大文字伝子が行く138

パウダースノウからの挑戦（５）

　＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

　大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

　小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。今はEITO所属。

　下條梅子巡査・・・元高島署勤務。今はEITO所属。

　結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。

　新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署勤務。

　工藤由香・・・元白バイ隊隊長。EITOに出向。

　本郷弥生2等陸佐・・・陸自からの出向。オスプレイの操縦とホバーバイクの運転を担当している。最初は東京本部勤務だったが、現在は大阪支部勤務。

　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

　金森和子一曹・・・空自からのEITO出向。

　浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。

　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

　草薙あきら・・・警視庁からのEITO出向。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。

　夏目警視正・・・EITO副司令官。表向きは、夏目リサーチ社長。

　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。EITOに出向。

　久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の伯父。EITO前司令官。

　柴田管理官・・・久保田管理官と交代で、交渉人をしている。

　久保田誠警部補・・・あつこの夫。久保田管理官の甥。EITOのサポートをしている。

　青山たかし・・・元警視庁警部補。EITO所属。男性だけのエマージェンシーガールズのサポートチームのエレガントボーイズのメンバー。

　馬場力（ちから）3等空佐・・・暫くEITO大阪支部のサポートメンバーだったが、現在は東京本部のサポートチーム・エレガントボーイズのメンバー。金森と同棲している。

　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署生活安全２課勤務。

　橋爪警部補・・・丸髷警察署生活安全２課勤務。

　中津警部補・・・元警視庁捜査２課だが、EITOの応援メンバーとして駆り出されることが多いので、久保田管理官の直属になった。

　村越警視正・・・副総監の直属。

　渡辺副総監・・・警視庁副総監。警視総監が重い病気の為、実質、警察のトップ。あつこの叔父。

　中道新九郎・・・SAT隊長の警部。SATは副総監の指揮下にある。

　大前管理官・・・EITO大阪支部の司令官。皆から「コマンダー」と呼ばれている。

　芦屋二美（ふたみ）二曹・・・EITO大阪支部のサポートメンバー。陸自からの出向。

　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==

　県議が殺されて２日が経った。正午。

　警視庁。久保田管理官のテロ対策室の隣の会議室が対策分室となり、機材が持ち込まれ、各方面から警察官が応援動員された。SNSでの情報を広く呼びかけた結果、電話応対だけでなく、SNSのメッセージの確認や質疑応答が相当量必要となった為だ。

その隣にあった、職員食堂は時間帯を決め、この業務に従事する職員に開放された。

通常業務の職員は、元々一般の「お昼休み」に食事をとることは少なかったので、支障はなかった。

　あつこは、リストを見ながら、テーブルにカレーライスを持って来て食べていた。

　「何だ、またカレーライスか。マンネリだな、あっちゃん。」と言いながら、あつこの横に座ったのは、夫の久保田誠警部補だ。

　「そういう、あなたこそ、またラーメン？まこっちゃんもワンパターンよ。」

　「相変わらず仲いいわね、ごちそうさま・・・って、これから食べるんだけど。」

　あつこの反対側の席に座ったのは、みちるだった。

　「何？サラダ？ダイエット？」と、あつこは驚いて言った。

　「食欲ないのよ。毎日同じ作業だし。自衛隊組が羨ましいわ。」と、みちるが言うと、「そんなこと言うと、なぎさ副隊長に怒られますよ、隊長補佐代理。」と、みちるの横に座った、結城が言った。

