第36話 情報収集第五PHASE 決着――傷だらけの英雄


 喉が渇いた。

 そんな単純な理由で刹那は目が覚めた。


「おっ? 案外早う起きたねんな」


 ここはサルビアホテル……だよな? と寝ぼけた頭で正しく認識したタイミングで声を掛けてきたのが三依だと気づく。

 どうやらベッドに寝かされているようだ。

 とはいっても、客室ではなく医務室の……。

 視線を周囲に泳がせると沢山の薬品が目に入り、布団の中に繋がるチューブは刹那の身体に向かって伸びていて沢山の電子機器がなにかの信号を常に受信し、それらを数値や波形で出力し三依になにかを教えているようだ。


「眩しいん?」


 医務室に差し込んでくる太陽の陽が眩しく目を細めると、三依がカーテンを半分閉めて光量を調整してくれる。


 記憶はある。

 自分がなぜこんなところで寝ているのか。

 あの日総一郎を倒して一安心したすると同時に意識が遠のいた所までの記憶はあるがその後の記憶はない。

 そのため全部が全部わかるわけではない。

 見渡す限り唯もさよもいないらしく今は三依と二人きりらしい。


「ホンマに無茶したな。まさか復讐の有言実行を一人でするとは夢にまで思わんやったで」


 手を伸ばしまるでお姉ちゃんが弟を褒めるように頭を優しく撫でて。


「それと感謝しとる。ありがとうな刹那はん」


 突然の感謝に一瞬戸惑ったが、すぐに意味がわかり一安心した。

 どうやらさよは帰ってきたらしい。


「今はどこにいるんですか?」


「今は別の医務室におるで。外傷は医療魔法ですぐに治せるんやけど劇薬を飲まされたみたいで内傷の方が少し酷くてな今は治療中さかいね」


「そうでしたか……すみません」


「なんで謝るん?」


「だって俺のせいで……さよさんは一生心に残る傷を……」


「そんなの気にせんでええ。それはあの子が自分の意志でしたことや」


「でも……」


「ならもしもの話や。あの子が刹那はんを責めることがあったらその時は罪を償うとええ」


 少し躊躇いながらも三依は言った。

 医療魔法の治療を受けても普段外してはいけない制限を強引に解除し力を使った刹那の方が色々と重症のためか気を使ってくれての言葉のように聞こえる。

 幾ら魔法が化学の最先端と言ってもやはり限界はある。

 また医薬品と同じく、全ての人に同じように作用するわけではなく個人個人に対する相性なども合ったりするのが現実である。

 万物の理を超える力は人を超人にすることはできても決して万能ではないというわけだ。


「ただ隠しても分かると思うけん先に言うとくとで。我が見る限りでやけどこの二日間でさよの心も少しは安定したはずや。普通に会話程度なら問題ないんやけど普段の仕事はまだ無理ってのが現状やんな。やっぱり唯はんと同じく心の傷の方が少しばかりネックで時間が必要やんねんけど、刹那はんがギリギリ間に合ったのか本人も後少しで本当に心が折れる所やったと言っててな少なからず恨んではないはずや」


 あれ? と疑問に思い「二日?」と聞き返す刹那に「そうや、二日や」とそれが当たり前のように返答する三依。


「もしかして俺結構重症ですか?」


「そうやな。さよが担いで刹那はんを此処に運ばんやったら心臓から流れる血液が血管だけでなくボロボロになって穴だらけの魔力回路にも大量に流れ込んで死ぬところやったで。後少しの所で一命を取り留めたって説明したら馬鹿でも分かるかいな?」


 その言葉に苦笑いしかできない。

 三依の目が途中から無駄な手間をかけさせてくれたな、と訴えてきているような気がしたから。

 サルビアホテルに雇われた医師から止められた。

 だけどそれを無視してホテルを出て行ったと思ったら、帰って来た時にこれでは人命を預かる医者も呆れて当然……え?


「も、もしかしてここにお医者さんがいない理由って……」


「気付いたん? そうや、自分もボロボロなのにも関わらずさよが助けて欲しいって我に言って来てな。医療魔法が使えて、どこぞの馬鹿が抜けだそうとしても実力でそれを抑えられる人物言うたらここには我しかおらへんのや。ってことで無駄な手間はかけさせんでな。我は七回も刹那はんを注意するほど気長くないで。多分口より手が先にでるさかい」


「……あはは」


「ってもそれは過去の話で今はもう出ていくならそれで構わへんのやけどな」


「えっ?」


 驚く刹那に三依は微笑んで告げる。


「この二日間でかなり回復しとるのは事実さかい。これなら多少無茶しても問題ないはずや。モニターの数値もここ五時間程度ずっと安定しとるし、今投与しとる魔力安定剤と栄養補給の点滴はもう外しても大丈夫やと思うで」


 よく見れば目の下にクマを作っていた。

 もしかしてこの二日間寝ずに看病してくれたのだろうか。

 もしそうなら本当に感謝しなければならない。

 三依の頑張りがなければ今頃自分は三途の川を渡り総一郎と同じ場所にいたのかもしれないから。


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