第39話 情報収集第五PHASE 決着――二人の英雄(後)
「和田家本家の最後の当主それが美乃梨。もっと言えば唯の母親であり、魔力を媒体に自立した意思を生み出した人物だよ」
「なるほど……要はお前の母親みたいな存在ってわけだ」
「半分正解」
「それで?」
「あぁ。美乃梨は知っていた近い将来本家と分家が支離滅裂することを。その中で敢えて死を受け入れた。ただし死ぬ間際オリジナル魔法のセキュリティーに細工をしてな」
「流出防止のため?」
「そうだ。そこで俺を生み出し外と中から『文字』の継承者としてその魔法師が相応しいかを判断するようにした。だから唯は言わないだけで俺の存在を知っている。そして唯と俺が認めた時、継承者は三流から二流そして一流まで成長が許される。これがオリジナル魔法『文字』の秘密」
思わず息を呑み込む刹那。
まさかそんな秘密が合ったとは驚いた。
「そして『暴走』は三流でも扱える自己犠牲付の自己防衛手段の一つ。薄々もう気付いていると思うが『暴走』が三流。なら二流は……となるわけだが」
もう一人の俺が刹那の目を見て言葉を止めた。
まるで刹那の答えを待っているようだ。
「『解除』?」
「そうだ。唯が【暴走】を使った姿を見た者はこの世にもういない。それは唯が既にその先にいるからだ」
「もしかして……唯さんは既にどちらも一流に?」
「あぁ。和田家創立以来の最年少でその域に達したよ」
改めて感じる。
まじかよ……すげぇー、と。
自分の師匠は本当に凄い人だったのだと心の底から感心させられる。
いつかは自分も追いつきたいそう心の中で思わずにはいられない。
それでいつかは隣に立って魔法師として共に歩きたい、そう思った。
「元々存在していた『文字』を歴代最強の天才当主美乃梨は大きく改変し不可能を可能にする領域の魔法『文字』を進化させ『具現化』にした。とは言ってもどちらも使い手次第で大きく変わるわけだが」
「唯さんのお母さんもめっちゃ凄い人だったんだな……」
「ってもお前も歴代継承者の中で異例だったけどな」
「えっ?」
「美乃梨の思惑が大きく外れたんだよ。俺が枷になるはずだった。なのにお前は俺に訴えることで魔法枷解除術式(マジックコード)を使わずに二流の扉を開けた異例中の異例だからな」
「おっ! 褒めてくれるのか? サンキュー」
さっきまでバカにされていた自分から褒められるのはなんだか嬉しい気持ちになるなと後頭部を掻いて喜ぶ刹那。
うーん、悪くない!
これも日頃の行いがきっと良い証拠なのだろう。
清々しい気分に不意打ちをかけるように声が聞こえてくる。
「褒めてねぇよ!」
なんだ褒めてくれたわけじゃないのかと大袈裟に落ち込む刹那を無視して説明は続く。
「二流になればある程度の事象を起こすことが可能になる。さらに一流とまでなれば魔力量が不足しない限り殆どの現象を操ることも可能だ。ただし――」
まるで警告と言わんばかりに少し間を開けてもう一人の俺が言う。
「――前回は魔法枷解除術式(マジックコード)なしで一部制限付きとは言え仕方なく助けたが次はない。お前が本当の二流になるには唯から貰った魔法枷解除術式(マジックコード)を魔力文字で書いて脳で認識する必要がある。まぁ俺からの説明は以上だ」
そして「あっ」となにかを思い出したように付け加える。
「俺は別にお前なら二流になってもいいと思ってる。だから後はお前次第だ」
「俺次第……」
「そうだ。唯は既にお前にその文字を与えている」
「本当?」
「あぁ」
「マジで?」
「……あぁ」
小声で「ダメだ……コイツまだ時間がかかる……」と聞こえるか聞こえないかの声で嫌味のように言ってきたもう一人の俺にすかさず刹那は「だったら教えてくれよ!」と言うも「少しは自分で考えろ。それとあの時は意地悪したが別に私はどっちの名前を書いても力を貸すつもりだった。ただ内の審判者としてお前の意志を確認したかっただけだ」と最後は早口で言ってきた。
かと思いきや。
「どうやら時間のようだな。とりあえずお前はもう戻れ」
告げられた瞬間、刹那の意識が飛んでしまう。
どうやら美乃梨が創造した『文字』の意志が作った空間の出入りは意思疎通と同じくもう一人の俺の思うがままらしい。
俺の身体なのに俺に主権がないって……本当に嫌になるな。
これじゃどっちが主人格かわかったものじゃない。
と向こうに聞こえているのか聞こえていないのかわからない愚痴を言ってから刹那は現実世界で目を覚ますことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます