泡沫の夢戦※不定期更新※
金森 怜香
序章
ああ、なぜ……。
なぜ、こんな結末になってしまったのだろう……。
呻き、頭を抱える。
そして、逃げるように酒を煽る。
やがて、彼の体は酒に蝕まれた。
病を得て、若いまま命を落とした……。
「おさらば、おさらばにございますな……」
一人、墓の前に立つ青年は笠を被り、そっとその場を絶つ。
時は二年前にさかのぼる。
青年は主家の命令もあり、伏見城へと攻め入ることとなった。
「はぁ……、気が乗らんのう」
「殿、そう言うものではございませんぞ」
若い当主に対し、厳しく注意をする家臣。
「宗永か……」
彼は宗永……、山口宗永に向かって杯を掲げる。
注げ、ということだ。
宗永は呆れたような顔をしながらも、仕方なく杯に酒を少し注いでやった。
宗永の近侍として、彼は付いてきていた。
「宗永、そやつは何者じゃ?」
「ああ、こやつは私の預かる兵でございましてな。殿とも歳が近く、話し相手にはもってこいかと。しかし、何分農民の出ゆえ、難しいことはわかりますまい」
彼は興味を示す。
「ふむ。お主、名は?」
「はっ。平蔵、と申します」
「平蔵か、良いな! これより、ワシの話し相手となってくれ」
「殿、私のような農民出のものでよろしいのでしょうか?」
「ワシの目に曇りがあり、不満と申すか?」
彼は不機嫌そうに言う。
だが、まだ刀を取って攻撃する腹積もりは見せていない。
「いえ、逆なのですよ」
「ほう、なぜ逆と申す?」
「殿のような位の高いお方が、私のような農民出の一兵卒を愛でてくださるというのは、恐れ多く存じる所存でございます……」
「そう申すでない。友となってほしいと思っておるのじゃが」
彼は恥ずかしそうに笑いながら言う。
「殿と……、お友達とは……! 身に余る光栄でございます!」
平蔵は無邪気に喜んでいる。
宗永は平蔵を視線でたしなめた。
「しかし、農民の民草も今はしかとした言葉遣いをたしなむのだな」
「違います、殿。私は宗永様からしかと教育を受け、このように丁寧な言葉、という物を使うことを覚えました。我ら農民は、生きることで精一杯の身でございまして、勉強、などという贅沢をできないのでございます」
「平蔵は特別に宗永が目をかけたと申すか?」
「左様です」
宗永は頷いた。
「殿の話し相手を務めたいとなるのなら、相応に躾けておくのが我が役目の一つと存じておりまする」
「うむ、それは十分行き届いておる様じゃ」
彼は満足そうにうなずいた。
平蔵は時折、彼に呼びつけされるようになった。
と言うのも、話し相手が欲しいという口実で呼び出されるのである。
平蔵は幸せな世なら幸せに思っていた。
しかし、迫りくるのである……。
大きな
大きな
戦いの戦火が……!
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