第19話 情報収集第三PHASE 偽造作戦――抗争



 まるで人の皮を被った獣に俺は愕然とした。


「女を従わるには拷問や薬物と言った方法がある。特にお前の身の回りにいる女はなぜか気が強く簡単には屈しない。そんな女がそれらに負け自ら懇願して来たら最高だと思わないか?」


 俺が抱える怒りは純粋な怒りではなくなった。

 憎悪に塗れ、人殺しを悪とすら思わない殺意の塊へと変わっていた。

 全身に鳥肌が立っているのは気が昂っているから。

 自分の考えが絶対。

 理性ではなく本能に従い本能を善とした快楽主義の生き方。

 人の生き方を否定することは基本したくないが、そんな理不尽で人を苦しめる生き方だけはどうしても許せない。

 頭の神経がブチ切れてしまう。


「どうしょうもない下種野郎だな! てめぇーーーーはよ!!!」


 頭で考えるよりも早く二本の脚が素早く動く。

 身体に迷いはなく放たれた銃弾のように、風を切り裂いて一直線に最速で龍一へと向かう。

 魔法を使わない世界ならそれで通用するかもしれない。

 だけど、魔法が当たり前の世界では通用しないかもしれない。

 でも違うんだ。

 通用するしないの前に、目の前の下種野郎をぶん殴りたいかそうじゃないかなんだ。


「お前たちは女を捕まえてこい。絶対に殺すなよ」


「「御意」」


「さてお前の相手はこの俺だ。光栄に思え、カス。劣等者にこの俺の実力を見せてやる」


 龍一には余裕があるのか護衛にさよの捕獲を命じ離れされた。

 背中から聞こえる「護衛は私が倒します! そのまま行ってください!」聞こえた声を信じた俺は振り向かず龍一の言動に注視する。


「――最大の鉄槌は我が握る引き金にあり――」


 煙草を吹かす。

 龍一が余裕を見せつけるように言葉を続ける。


「知っていると思うが俺の魔法は一撃が重たいぞ? まずは五秒だ。その五秒でお前は選択をしろ。潔く死ぬか無様に死ぬかを選べ!」


 両者の距離は十五メートル。

 間を詰めるには時間にして五秒では足りない。

 だけど、俺は足に力を込めてさらに加速し五秒後の未来を掴みにいく。


「この魔法の難点は魔力を一点に圧縮する時間が必要な所だ。だけどお前みたいな劣等者には一生超えることができない壁だと気付かせるにはもってこいの破壊力を秘めている。さぁどうする? 後三秒だ」


 手の平に浮かんだ小さな黄色の円形魔法陣が時間経過と共に完成していく。

 だけどビビッてはいられない。

 俺はさらに三歩踏み込んで距離を半分に縮める。


「防御魔法を持ち合わせていないお前はそうするしかない。そう、死ぬと分かっていながら死地へと進むか、尻尾振って無様に逃げるかの二つに一つ。後二秒だ」


 その間にさらに一歩、全身のエネルギーを運動エネルギーへと変換して凄い勢いで駆け抜ける。

 それでも龍一は余裕の笑みを崩さない。

 まるで俺を脅威に感じていないかのように。


「残り一秒」


 小さい魔法陣が俺へと向けられる。

 龍一はニヤリと口角をあげて微笑むと煙草を吹かしながら「死ね!」と煙と一緒に言葉を吐き出してきた。


「――ファイナルアウト!」


 龍一が魔法名を叫んだ瞬間、魔法陣から魔力を圧縮した巨大なレーザービームが轟! と凄まじい音と共に放たれた。


 まるで目の前にある障害物全てを消し去るような一撃は高密度エネルギーとなって射線上の物を巻き上げて消し炭にしていく。地面が後を残すように削られ黒くなっているのは焦げているからだろう。触れてもないのに、危険だとわかる一撃は俺を向かい討つかのように正面から迫ってくる。

 巻き込まれたら有無を言わさず一瞬であの世行き決定だと直感で思った俺は足を止めて全力で横に飛んだ。


 身体を五回転させて、素早く起き上がる。

 同時にさっきまでいた自分の場所を確認すると、地面が抉られて塵一つ残っていなかった。


「――炎の塊は夜空を羽ばたく弾丸となりて、己が敵を打ち砕く弾丸となりて――」


 危なかった。


 死ぬかと思った。


 だけど生き残ることができた。

 たった一撃で実力差を感じて冷や汗を流す俺を見て龍一は笑っていた。


「気を抜く暇があるのか? ――星屑の業火(スターダストフレイム)!」


 龍一は笑いながら、今度は空中に出現させた魔法陣から小さな炎の塊を振り撒いてきた。まるで夜空を流れる流れ星のように綺麗な炎を纏った石は灼熱の弾丸。油断すれば一瞬で生命活動が終了する。

 魔法と魔法の発動時間のタイムラグ=俺が無意識に先ほど安堵してしまった時間、だと仮定した場合状況はかなり悪い。いちいち結果を気にしてはいられない。気にする時間があるなら攻撃に打って出なければ一方的な攻撃をされてしまう。


 弾丸は地面に触れると辺り構わず小規模な爆発を広範囲に起こす。

 熱と閃光が視界を歪ませ、爆発音が耳を襲う。

 さらに爆発音とは別の音も。

 そして黒煙が舞い、辺り一面を見えなくしてしまう。



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