1%になりたくて
蒼(あおい)
第1話
原因不明の溜息に、振り回されて涙を零す。
薄暗い部屋の中で、誰にも聞かれないように、
僕は声を殺して、ただ独り、涙を零す。
喉が痛い。
心も痛い。
だが、僕は今、何故泣いているのか、誰の為に泣いているのか分からない。
溜息をつく度に、じわり、じわりと僕の瞳から涙が湧き出て来る。
湧き出た涙は僕の頬を伝って、横へと流れてゆく。
そして、僕の身体を覆っている毛布へと、涙は吸い込まれていく。
不規則な呼吸に、小刻みに肩を震わせながら……。
今日は、何か楽しいことがあったはずなのに。
声を出して笑った時間もあったはずなのに……。
僕は今、何故泣いているのだろう。
身体も、心も、段々と縮こまっていってしまうような感覚。
今にも剥れそうな鎧を身に纏って、
僕自身に入って来る全ての情報をシャットダウンしているはずなのに、
僅かな隙間から僕の耳元へ静かな雑音が入って来る。
ズキズキと痛む心臓を押さえながら、ただひたすらに泣いていた。
そんな時だ。
君は、いつもそう……
誰にも話していないはずなのに、
どこにでも居るような人間を演じきっていたはずなのに。
どうして……
どうして君には気付かれてしまうの?
スマホ画面に明るく映し出された
『大丈夫?』の文字。
その少ない文字数に、耐えきれず、抑えきれず僕は声を上げて泣いた。
それと同時に、君がここに居なくて良かったとさえ思った。
僕のこんな顔、絶対に見せられない。
見せたくない。
気付いてくれて、ありがとう。
でも、ごめん。
今は、その言葉に返せる言葉が見つからない。
…いや、探すことが出来ない。
僕の感情は、今、迷子なんだ。
君の優しさが苦しいくらい嬉しいのに、
僕は何も返すことが出来なくて、
笑っちゃうくらい、悲しいんだ。
間違えた言葉を選択して、君を悲しませたくない。
心配させたくないから、『大丈夫だよ』って、声を震わせて指で君へ送る。
ごめんね。今だけ嘘をつかせて。
ううん、きっと、もっと…
もっとたくさんの嘘を君についちゃうんだ。
僕が傷つくのは構わない。
でも、君には傷ついて欲しくないから。
君のためにつく優しい嘘なら、君は許してくれますか?
僕の脆い心に優しく差し伸べられた手に、触れたいと思った。
でも、それは夢かもしれないから。
僕の勘違いかもしれないから。
それならいっそ、勘違いのままでいい。
君の優しさを、思い出にさせて…?
僕の事は、君の思い出の中から消えていなくなっても、
君が幸せなら、僕も幸せだから。
友達の友達から聞いた、「忙しそうだけど、元気だよ」って、
君の今が聞けただけで安心するから。
当たり前の挨拶が、
当たり前のように言えない、情けない僕だから。
直接僕から君へ言えたらいいのに……
驚かないか?
変に思われないか?って、余計なことばかり頭で考えてしまうんだ。
『諦めろ』って、僕の中で誰かが囁いているようにも思うんだ。
その囁きに負けてしまう僕もそこにいるんだ…。
でも、ほんの少し…
ほんの少し欲を言うのであれば、
君の人生の1%の思い出になりたい。
忘れるか、
思い出せるかの、ほんの僅かな記憶でいい。
僕は、君の1%になりたいんだ……。
君の1%でいられるように、
僕はこれからも99%の偽善者を演じると思う。
だから、お願い…
その嘘にはどうか気付かないで……。
君が本当の僕を知ってしまったら、
僕は、君と今まで通りに接する事が出来なくなってしまう。
どう接していいのか、分からなくなってしまうだろうから…。
1%の僕を、見つけないで……。
1%になりたくて 蒼(あおい) @aoi_voice
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