第24話 情報収集第四PHASE 偽造作戦――休息


 炎と黒煙が晴れるも、そこは数分前とは全く別の場所。

 岩だけでなく土や砂の大部分が溶け接着剤のようにべとっとしている。さっきまで緑色の豊かで心落ち着く空間を作っていた木々は触れば崩れ落ちる炭と化している。

 そんな大地の上でも表情一つ変えずに涼しい顔で立つ者はAランク魔法師の総一郎。そして総一郎と闘っていたボロボロのさよ。爆発の中心部から離れていたとはいえ咄嗟の判断と行動力の高さで二人は防御魔法をそれぞれ使い対処していた。Bランク魔法師のさよは少しダメージを受けたらしく苦痛に顔を歪めているものの、大怪我せず生きていただけ流石と言えよう。


 対して、佐藤刹那と和田唯の姿はどこにも見当たらない。

『ゴッドフェニックス』の一撃を真面に受けたと考えれば身体が溶けていても可笑しくはない。

 だが、Eランク魔法師の刹那ならともかく、Aランク魔法師の唯もとなると少しばかり可笑しいとも思うさよと総一郎。


「――なるほど、そういうことか」


 総一郎は高台の方へと視線を向けて呟いた。


「奇跡だとしても咄嗟の判断と度胸。まぁ、良い。その度胸に免じて今は渡して置いてやる。だけどお前は必ず俺の前へと来ることになる。そうだろ? クククッ」


 不気味な笑い声を出しながら総一郎は心臓を貫かれ黒焦げの死体となった総次郎の死体を見る。


「流石にこれは……何と言うか……自業自得を超えてバカだな」


 自分の魔法を受けて最後を迎えた弟。

 チラッと見るもすぐにさよの方へと視線を移し手を伸ばす。


「俺は正直お前の身体には全く興味がない。ただのミイラみたいなお前(女)にはな。だが、俺を満足させる玩具になることはできなくても、使い捨ての道具程度にはお前にも価値がある。喜べ――臆病者に安らな眠りよ『深眠誘魔』(スイープインヴァイト)」


 この時の総一郎は内心穏やかではなかった。

 普通に考えて、龍一だけでなく総次郎までを倒した刹那は既にボロボロのはずだった。なのに最後の一撃を喰らう瞬間、恐らくだが唯を護る為だけに全身の力を後先考えずに解放し我が身を盾にしてこの高台から飛び降りたのだろうと推理していた。高台の高さは数十メートル。それを命綱なし、それも大切な人を抱き抱え躊躇いなく飛んだと言う事実はあまりにも無謀で命知らず。


 それでも嫌な予感がするのは。

 きっと――。


「お前を助けに必ずアイツは地獄の底から這いあがって来るのだろうな」


 クスッと鼻で笑い、魔法で強制的に眠らせたさよを肩で担ぐ。

 もう戦う力は刹那には残っていないだろう。

 逆を言えば今からでも後を追えば瀕死の男を始末できる。唯は途中から魔法の精度が急激に落ち弱体化し頭痛を発症させ今も続いている。現状総一郎を相手に抵抗するだけの力があるとは考えにくい。


「だが、いけると言う曖昧な判断をした結果がアイツらの末路」


 総一郎は魔法を使ってここから飛び降りた所で隠れられていたらもう遅いと判断し、「俺はアイツらと違う。このミイラ女を餌にお前たちが来るのだ。獲物を追って地べたを這いずり回って許しを請うことこそ下の役目。上の者はいつの時代も待つが理だからな」


 名家に生まれ持っての権力、生まれ持っての魔法師としての才能、その二つが総一郎に自信を与え心にも余裕を与える。恋敵さえ始末すれば後は俺の初恋が成就すると――確信していた。

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