胡蝶の僕。

僕の夢はいつも、目が覚めるところから始まるんだ。

胡蝶の夢って言うんだったっけ?

だから目が覚める度にこれが夢なのか現実なのか少しだけ迷うことがある。

夢の中の僕と、こっちの僕、果たしてどちらが夢なのだろうか? と。

でも、その答えには確信なんて持てないが、いいや、そこに抱く疑問そのものが答えなんだ。

夢の中の僕は迷わない。


胡蝶の夢。

と言ったが、正に夢の中の僕は僕であって僕では無い。

さすがに蝶々だったりはしないが、そうだな……

夢の中の僕は煌びやかで楽園のように美しい世界で優雅に佇む可憐な女の子なんだ。

目が覚めると、いつも、喩えようもないほど壮麗な天蓋を見つめていて、優しく大切に見守られていることを感じる。

きっと彼女はとても愛されているのだろうな。


夢とは自分の心の奥にある本当の願いだって、昔どこかで聞いたことがある。

それなら僕は彼女のように、落ち着いた優美な世界を淑やかに闊歩し、安らぎと喜びに満ちたそんな暮らしをしてみたいのだろうか。

そうかもしれないな。

しかし彼女は名残惜しくも眠りにつく。


そして僕は目覚める。

目の前にはどこに行ってもうんざりするほどみすぼらしい天井が、吹けばびそうに頼りなく、いいや。それすらなくて野ざらしなんてこともある。

そして僕は迷うんだ。

夢だったら良かったのか、と。

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