お酒の力を借りまして~隠れイケメン陰キャの俺がお酒の力を借り、大学一の美少女な酒豪彼女が出来ました~

小鳥遊NEØ

お酒の力を借りまして。

 俺の胸は、今までの人生で1番といえる程に速く脈打っていた。


 「根明 陽華ねあか はるかさん。お、俺と付き合ってください!」


 この時俺は、人生で初めての告白をした。

 その時は考えもしなかった。

 まさか……

 ────こんな返事が来るなんてことを……


◇◇◇


────1年前


 大学入学の日。僕は、スーツを着て家を出た。僕は高校時代、所謂陰キャと言われる部類で友人などいなかった。彼女なんてのはもってのほか。大学こそは……と、思っていた時期もあったと思う。では、入学式に髪をセットして世間で言うところの大学デビューをしたかって? 結論から言おう。NOである。メガネをかけ、寝癖を治しただけの目元までかかる髪。それにスーツを着て入学式会場へと向かっていた。


 大学までの道の途中、1人の女性が駅で困っているのを見つけた。周りを歩く人々は無視を決め込んでいた。かくいう僕も、普段の僕なら絶対に無視する所。だが、大学生になり少し気持ちが昂っていたのだろう。僕は彼女のいる所に向けて歩を進めていた。彼女の前に立ち、僕は言う。


 「あ、あのっ! さ、先程から困っているように見えたのですが、ど、ど、どうしたんですか?」

 (……めっちゃキョドったー。絶対変なやつだと思われたやつだ……)


 そんな風に内心ビクビクしていると、意外にも彼女は初めて声をかけられたのか涙目になりながら言う。


 「……うっ……困ってます……ぐすっ……財布をどこかで落としてきてしまったみたいで……これから大学の入学式なのに……」


 彼女はそこまで言うと抑えていた物が溢れ出したのか、駅構内に響き渡りそうなほどに泣き出した。僕はとりあえず彼女を宥め、財布から1枚の1万円札を取り出し彼女に渡しながら言う。


 「あ、あの。これよかったら使ってください。返さなくていいので……」

 「……。あ、あのっ! これじゃ多すぎますっ……」

 「いくらか分からないし。それに何より君が困ってるから」

 「流石に受け取れないです……」

 「いいからもらってほしい。僕ももう入学式だから行くね。バイバイ」


僕は返そうとする彼女の手を押し返し、電車へと向かった。そんな僕を引き止めるかの様に彼女が叫ぶ。


 「せめて……せめてっ! お名前だけでも教えてくださいっ!」

 「根暗 陰雄ねくら かげおです。では」

 「……ありがとうございますっ! 私は、────です! 必ず返しに行きます!」


僕は少し大きめな声で名前を言い、走り去る。彼女も名前を言っていた気がしたが、聞こえなかった。まあ、会うことはもうないだろう。


────そう思っていたのだが……


 「根暗くん! さっきはありがとう! 明日絶対返すから!」


 どうしてこうなってるんだ? 新入生1綺麗で目立つ彼女と仲良くしていると後々面倒いのに……

 俺はそう思い、こう言う。


 「……あの、どちら様ですか?」


 と。彼女には悪い事をしたと思った。が、これから先の大学生活のことを考えるとこうするのが1番だろう。


◇◇◇


 ────どうしよう。

 私は大学の入学式の日、最寄駅で泣きそうになっていた。と言うのも、家を出てからコンビニに寄り、駅に来たのだがどこかで財布を落としてしまったみたいで。大学までの交通費もない状態に。コンビニまでの来た道を戻ったり、交番に行ったりしたのだが、見つかることもなく。駅に戻り、改札近くの公衆電話の前で立ち止まってしまった。


 日本人というのは、優しくないみたいで。道ゆく人に電車代を借りられないか聞いても、無視。あるいは、体目的の気持ち悪い人しかいなかった。どうしようもなくなった私は、声を掛けることすらできなくなっていた。

 

