第12話 情報収集第三PHASE 旧師妹の絆(前編)
月明かりが照らす一室。
そこから繋がるベランダに続く扉を開くと、カーテンが風で揺れた。
ベランダに出るさよと唯。
スーツ姿のさよはベランダの手すりから身を乗り出すようにして夜の街を見つめる。
私服姿の唯はその隣にやってきて同じように身を乗り出すようにして隣に立つ。
――かつて師妹だった二人は今でも師妹だと言われれば違和感がない。
例え一度は離れた中でも二人の絆は決して変わる事がない緑。
「対立した時、魔法師の世界では話し合いもしくは武力行使が当たり前と昔教えてくださいましたよね?」
と、さよはどこか懐かしい過去を思い出したように呟く。
「そうね。それは今も昔も変わらない事実だからね」
チラッと視線をさよに向けては唯が頷く。
魔法師の世界では対立する者同士が戦い死ぬことは当たり前。
ある意味武力行使が認められた世界。
だから康太を殺した事は大きな問題にならなかった。
「魔法がない世界では人殺しは重罪だと昔異世界人に聞いたことがあります。彼も異世界人なのですよね?」
「そうよ。恐らく私たちが知っている異世界よ」
「やはり彼はよくこの世界に飛ばされてくる世界線の人間でしたか」
少し困った表情を見せるさよに唯は「気付いていたのね」とボソッと呟いては外の景色を遠目に眺める。
魔法――体内に巡る魔力と呼ばれる気みたいな物を媒体に人間の域を超えた超常現象を引き起こす現象のこと。異世界から来た人間はこの世界に来る途中で時間軸を飛び越え魂だけを維持し身体(器)が作り変えられる。そのため、目が覚めた時にはこの世界の人間と同じ身体となっている。逆を言えば、異世界転生をした者は同じ人間になるとは限らない。仮になっても肉体の再編成の時に性別や年齢は異なる可能性がでてくる。
それが異世界転生の秘密の一部。
だけどこの世界では魔法学に精通している者なら誰でも知っている内容。
「その彼が和田家のオリジナル魔法を継承したことには驚きました。あれは当主と当主を支える者だけに継承が許された魔法のはず。それを彼が使える理由を聞いてもよろしいでしょうか」
「知っても別にいいことはないわよ?」
「あの魔法が引き起こす現象は人の域を大きく超えています。もし彼が裏切るようなことがあればそれは黙認できることではありません。なにより彼が正規のルートで習得していないのならここで消す必要があります」
さよから向けられた疑問の眼差しの意味に気付いていながら、気付かない振りをする唯。
二人の間に沈黙が生まれる。
――。
――――やれやれと。
「まぁ、さよからすればそうなるわよね」
【文字】それは脳に超常現象を起こすためのきっかけを作る魔法の一種。
故に【文字】が進化し【具現化】になったとき、『神殺しの剣』と書けばそれが具現化されるある意味最強の魔法であること。
【暴走】それは肉体の限界を超えることができる防衛魔法の一種。
故に人間の限界を超えることができ、神殺しの剣を手にした人間が神を殺すほどの身体能力を得ることと同義。
二つで一つであり、一つでも存在する、別名表裏一体魔法とも呼ばれる魔法は和田家の当主と婿が代々継承してきた相伝の魔法。
「私が教えたわ。刹那には魔法の才能がなかった、だから……仕方なくね」
「才能がないのに、ですか」
(教えた? つまりなにか意図があるのでしょうか?)
昔から気付いてほしくない事にはよく勘が働くさよにため息一つ。
「はぁ~、今は詳しい理由までは教えれないわ」
――過去に戦で家族を失った唯の後継者もしくは婿候補と言えばそれで終わる。
なぜなら和田家もかつては世界的に名が知れた名家だったのだから。
その頃福井家は分家として和田家に尽力し精一杯支え続けた。
「では、別の件でどうしても気になる事があるのですが、お聞きしても良いですか?」
「いいわよ」
「では失礼を承知で質問させていただきます。あの日、野田家の兄弟と分家の者たちに強姦されたというの事実なのでしょうか?」
「……えぇ」
「そうでしたか。でもそこが不可解な点なのです」
「なにが言いたいの?」
「唯様ほどの実力があればあのような者ども四人相手でも逃げることが出来たのではないですか?」
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