第37話 情報収集第五PHASE 決着――目を覚ました英雄は再び眠る


「あっ、礼はいらへんで。礼なら既にもらっとる。それに看病したのは我やないしな。我は治療をメインにしただけや」


 先を越された。

 だけど礼について心当たりがない刹那は「あっ、はい」としか答えられなかった。

 三依の中ではきっとそれだけのことが既にあったのだろう。

 自分が何をしたのか少し気になるので聞こうと思ったが、やっぱり止めた。

 あまり根掘り葉掘り聞くのも申し訳ないと思ったからだ。

 本人がそう言うならきっとそう言うことなのだろう。

 世の中には知らなくてもいいことだってきっとあるのだから。

 そして別に思うことが一つ。

 看病は一体誰がしてくれたのだろうか。

 できるならお礼を言いたいと思い、こっちは聞こうと思った時だった。

 コンコン。

 扉がノックされた音が聞こえてきた。

 同じタイミングで刹那と三依が扉の方を見た。


「おっ。もう食事済ませて戻ってきたんかい。ホンマに刹那はん愛されとるな~♪」


 どこか楽しそうに冗談を言ってくる三依。

 もしかして誰かが看病する所を見ていての感想なのだろうか。

 もしそうなら趣味が悪いと言うか、そもそも看病の何処を見ての感想なのだろうかと些か疑問である。

 そもそも誰だろう? と扉の先にいる人物を考えては刹那が首を傾けていると扉がゆっくりと開く。

 瞬間、あっ……と声が漏れた。

 視線が合うと、胸に手を当て安堵した様子が見て取れた。

 それに顔色が二日前より良い気がするのはきっと気のせいなんかじゃないと思う。


「そう言えばまだ言うてなかったな」


 大事なこと言い忘れていたように。


「さよと同じであの日から唯はんの精神状態も安定に向かい始めとる。後は時間の問題や」


 その言葉に一安心した。

 どうやら頑張ったかいが合ったようだ。


「せつな……せつなぁ~!」


 普段はお姉ちゃんのように知的でクールなイメージがある唯が小走りで駆けて来てはそのまま小さい子供のように抱き着いていた。


「心配したのよ。ったく無茶ばっかりして、このおおばかものぉ!」


 怒られた。

 鼻をぐずぐずとさせて涙目でそんなことを言われたら反省するしかない。

 事実三途の川を後少しで渡っていたのだ。

 言い訳なんてできない。

 それより可愛い。

 子供のように甘えてくる唯が。

 そっと抱きしめて頭を撫でてあげると頬が緩み赤みを帯びて頭を胸に擦り付けてくるではないか。

 まるで小動物のような愛くるしさがそこにはあった。


「尽くしてくれた分はちゃんと可愛がってあげなやで。刹那はんがずっと寝ている間な、魔力生成を司る臓器の安定に必要な魔力を惜しみなく提供してくれたり、魘されて寝汗が酷いときは身体を拭いたり、点滴をこまめに変えてくれたりと唯はん殆ど寝らずに頑張ったさかいね」


「そうだったんですか……」


「そうやで。でもな安心してええで。途中な、『まぁ……立派と……』呟いてはガン見しては二、三秒ぐらいやったかいね手が止まった光景をたまたま我見てしまったけどハプニングはそれくらいやっ――」


 その言葉にピクリと反応して甘えることを止めて、刹那の身体に繋がる空の点滴袋を取っては全力で投げる唯がそこにいた。

 顔を真っ赤に染めた彼女の顔は恥じらいを感じているようだった。


「ちょ、ちょ、ちょ、アンタ見てたの!? てか見てても今言うなぁ、このバカ妹子!」


「あれ……ちょっと待って……」


「なんなら刹那はんその瞬間見てみるさかい? あそこにあるカメラでバッチリ録画して保存しとるさかい」


 三依が指さした先にあるのは病室に設置された監視カメラ。

 そこになにを保存してあるって?

 脳内で反復して、三依の言葉と唯の反応からそれを想像してみる。

 あれ……身体が……特に下半身が急にむずがゆくなってきた気がするのは……えっ……ちょっと……もしかして……見られたのか? ……いや……マテ……フトンノナカヲ……ミレバ……フクガチガウダト? ツマリ……。


「いやああああああああああああああ」


 瞬間、病室全体に悲鳴が響き渡り、男の脳はシャットダウンした。


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