ゼンダネ
そうざ
The Cause of Good Deeds
20XX年○月×日
今日の昼間、私は善い事をしました。
授業が終わり、いつものように電車に乗って、家の最寄り駅で降りました。
プラットホームから改札へ続く階段を下りようとした時、近くにサングラスをかけた男性がいました。三十代か四十代の人だったかと思います。
その男性は目が不自由のようでした。地面に杖を当てながらゆっくり歩いていたので、すぐに分かりました。
どうしてエレベーターを使わないのかなと思ったら、扉に貼り紙があって、今日は整備中とのことでした。この駅は度々こういうことがあります。
男性は手すりにつかまりながら階段を下り始めました。私はハラハラしました。最寄り駅の階段は長くてちょっと急なのです。男性は今にも転げ落ちそうな足取りでした。
周りには私の他に誰もいません。もともと利用客が少ない駅ですし、みんなさっさと階段を下りていってしまいました。
私は声を掛けるのをためらいました。どうしてなのか、自分でもよく分かりませんが、階段の上から見守るだけでした。
善いことをするのがこんなに大変だなんて、考えれば考えるほど不思議です。
早く下りきってくれないかなと思った矢先、男性がよろけました。なんとか手すりにつかまったものの、杖を落としそうでした。
その瞬間、私は階段をかけ下りていました。
そして自然に、大丈夫ですか、と声をかけていました。
私は、男性の手を取りながらゆっくりと階段を下りました。男性は何度も、ありがとう、と言っていました。
改札を出た後も、もう少し面倒をみようかと思いましたが、その人がもう充分だと言うので、お気をつけて、と言い添えて別れました。
私は今日、生まれて初めて善いことをしたような気がしています。人助けがこんなに気持ちいいなんて、これまで全く考えもしませんでした。
将来は人の役に立つ仕事に就けたらいいなと思いました。これからも勇気を出してもっともっと人助けをしたいです。
◇
20XX年○月×日
今日は某駅で女子高生に親切にして貰えた。
彼女は僕に手を添えてくれた。その温かさ、柔らかさと言ったら――勿論それが目的だった訳ではない。
いつものように下見をしておいたので、駅の構造は頭に入っていた。乗降客が少なく、長い急階段のある駅は恰好の舞台だ。
エレベーターが厄介だと思ったが、好都合な事に整備中だった。お陰で
ただ、今日はいつもにも増して善行人が現れないので、少々苛立ってしまった。全く世も末だと思ったが、世のため人のために必死に堪えた。自分から助けを乞うてはならない。レジェンド級の先輩方は絶対そんな邪道な事はしない。
それでも誰も声を掛けて来なかった。もう直ぐ階段を下り切ってしまいそうだった。わざわざ遠方まで足を運んだこちらの身にもなって貰いたいものだ。
いよいよ痺れを切らした僕は、仕方なくこけてやった。ここまでしないといけないとは、世の中は一体どうなっているのか。
待って待って待った末に、やっと善行人が駆け付けた。
もっと素早く行動するよう、助言をしてやろうかとも思ったが、使命がぶち壊しになるので必死に堪えた。善行の誘発は苦労が絶えない。
今後の予定だが、さすがに同じ手口を繰り返すと怪しまれるので、今度は車椅子に乗って段差がある場所をうろつこうかと思う。
いずれ高齢者と呼ばれる年齢になれば、もっと楽に善行種を仕掛けられるだろう。僕は老け顔だから、ちょっと老人のコスプレをすれば近いうちに実現は可能だ。
これからも一人でも多くの人に善行の快感を味わわせる為、勇気凛々、誠心誠意、頑張り続けたい。
◇
20XX年○月×日
本日、小生が改札口で眼を光らせていると、構内で善行が発生した。近頃、沿線に
善行魔の思惑に応えたのは、スカートの丈が短く、髪を染めてメイクもしている派手な女子高生だった。実に意外と言えば意外であった。
当初は歩きスマホで知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいて、言うところの
善行魔は業を煮やしたのか、
恐らくは
何れにしろ、善行は
非力な小生にはエレベーターを疑似整備中にする事くらいしか出来ぬ訳であるが、今後共、善行魔の一助と成れるよう、努力を惜しまず、常に勇気を秘めて貢献したいと肝に命じる今日この頃である。
この世が善行で満ち溢れん事を切に願う。
ゼンダネ そうざ @so-za
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