第20話 情報収集第三PHASE 偽造作戦――対峙
「二撃か。まぁ雑魚にしてはよく持ちこたえた方だろうな」
Cランク魔法師の男が本気でEランク魔法師を殺しにいったのだ。
当然の結果だ。
そう言わんばかりの高笑いをして、勝利を味わう龍一。
黒煙の端の方から見える真っ赤な炎の揺らめきは黒煙の中がどうなっているかを見なくても想像させる。本来であれば対集団戦用の攻撃魔法。それを生身の肉体だけで受けきることは不可能。仮に受けきれても次々と起こる爆発と炎が全てを消し炭にしてしまう。それでも悪運が強く生き残っても肌は黒く焦げて誰かが分からない状態になっていることは間違いない。
「どちらにしろ、俺の勝ちだ。さて女の方はどうなったかな」
黒煙の奥で戦っていた護衛の二人とさよの元に行こうにも流石に目の前の炎熱地獄の中を歩いて行くのは無理だ。
そう思った龍一は頭を掻いて、ため息を一つ。
回り道をしていくしかないと言うめんどくさい選択を強いられたためである。
そのまま足を動かしながら龍一は鼻で笑い、炎の中にいる人間をバカにした口調で告げる。
「あの世でちゃんと見ておけよ。お前の女が俺の女になり一生懸命奉仕をする瞬間をな。本当は生け捕りにする予定だったんだが気が変わった、許せカス」
「それは叶わねぇよ、下種野郎が」
はっ!? と。
黒煙が晴れ炎の中から聞こえる声に龍一の動きがピタリと止まる。
目を凝らしても炎の中には誰もいない。
なのに声が聞こえてきたからだろう。
俺は攻撃を受ける前に左手で地面を殴り強引に開けた穴へ避難した。同時に素早く熱さ対策で【文字】――氷を使い身体を冷却。
おかげで致命傷は避けられたし、生き残ることができた。
ただし魔法――【暴走】を使い限界を超えた一撃を放った左手は骨が折れもう上手く力すら入らないでプランとぶら下がっている。
それでも目の前の下種野郎を驚かす為の対価だったと思えば安い。
歩いて炎から出てくる俺に龍一が思わず一歩退き、口に咥えていた煙草を落とした。
「やれやれ、この程度の攻撃で死ねるかってんだ。やっぱりそうだよな――」
――頼む、力を貸してくれ
『了解した』
俺は一人呟いた。
それは最後通告のようにただ一方的に。
「――出し惜しみして勝てるほど甘くはねぇよな」
未完成魔法行使の代償を気にしてはいられない。
左腕のように限界を超え負荷に耐えきれなくなれば使いものにならないリスク。
いや下手したら臓器に影響を与えて死ぬかもしれない。
だけど――それに怯えていてはダメだと自身に言い聞かせる。
恐らく普段なら百回戦って一回勝てればいいぐらいの実力差があると思う。
だったらその一回をここで持ってくればいいだけの話し。
何かを失う覚悟がないものが何かを得ようなどとそんな虫のいい話はこの世に存在しないのだから。
魔力を指先に集中――【水】。
続いて――【氷】。
魔力を使い書かれた文字を脳が認識。
脳神経を通して全身の魔力回路から魔力が抜き取られ俺の周りに水が生成される。
それらは俺を取り囲むように燃えている炎と混ざり炎を弱める。弱まった炎の熱を奪う氷が地面に生成される。
消火には程遠いが、俺の身長以上にあった炎は俺の腰ぐらいの高さまで勢いを弱める結果となった。今はまだこの程度が限界かと自分の限界を思い知らされるが、これで下種野郎をぶん殴るための通路を確保した。
俺は龍一だけを見る。
忘れてはいけない。
魔法師と言えど、所詮ただの人間。
殴られれば痛いと感じるし、炎に触れれば熱いと感じるし、得体の知れない物には恐怖を感じるただの人間。
そう――龍一の星屑の業火(スターダストフレイム)を生身で受けきった者は今まで誰もいない。それは辺り一面に視線を飛ばせば誰でもわかる。地面の小石や砂が炎の熱で溶け始めるほどの威力があるからだ。そんな炎でも熱を奪ってしまえば見た目が派手なだけで大したことはない。
「――ど、ど、どうなっている!?」
一方で龍一は目の前で俺が炎の海の中を平然と歩いている理由を全く理解できていないようだった。
唯のように防御魔法があればこんな回りくどい方法に頼らなくて良い。
つまり才能がないからこそ、弱者が編み出した知恵だからこそ悔しいが俺より魔法師の才能があるのにも関わらず予想外の事態に冷静さを欠き少しパニック状態陥った龍一にはこの原理が上手く理解できないのだろう。焦りは冷静な判断力を奪うというわけである。
俺は確実に一歩ずつパニック状態に陥った龍一に近づいていく。
相手の動きをしっかりと見て丁寧に対応する。
今はそれだけに集中する。
余計なことは考えない。
龍一の魔法はどれも高火力な反面発動までに時間を要する。
言わば、その瞬間は必ず龍一が無防備になるとも言える。
そのデメリットをこちらが勝つために有効活用させてもらうおうというわけだ。
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