内容を聞かなければ。

 金切り声が聞こえてきて俺は子供部屋から二人の様子を隠れて覗き見る。


「私の方が幼稚園の送り迎えもしたし、お弁当だってキャラ弁勉強して作ったし、あの子が熱をだしたら病院に連れて行って、毎晩寝かしつけて、 勉強だって見てあげてるのに、あんたなんて、 たまに家に帰ってきたらあの子にいい顔みせるだけで……私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が私の方が―ーあの子のために! なのに! なのに!」


 忘れたい。

 大好きな人の歪んだ表情だ。

 思い出したくもない。


「なんでいっつも『お父さん』なのよ! 私だって……あの子のために……」


 大好きな母さんの泣き叫ぶ顔が俺には恐ろしくて。

 なだめようとする父さんの腕を払いのけてなおも叫ぶ母さん。

 

 俺は別にそんなつもりなかった。

 ただただ二人に愛されて幸せだったんだ。


 わかってる。

 父さんは俺を選んでくれなかったんじゃなくて、母さんが心配だったんだろ?


 二人は幼馴染で結婚して、いつも一緒にいるのが当たり前だったはずなのに離婚して幼馴染にも戻れなくなった。

 両親の関係を壊したのは……俺だ。

 

 だから、恋愛の果てにある、劣情の果てにあるが俺にはひどく恐ろしい。


『私も正彦に会いたくて……正彦と添い遂げるために生まれてきたの……』

 

 〇〇。

 わかっているのか?

 そんな綺麗ごとだけじゃないだろ?

 

 俺はお前と、本当に生涯いっしょにいたいんだ。

 

『うぇぇん……マサごめんねぇ!……〇〇はマサとずっと一緒にいたいからぁ!』


 〇〇。

 俺だって、俺だってずっと一緒に居たいんだ。


 お前たちに劣情なんて抱きたくないんだ。(ホントか?)


『いいじゃんか! 〇〇ちゃんがいるから俺はいいんだよ!』


『ん……?……うん……』


 〇〇。

 何か隠してるよな?

 最近ぜったいおかしいだろ。

 なんで誘惑してくるようになったんだよ?(劣情しちゃう)


『……なぁ。 最近……さ。 なんで俺の前でスカートはくんだ?』


『そういうの彼女ができた時には言っちゃだめだよ。 ほめてあげなきゃ』


 やっぱりそうなのか?

 俺のそばにいれなくなるのか?

 そんなこと、そんなの俺は絶対に―ー


 自分勝手なことは百も承知だ。

 それでも、それでも俺はお前たちとずっと一緒にいたいんだ!

 だから俺はお前たちにだけは……絶対に劣情を催さない!(この先もわりとすぐに催します)


 だから!


『そのうえで婿として我が一族に引き入れる』


 断る!

 俺は絶対に幼馴染達と添い遂げてみせる!(家族的な意味で)


 ーー劣情VRの果てにーー


「マサ……ヒコ……! マサ……!」


 誰だ?

 俺の名前を呼ぶのは?


 ひどい悪夢を見ていたような気分だ(大概はエ〇VRでした)

 全身がけだるくて目を開けるのも億劫だ。

 それでも聞き覚えのある、その声に導かれて俺は瞼を開く。

 目を開いた俺を待つ存在、それは。


「助けに来てやったぜ? 正彦くん?」


 そう言ってそいつはゲーミングチェアからの拘束を外してくれた。

 季節外れのタンクトップがよく似合うぶっとい腕。

 いつもは下世話に見えた笑顔が今日は光って見える、普通にしてれば割とイケメン。


 イク男親友だった。


 イク男ありがとう。

 俺が女子TSだったらうっかりお前に寝取られていたかもしれん(?)

 でもね、ホントは、ホントはね。

 幼馴染に助けてほしかったんだよーん!


 だが、VRを見せ続けられた事で俺は自分を取り戻した。

 これから俺とイク男での最愛の幼馴染の救出劇がスタートする!

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