第3話 昔話
「あと、分で、、なるぞー」
うっすらと聞こえたその言葉で浅葉優也は目を覚ます。ゆっくりと辺りを見るが彼が知っている場所ではないことはすぐわかった。
「あ、起きたみたいだよ!」
「あ、マジで?」
「おはよう。体の調子はどうだい?」
髪を金色に染めた20代と思われる若い男が声をかけてくる。その両側からは優也と同い年と思われる10代の少女2人が優也の体をじっくりと眺めている。
「えっと、、あなた達は?」
「ん?あーまぁまぁ俺たちのことはまた後で話すよ。それよりも君の体はどうだい?痛みとかダルさとかはあるか?」
「・・・少し体が重い気がします。それ以外は普通です」
優也は正直に答えた。この男に対する警戒心は当然あったが答えてはいけないような内容でもなかったためだ。
男は満足そうに頷くと同時に優也の体を服の上からポンポンと触ってくる。優也は顔を引き攣らせながら聞く。
「な、何してるんですか、、、?」
「ん?いや別にほんとに事故の怪我が治ったのかの確認」
「事故?」
その瞬間優也は思い出す。途切れてゆく意識、周囲の雑音、動かない体、自分に起こった災難が脳を瞬間的に駆け巡る。
優也は視線を右腕へと向ける。そこには無傷のいつも通りの腕があった。すぐさま左腕、両足、胴体と目で見てわかる範囲を確認したが全て無傷となっていた。
「どうなってんだ?俺事故って体ボロボロのはずじゃ、、もう助からないって言ってた人もいたし、、、」
「そう君の体はボロボロだったよ。右腕と左足は骨だって見えてたし、左腕は千切れ掛けだったし、右足は変な方向向いてた。顔は地面に強く打ちつけたみたいでもうグチャグチャ。目と鼻は潰れてた。血も凄かったよあの辺一体にビッチリ飛び立っててさ」
「ま、も、もういいです」
聞いてもないことまで男はペラペラと喋る。状況を想像して吐き気を催す浅葉。目を閉じて深呼吸することでそれを抑える。
「・・そんな状態の俺をどうやってかは分かりませんけど助けてくれてありがとうございます」
「いーや。俺たちはここに運んだだけだよ。傷は君が治した」
言葉の意味が理解できず唖然とする優也。
「まぁ、説明は飯食いながらするよ。ちょうどさっき出来上がったし。冷めないうちに食おうぜ」
そんな優也を無視して男はスタスタと食卓に足を運ぶ。気乗りはしなかったが致し方なく重い体を起こし男の後についていく。
卓には優也を除いて男3人女4人の計7人が座っている。先に席に着いた金髪の男が自分の隣に優也を座らせる。
「まずは自己紹介からした方がいいよな。俺は湖野伊輝。よろしくな優也」
「よ、よろしくお願いします。あの、、俺って名前言いましたっけ?」
「いや言ってないね。でも君の情報のほとんどはここにいる全員知ってるよ。浅葉優也。年齢17歳で坂北高等学校の2年生。家族構成は3歳の時に両親と祖母を亡くしたため今は祖父と二人暮らし。どう合ってるでしょ?」
楽しそうに情報を開示する輝とそれによって恐怖心が増大する優也。
「え、なんでそんな昔のことまで知ってるんすか?」
「調べたから」
「いやそう言うことじゃなくて、、、」
「なはは。冗談冗談。どうやって調べたかを聞きたいんだろ。でもそれを説明するためにちょっと昔話をさせてくれ」
そう言い輝は夕飯のシチューを掬い上げ口へと運ぶ。その動作を数回繰り返しやがてスプーンから手を離し優也の方を向き直し話始める。
「その昔他には無い不思議な力を持った者たちがいた。彼らは人々から悪魔や呪いと言われ虐げられ処刑、見世物、実験、奴隷など普通の人としては扱われていなかった。
だがフランスのとある村に偶然にも5人の虐げられし者たちがいた。彼らは己の力を駆使してその村を支配。そして最終的にたった5人で国を陥落させることにも成功した」
「ははは!何を言ってるんですか。特異な力?たった5人で国を陥落?あり得ませんよそんなこと」
あまりに現実離れした話に優也は思わず笑い出す。しかし輝は真剣な顔で話し続ける。
「陥落後は自分たちを王よりも上の身分として裏で国を統治し始めた。
初めに支配した村には拠点となる組織を作り名前をフランス語で『保有者』を表す言葉『プロプリエテール』から取って『エテール』とした。その後は国内外から能力者を集めつつ戦争に参加。そこで自分たちの力を示すことでいろんな国と条約を結び、その国に『エテール』の事務所を設置して能力者が裏から国を支配できる体制を作った。日本もそういった国の一つでね、俺たちが支配してる。だから君の個人情報くらいすぐ調べられたってわけ。どう?納得した?」
「・・いやできませんよ。そんな明らかな作り話を俺が信じると?馬鹿らしい。どうせ事故があったってのも全部嘘なんでしょ?」
「困ったな。全部本当なんだけどなぁ。どうすれば信じてくれる?」
「じゃあ能力とやらを見せてくださいよ。今の話が本当ならあなたたち全員が人にはない特異な力を持ってるんでしょ?」
そう言われ目を閉じて輝は少し考える。その後、椅子から立ち上がりキッチンへと向かった。そこで包丁を一本手に持つと、優也の元へ足を運ぶ。そして彼の喉へその包丁を突き刺し素早く引き抜く。
「かぁ、、あぅ、、、」
優也は傷口を両手で押さえる。生温かな自分の血が嫌な鉄の匂いと一緒にベッタリ手に付着する。しかし意識が朦朧としたり倒れ込むようなことはなかった。それどころか刺された痛みが徐々に引いていく。
輝は押さえていた優也の手を無理やり引き剥がし、傷口を確認する。
「うん。もう傷口は塞がったよ。自分でも触ってごらん」
優也は震えながらゆっくりと喉へと手を当てる。そこには確かに皮膚があり、何度なぞろうと先ほど刺された傷口は確認できなかった。
「流石にこれで信じてくれたかな。俺が言ったことが本当だって」
「マジかよ、、、」
「マジだよ」
優也の疑念が確信へと変えられた。彼の人生はこの日から大きく変化していくこととなる。
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