第40話 情報収集第五PHASE 決着――決戦前の英雄


 夕暮れの日差しが窓から差し込み、それが眩しくて刹那は目を覚ます。

 目が覚めると三人の声が聞こえる。

 聞いたことのある声はすぐに、唯、三依、さよの声だとわかった。

 目を開けベットから起き上がると三人は案の定ベッドのすぐ近くに用意されたパイプ椅子に座って何かを話していた。


「あっ、おはようございます刹那様」


 刹那の起床にいち早く気づいたさよが声をかけてくれる。

 最後に見た外傷は夢のように消えていて綺麗な顔に戻っていた。

 本当に魔法の凄さを実感させられる。

 こんな短時間であれだけの外傷を治せるのだから。


「先日はありがとうございました」


「さよさん……」


「なんですか?」


「すみませんでした。俺が情けないばかりに酷い経験をさせてしまって……」


「はい。だから責任取ってください。偽物から本物の夫婦になりましょう刹那様」


「……へっ!?」


 寝起きのためか変な声が思わず出た。

 だけどそれ以上に――。


「はぁぁぁ!?」


 ドスが聞いた声が響いた。

 刹那の声ではない。

 本人より驚いたのは唯だった。


「あら? 唯様急に驚かれてどうしたのですか?」


「ふ、夫婦になるですって!? さよが? 刹那と!?」


 勢いよく立ち上がったために座っていたパイプ椅子が倒れる。

 それをさりげなく直す三依。

 まぁまぁ、と手で落ち着くようになだめつつも口では煽るさよ。


「私たちが夫婦になったら問題でもありますか?」


「大有りよ!」


「ふふっ、冗談ですよ。そう怒らずに。そして刹那様もご冗談ですので本気にしないでください」


 どうやら冗談を言うぐらいには心の方も回復したようでなによりだ。

 ただし刹那の中で心の㏋ゲージが大きく減った気がした。

 心臓に悪い冗談だ、本当に。

 だけど本当のさよはこっちの方なのかもしれない。

 今はプライベートのさよと言う解釈は間違っていないと思う。

 演技のデートを含め仕事のさよしか見ていなかった分とても新鮮に感じられる。

 正直プライベートでも固いイメージがあったわけだが、どうやらそれは思い込みに過ぎなかったらしい。

 そう言えば三依が言っていた。

 現状仕事は無理だと。

 よく見れば目の下にはクマができていて寝不足のように見える。

 一見顔色は良さそうに見えるがそれは薄化粧をしているからだろう。

 どうしても化粧では隠せない部分の肌色がとても正常とは思えない。

 無理して演技で元気に見せているのだとしたら……気付いていない振りをしてあげるのも仲間の務めなのかもしれない。

 きっと刹那にはわからない本人だけの苦悩や葛藤があるかもしれない。

 それに気付かず軽はずみな発言をして無意識に相手が踏み込んで欲しくない領域に足を踏み入れてさよの努力を無駄にするようなことだけはしたくないと思った。


「さよ? あまり刹那はんと唯はんをからかわんどきや。こう見えて二人共まださよと同じで療養中やけんね?」


「わかっております」


「まぁ、それなら構へん」


 チラッと壁時計を見たさよが皆に向かって提案する。


「刹那さんも起きましたしそろそろ本題に皆さん入りませんか? 時間もあまり残されていないですし」


 声のトーンが変わり急に仕事モードになったさよの口調にギャップを感じる。

 人はここまでプライベートと仕事のスイッチを『ONとOFF』で切り替えられる物なのかとつい感心してしまう。

 自慢ではないが刹那にはできない自信しかなかった。

 頭ではわかっているがどうしても一瞬で切り替えると言うことが転生前も難しかったと苦い思い出が甦った。

 すると同じことを思ったのか三依が口を開く。


「アンタ……仕事スイッチ入っとるで……?」


「あっ……そ、その、……つい……癖で……」


 どうやら無意識でなったらしい。

 慣れって凄い……。

 思わず感心してしまう。


「まぁ、さよが大丈夫なら我はいいわ。それより本題や本題」


 今は時間が惜しいと言わんばかり三依が話を進めていく。

 部屋の空気が一変して重たいものへと変わる。

 三依の言葉を聞くと同時。

 急に真剣な表情になる唯とさよ。

 二人の顔を見て頷く三依。

 どうやら冗談半分で聞ける話ではないようだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る