　「マスコミや一般向けの肩書きで呼ばないで下さいよ、警部。」と、みちるはむくれた。

　みちるが、ふと結城の隣にいる、あかりを見ると、あかりの前には大盛りのチャーハンがあった。更にその隣の小坂や下條は、大盛りの牛丼や天津飯だった。

　「あんたたち、凄い食欲ね。」と、みちるが言うと、後から来た中津警部補が、　「こういう時、『若いから』なんて言い返したら、ダメだよ。」と、あかり達に言った。

　「警視。今日から応援です。よろしくです。」「ありがとうございます。」と、あつこは応えた。

　「弟の興信所でも、聞き取り調査に協力してるんですよ。」と言って、自分のバッグからハンバーガーを出した。

　「凄いな、一品も重なっていない。皆個性があるということだ。」と、副総監がトレーを持って来て言った。

　あかり達が移動しようとするのを見て、「いい、いい。皆で食おう。新町、小坂、下條。少し詰めてくれ。」と言い、副総監はテーブルの端に座った。

　副総監は、バッグから弁当を出した。「え？叔母様の手弁当ですか？叔父様。」と、あつこが言った。「ん？何か問題でもあるかな？久保田君。中津君。」

　「いえ、別に。」と、久保田警部補と中津警部補が異口同音に言った。

　皆が食べ終る頃、警報が鳴った。スピーカーから、「練馬区で、銀行強盗発生！担当部署の職員は出動して下さい。」と声が流れた。

　弁当をしまいながら、副総監は、「皆はそのまま、そのまま。」と言って、出て行った。

　午後１時。副総監室。

　村越警視正が、自席で電話を取っている。

　暫くして、電話を置いた村越が報告した。

「強盗事件の現場は、練馬区あびるの銀行石神井公園前支店。虎の『ゆるキャラ』みたいなマスクを被った、２人組の強盗です。EITOに出動を要請しましたが、SATが先に現着してしまいました。近くの石神井公園で訓練をしていたそうです。柴田管理官は現場に向かっています。中道隊長が突入の許可を求めて来ましたが、管理官が先に交渉するのが段取りだ、と申し渡しました。」

　「勝手なことを。この大事な時に。ダークレインボーがらみだったら、どうする積もりだ。それに、強盗犯に姿を晒したら・・・それは、どうなんだ。」

　「犯人に見られてはいないようです。しかし、銀行の利用客の一部に目撃されています。先の現着情報は、銀行の利用客の問い合わせから分かり、確認を取ったものです。」

　「あつこが知ったら、怒るだろうな。」「ええ。怒ります。あの単細胞では、ダークレインボー、いや、パウダースノウに敵いません。」

入ってくるなり、あつこは怒った。

　「仕方無い。エマージェンシーガールズには、それとなく、陰から援護するよう指示して貰おう。」

　副総監は、村越がダイヤルした後、受話器を取り、理事官に説明した。スピーカーはオンになっている。

　「了解しました。」と、理事官は言い、電話は切れた。

　「あつこ、ゴメンね。」と、副総監はあつこの肩を抱いて謝った。

　「仕事に戻ります。」と言い、副総監の足をヒールで思い切り踏んづけて、あつこは出て行った。

　「ててて。村越、今、笑った？」「いいえ、とんでもない。相変わらずだなあ、と思っただけです。愛妻弁当は、いかがでしたか？」「旨かったよ。言ってみるもんだな。女房に作って貰ったのは何十年ぶりかな？誰と食事をするかと尋ねられたから、久保田君とあつこの前で食べると言ったら、簡単に承諾した。あつこのお陰だ。誕生日忘れた償いは出来た。何の話だったかな？」

　「EITOがSATのフォローをする件です。逃走車、用意しますか？変わった車種を指定されたら、予め仕掛けても、無駄になりますが・・・。」

　「一応、３種類用意しよう。後は、エマージェンシーガールズ次第だな。」と、副総監は言い、自席の椅子に座った。

　午後２時。練馬区あびるの銀行石神井公園前支店。

　「不動産屋がよく、物件案内の為に社員に被らせるタイプの着ぐるみの頭ですね。」

　柴田管理官に挨拶を済ませた増田が言った。増田は、今日は金森と浜田を連れて来ている。

　「エマージェンシーガールズ、強盗犯は今、差し入れろ、と言った寿司を食べています。逃走車はスーパーカーを用意しろ、と要求してきたので、EITO所有のマセラティを理事官に言って用意して貰いました。」

「管理官。我々は、いつ突入するんです？」と、中道はイライラしながら言った。

　「スーパーカーに乗り込む時に隙が出来る。その瞬間が最大のチャンスだ。」

　「了解。おい。」中道は、部下に指示した。

　「エマージェンシーガールズ。申し訳ないが、今回はフォローということで。」と、柴田管理官は、片手で拝んだ。

　「大丈夫です。避難誘導も立派な仕事ですし。」と、増田は微笑んで言った。

　午後２時半。

　マセラティが到着した。マセラティは予め待避させておいた、銀行職員用駐車スペースに入った。

　降りて来た、警察官姿のあつことみちるは柴田管理官に挨拶をした。

　「キーは付けたままにしています、柴田管理官。」と、あつこは報告した。

　「ご苦労様、警視。じゃ、警部。待機を。」と、頷きながら、柴田管理官は中道警部に指示した。

　中道警部は、あつこを睨んでから、部下と共に散った。柴田管理官は、メガホンを取った。

　「要望した車は用意した。裏の職員用駐車スペースだ。良かったら、先に人質だけ開放してくれないか？」

　犯人達は、支店長らしき人物を盾にして、裏口から、駐車場に向かった。

　中道の合図で、他のクルマの陰に隠れていたSAT隊員が、犯人達に向かった。

銃声が鳴り響くと、SAT隊員の１人が撃たれた。銀行の支店の２軒隣のビルの屋上からライフルで狙撃されたのだ。

　強盗犯は、その隙に、マセラティに乗り、悠々と逃げて行った。中道達は、数名を残して、その狙撃場所に走った。

　あつこと増田は、お互いに頷くと、利用客の避難誘導に向かった。そして、金丸と浜田は走り去った。みちるは、本部に子細を報告した。

　午後３時１０分。

　マセラティは高速に乗った。後方から、ランボルギーニが追い上げてきた。強盗犯はマセラティから拳銃で撃ったが、ランボルギーニが追い抜く時に、マセラティのガルウイングが開いた。ランボルギーニの乗っている、金森が、マセラティをリモコンで操ったのだ。すぐに、マセラティは急ブレーキをかけて止まった。

強盗犯は、拳銃で応戦しようとしたが、金森のブーメランの方が早く、ドライバー側の強盗犯の頭を強打した。

　浜田は、助手席側に回り込んで、弓矢を構えた。男達は両手を挙げた。

　反対側から、白バイ隊を引き連れた、工藤が警察官姿で現れた。

　工藤が、着ぐるみマスクを脱がすと、２人は、見たことのある顔だった。

　「リストに載ってたな、こいつら。」

　「確かに。本郷、帰るよ。」とガラケーに言った芦屋二美の合図で、オスプレイが現れ、高速に降りた。ランボルギーニは車ごとオスプレイに乗って、オスプレイは去って行った。

　工藤は、「マセラティの搬送は任せるわ。我々は護送用のパトカーが到着次第、帰還します。」と、エマージェンシーガールズ姿の金森と浜田に敬礼した。

　金森と浜田は、マセラティに乗り込むと去って行った。

　午後３時２０分。

　狙撃犯は、懸命に路地を逃げていたが、行く手に２つの黒い影が通過して行った。黒い影は引き返すと、狙撃犯に向かって来た。狙撃犯がライフルを持ち替えると、ホバーバイクに乗った青山は、フルーレとバトルスティックで、狙撃犯のライフルと腕を攻撃し、狙撃犯は、その場に蹲った。

　ホバーバイクとは、宙に浮くバイクで、民間開発のバイクをEITOが採用、改造したものを実戦に役立てている。馬場は、ホバーバイクから降りると、襲って来た狙撃犯に巴投げで投げた。

　「１本！お見事！！」と青山は褒め讃えて拍手をした。近くの商店街の買い物客は、釣られて拍手をした。

　馬場は、DDバッジを押した。DDバッジとは、EITOの緊急連絡用のバッジだ。

青山は、EITOに連絡を入れた。

　数分後、パトカーがやって来た。愛宕と橋爪警部補が降りて来た。

　愛宕は、エレガントボーイ姿の青山と馬場に挨拶をした。「強盗犯も捕まえたらしい　ですよ。」

　「良かったです。」愛宕の報告に馬場は微笑んだ。

　午後３時３０分。警視庁。副総監室。

　村越警視正が言った。「副総監。強盗犯２人と協力した狙撃犯を逮捕連行しました。強盗犯の方ですが、リストに載っていた男らしいです。」

　「何だって？」副総監は驚きを隠せなかった。

午後３時３０分。EITO東京本部。

　強盗事件の子細の報告に、伝子と理事官は衝撃を受けていた。

　「何だって？」「リストの人物が犯人？」

　午後３時３０分。オスプレイの中。

　ランボルギーニの中で、二美は、大前に報告していた。

スマホの中の大前は言った。「すまんな、二美。急に出張させて。強盗犯やが、リストに載ってる人間らしい。それと、狙撃されたSAT隊員は、急所を外していたので、命に別状はないが、重傷らしい。」

　「衝撃的ね。本郷は、よく働いてくれたわ。楽しみね、兄ちゃん。」「照れるから、兄ちゃんは止めてえや。」「総子だけでいいか。了解。じゃ、後で。」

　芦屋二美は、EITOエンジェルズが、他の事件に遭遇していたので、単身、いや、本郷弥生と共に、急遽応援に来ていた。

　午後３時３０分。伝子のマンション。

　EITOから連絡を受けた高遠は呟いた。「ますます分からない。」

　―完―