泡沫の夢戦※6/20まで不定期更新※

金森 怜香

序章


ああ、なぜ……。

なぜ、こんな結末になってしまったのだろう……。


呻き、頭を抱える。

そして、逃げるように酒を煽る。


やがて、彼の体は酒に蝕まれた。

病を得て、若いまま命を落とした……。


「おさらば、おさらばにございますな……」

一人、墓の前に立つ青年は笠を被り、そっとその場を絶つ。




時は二年前にさかのぼる。

青年は主家の命令もあり、伏見城へと攻め入ることとなった。


「はぁ……、気が乗らんのう」

「殿、そう言うものではございませんぞ」

若い当主に対し、厳しく注意をする家臣。

「宗永か……」

彼は宗永……、山口宗永に向かって杯を掲げる。

注げ、ということだ。

宗永は呆れたような顔をしながらも、仕方なく杯に酒を少し注いでやった。


宗永の近侍として、彼は付いてきていた。

「宗永、そやつは何者じゃ?」

「ああ、こやつは私の預かる兵でございましてな。殿とも歳が近く、話し相手にはもってこいかと。しかし、何分農民の出ゆえ、難しいことはわかりますまい」


彼は興味を示す。

「ふむ。お主、名は?」

「はっ。平蔵、と申します」

「平蔵か、良いな! これより、ワシの話し相手となってくれ」

「殿、私のような農民出のものでよろしいのでしょうか?」

「ワシの目に曇りがあり、不満と申すか?」

彼は不機嫌そうに言う。

だが、まだ刀を取って攻撃する腹積もりは見せていない。


「いえ、逆なのですよ」

「ほう、なぜ逆と申す?」

「殿のような位の高いお方が、私のような農民出の一兵卒を愛でてくださるというのは、恐れ多く存じる所存でございます……」

「そう申すでない。友となってほしいと思っておるのじゃが」

彼は恥ずかしそうに笑いながら言う。

「殿と……、お友達とは……! 身に余る光栄でございます!」

平蔵は無邪気に喜んでいる。

宗永は平蔵を視線でたしなめた。


「しかし、農民の民草も今はしかとした言葉遣いをたしなむのだな」

「違います、殿。私は宗永様からしかと教育を受け、このように丁寧な言葉、という物を使うことを覚えました。我ら農民は、生きることで精一杯の身でございまして、勉強、などという贅沢をできないのでございます」

「平蔵は特別に宗永が目をかけたと申すか?」

「左様です」

宗永は頷いた。

「殿の話し相手を務めたいとなるのなら、相応に躾けておくのが我が役目の一つと存じておりまする」

「うむ、それは十分行き届いておる様じゃ」

彼は満足そうにうなずいた。


平蔵は時折、彼に呼びつけされるようになった。

と言うのも、話し相手が欲しいという口実で呼び出されるのである。


平蔵は幸せな世なら幸せに思っていた。

しかし、迫りくるのである……。


大きな

 大きな

戦いの戦火が……!

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