第9話 有能令嬢は、役に立ちたい
外交パーティーの前に、ゾーリュックの伝統の社交ダンスの練習をしようということで、またいつもの場所に集まった。教えてくれる係の女子生徒とアロイヴが、先に覚えておいてくれたらしく、皆に教えていた。
(もう、踊れるようになってしまったけれど)
フレデリク様の乱暴なダンス……というか、もはや創作ダンスに合わせていたのは伊達ではなかった。私は悩んでいた。
(自分は出来るけど、できない人がいる)
(みんなの役に立ちたいわ。でも、出しゃばっていると思われたら……)
しかし、もうここではそんなこと考えなくていいのではないだろうか。そわそわしながら足元を見つめていた。
「ティアさん、僕と練習してくれない?」
アリスランが声をかけてくれた。
「もちろんですわ」
フレデリク様としか踊ったことがなかったので、あまりに踊りやすすぎて、踊りにくかったが、少しずつ慣れてきた。
「一緒になにかをするのは久しぶりだね」
「ええ」
話す余裕もできてきた。
「剣じゃなくて、ダンスだなんて、昔の僕らが知ったらなんていうんだろうね」
「変なの!っていいそうですわね」
「あの……この間は、その」
「はい」
「いきなり、抱きしめたりして悪かった。だけど……ううん、全部済んだら話すよ」
アリスランは、そう言って、無口になった。そんなことを、言われて、想像がつかないほど、わたしは……。
「分かりましたわ」
ただ、そういって、ダンスを続けた。
「アリスラン様、わたし……その……」
「どうしたの?」
勇気を出さねば。
「皆さんのお役に立ちたくて、困っている方のお手伝いがしたいんですの」
「ああ、じゃあ、あそこで、苦戦している子に教えてあげればいい。僕が、君から教わるように言うから」
「……ありがとうございます!」
私は嬉しくなって、おもわず笑顔になった。
「ううん、なんだか、あの時の瞳が帰ってきたみたいで、嬉しい」
アリスラン様はそう言って笑ってくれた。
◇◇
「ごめんなさい……」
数分ほどやってみて、相手から出たのは謝罪の言葉だった。
「わたし、ふつうのダンスも覚えるのに数年かかったんですの」
「そうなんですのね」
私は考えてみる。
「でも、ふつうの……この国のダンスは踊れるということですから、リズム感覚はあるはずですわ」
「……そうですわね!」
相手の女生徒の目に光が戻る。
「だから、リズム感と手足の動きが必要なのですから、手足の動きは覚えてしまえばいいと思うんですの」
「数年で身につけたリズム感ですもの、きっと、大丈夫ですわ」
「ありがとうございます……!」
女生徒に手を握られた。思ったことを話して、感謝された。
「いえ、こちらこそ」
ただ、それだけの事実を感じて、瞳が潤みそうになるのを何とかこらえた。
そして、わたしたちは、みんなが、休憩というか、そろそろ帰る雰囲気を出している中
「「できましたわー!」」
なんとか、男子生徒との、実践も含めてダンスを終えることができた。
「きっと、いい日になるね、みんな、楽しもう」
そう言って、アリスランが皆に言って、解散になった。
◇◇
フレデリクは、家でため息をついていた。
「僕はしあわせなはずだ」
謙虚でかわいらしいカロリーヌがそばにいてくれている。かわいげのないティアともういなくてもいい。
(ええ?わたくしより、成績悪いんですの?)
ティアはそんなこと言わなかった。
(ダンス、もっと合わせてくださいませんか?)
ティアはそんなこと言わなかった。
(風邪気味なんですの?うつさないでくださいましね)
ティアだったら、無理しないでほしいと言ってくれた。
(わたし、このピンクブロンドの髪が気に入っているんですの)
きれいだと思う。でも、ティアの黒髪は透き通っていて……
「クソッ」
ものを蹴ってから、ベッドに突っ伏した。
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