 もう入学式は諦めようと思った時だった。


 「あ、あのっ! さ、先程から困っているように見えたのですが、ど、ど、どうしたんですか?」


 1人の同い年くらいの男の子が声をかけてくれた。キョドってはいるものの、そんなことはどうだっていい。私は声を掛けてくれた彼に事情を話した。


 事情を話し終わると、声をかけてくれた彼の優しさ、静かに聞いてくれた彼の態度に私は堪えていたものが溢れ出した。彼はそんな私を宥めながら、財布を取り出した。次の瞬間、私は目を疑った。

 彼は1万円札を1枚渡してきたのだ。

 流石に受け取れないと返したのだが、いいからと言いながら、私の手を押し返しホームの方へと走っていった。

 せめて名前だけでも聞いておきたかった私は、叫ぶ。


 「せめて……せめてっ! お名前だけでも教えてくださいっ!」


 気づいてくれたのか、『根暗 陰雄』とだけ名乗り走り去っていった。聞こえない事を承知しつつも、自分の名前を言った。案の定彼は振り返る事なく、走り去りやがて見えなくなった。

 

 私は彼に借りた1万円札で切符を買い、お釣りを大事に握りしめ大学へ急いだ。


 入学式には間に合った。入学式を終えた新入生は、それぞれ講義室へと向かった。

 私も皆同様、講義室へ向かうと胸が高鳴る音が聞こえてきた。その講義室の1番後ろの隅に彼は座っていた。 

 急いで彼の元へ駆け寄り、先程のお礼をした。


 「根暗くん! さっきは本当にありがとう! 明日絶対返すから!」


 私は何故だか、彼の返事を心待ちにしていた。だが、彼から返ってきた返事は私の予想し得ないものだった。


 「……あの、どちら様ですか?」

 「……っえ?」


 何故だろう。普段はこんなことを言われても何も思わないのに……

 根暗くんに言われると胸がすごく痛かった。

 彼からの返事を受け、私は初恋をしたのだと気づくのだった。

 

◇◇◇


 僕が入学してから1年が経った。彼女は1年間毎日の様に僕の元へ来ては必ず何かを話していく。お金は1年前に返してもらったのに、その後も話をしに来る。陰キャの僕に優しく話しかけてくるのはやめて欲しい。そんなの1年間も続けられたら、好きになってしまうだろう。


 1年で大分彼女のことが分かった。彼女は根明 陽華と言い、誰に対しても優しく、真面目で、大学内の中で男女教師問わず好かれている。その中で、異性として好きになり告白する人も30人以上はいたみたいだ。これは、噂や憶測などでは無く、本人から相談されたものだった。かく言う僕も、そんな彼女に恋をする男の1人であった。


 そんなことを知りもしない彼女は、今日も今日とて僕の元へやってきた。


 「根暗くん! 今日こそは遊ばない?」

 「……根明さん。今日も忙しいので……」

 「そっかー! 折角お酒の美味しいバーを見つけたから一緒にと思ったのに」

 「……いつもごめん」


 2人で飲みになど行けるわけもなく、僕は断る。申し訳ない気持ちはある。それでも。僕には断る選択肢しか無かった。……だって。……だって、断らないとみんなからの視線が痛いのよ……

 なんて誰に聞かせるでもない言い訳をして、自分に納得させた。


◇◇◇


 大学が終わり僕は、最近行きつけのバーでお酒を嗜んでいた。20歳になってから、お酒に弱い癖にお酒にどハマりをした。どうやら僕は、お酒に酔うと人格が180度変わるらしい。普段陰キャな僕は、酔うと陽キャに。地味な見た目は、眼鏡を外し髪をかき上げる。その姿でいる時は、何故だが美人な女性に声をかけられる事がよくある。


 俺は根明さんのことが好きなので、毎度丁重にお断りさせていただいてるのだが……

 酔ってるくせに、そこだけは忘れない俺の好きと言う気持ちにいつも驚かされたりしている。だが、告白などはしないだろう。振られたら立ち直れる気がしない……


 「マスター! これいつも通りお願い! あとあれも!」

 「本当にびっくりする程変わるわよねぇ〜。陰雄ちゃん。はいこれね」


 とまあ、こんなことを考えながら、気づくと酔うほどに飲んでいた俺は、無くすといけないのでいつも通りに眼鏡をマスターに預け、お店に置いてもらってるワックスを貰い、髪をかき上げセットした。この店のマスターは、生物学上男なのだが心は女で所謂オカマである。そんなマスターに俺は恋愛相談を聞いてもらったりしていた。そうするうちに仲良くなった。


 「陰雄ちゃん。いつもそうしていればいいのに。折角のいい男が勿体無いわぁ〜! 眼鏡もこれ伊達なんでしょう?」

 「いいの! 俺は根明さんだけに好かれればそれでいいから!」


 ────カランカラン


 「いらっしゃ……! あ! 陽華ちゃん! 今日も来てくれたのね!」

 「来ちゃったよ! マスターに言われた通り好きな子を誘ったのに断られちゃって……」


 いつもと同じ会話をしていると、ドアが開き女性が入ってきた。

 マスターは入店してきた女性に挨拶をすると、知り合いだったのか話しながら俺の隣へと案内した。ちらっとその女性を見た時、俺は驚きを隠せなかった。


 ──……根明さん!?


 そう。隣へ案内をされたのは、俺の好きな人。根明 陽華だった。驚きすぎてつい、ずっと見てしまったのだろう。俺の視線に気付いたのか、彼女は俺に一声。


 「なんですか?」


 あれ? 俺これ別人だと思われてね? まあ誘いを断った手前、バレたくはないのだが……好きな人に気づかれないと言うのもこんなにダメージを喰らうんだなと思った。

 酔いすぎたからだろうか。俺はとんでも無いことを彼女に口走ってしまった。


 「根明 陽華さん!! お、俺と付き合ってください!」


 その瞬間、マスター、俺、根明さんは時が止まったかのように動きを止めた。実際には短い時間なのだが、その沈黙は限りなく長い時間に感じた。最初に口を割ったのは根明さんだった。


 「……ごめんなさい。私には好きな人がいますので! それにあなた誰ですか?」


 ────終わった。


 俺の恋が終わりを迎えた音が聞こえてきた。俺は足早に会計を済まし、マスターに眼鏡をもらい装着して店を出た。


 「……っえ? ちょ、ま……」


 彼女が何かを言った気がするが、振り返れるほど俺の心は強く無かった。

 その後ただひたすらに家路を辿ったのであった。


◇◇◇


 私には今、好きな人がいます。同じ大学に通う根暗 陰雄くん。彼は、入学式の日に財布を無くした私に大学までの交通費を貸してくれた。そんなことで好きになるとかチョロいと思うよね……私もそう思う。でも、彼と1年ずっと話していく内に彼の内面に改めて惚れ直した。


 ……だから、私はこの時のことをすごく後悔していた。


 何があったのかと言うと、私は最近行きつけのバーに飲みにいった。その時に隣に座ってたイケメンの年上? に見える人に告白をされたのだ。よく知らない人からの告白なんて気持ち悪いと思い、もちろん断った。

 最後に『あなた誰ですか?』なんて言葉を添えて……


 その直後私の脳裏に、色々な疑問点がよぎる。


 ────何故彼は、私の名前を知っていたのか。

 ────何故彼から匂う柔軟剤の香りに安心感を覚えたのか。

 ────何故気持ち悪いと思ったはずなのに、嫌悪感を抱かずにむしろ嬉しいと思ってしまったのか。


 その疑問は、彼の本当の姿を見て一瞬にして吹き飛んだ。

 眼鏡をかけた彼は、正しく私の好きな『根暗 陰雄』本人だった。


 「……っえ? ちょっとまって……」


 その姿を見た私は、急いで彼に声をかける。

 が、私の声は彼に届くことはなかった。






 ────そして2人は思った。

 ────もし、陰雄がお酒の力を使わずに告白していたら。

 ────もし、陽華が陰雄だと見破ることができていたら。

 ────もし、もっと早くに自分から告白することができていたら。


 互いに同じ様なことを考えていると、2人はまだ相手のことが好きなことを自覚したのであった。





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面白かったら☆と、ブクマ、♡お願いします。


長編として連載開始しています!


https://kakuyomu.jp/works/16817330658103272236

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