第9話 情報収集第一PHASE 合流
俺はさよの提案を受け入れる事にした。
ホオズキ街とはサルビア街の隣町であり野田家の本家がある街で有名である。
今さらだが康太と龍一は野田家の分家の人間である。
つまり俺は野田家に全面的に狙われている状態でもあるのだ。
そんな俺の心情を知ってか知らずかさよは涼しい顔で堂々と俺の隣を歩いている。
なにより途中何度も建物や風景そして道の説明など全て丁寧にしてくれる所に彼女の優しさを感じる。
■■■
「おっ! お帰り~。とりあえずそこに座って。お話しはそれから」
情報収集を終えてホテルへと戻って来た俺を出迎えてくれたのは唯だった。
あれから観光者を装って四時間ほど歩き続けて流石にもう足がパンパンで疲れ切っていた。ここに来るまでも歩いて、ここに来てからも歩いてと一日中歩いていたら疲れて当然といえば当然だろう。ただそんな俺とは対照的に元気が有り余っている唯の笑顔が眩しいように感じるのはきっと気のせいではないだろう。
なんとなくだが、恐らく退屈だったのかもしれない。
もし俺が逆の立場で目が覚めた時にまだ弟子が帰ってきてなかったら、話相手が欲しいと思っていたかもしれない。ホテルには旅路に最低限の物しか持ってきていない為、当然ながらゲームなどの娯楽は一切持ってきていない。
「はい、これは頑張ったご褒美よ」
そう言って唯は俺にミルクティーを差し出してくれた。
ちょうど疲れていたのでこれはとても嬉しい。
元々甘い物が好きな俺は思わず頬が緩んでしまう。
「ありがとうございます」
お礼を言って一口。
うん、最高である。
疲れ切った脳に糖分が染み渡るこの感覚がまた絶品である。
なんだかんだ唯は優しい人だと思う。
俺が頑張った後はさり気なく褒めてくれたり、ご褒美を用意してくれる。
昔から弟子には基本的に甘い人間らしい。
これはさよに聞いた話しだが、唯がさよとその姉である三依と三人旅をしている時もそうだったらしい。
三依は俺の背後でクスクスと声を殺して笑っているさよの上司でもありここの支配人をしている。まだ会った事はないが、いずれ会う機会があるだろうと情報収集をしている時にさよから言われた。さよ曰く唯から医療魔法も教わっており自慢の姉だと言われた。
興味があるなら会ってみますか? と言われたがそれは丁重にお断りさせてもらった。流石にさよだけでも緊張している中にお姉さんまで来られたら精神が休まらないからだ。
「あっ、さよも遠慮せず座っていいわよ?」
「いえ、私はこのままで結構です」
「相変わらず真面目さんなのね」
「これは生まれ持っての性格ですので勘弁してもらえればと思います」
唯は俺の後ろに立つさよを見て俺に視線を戻した。
すると、
「本当に刹那より年下なのかな? って思うぐらいにしっかりしてるわね」
と、言われてしまった。
確かに、見た感じ服装一つにしてもピシッとしているし、一つ一つの立ち振る舞いも俺より大人って感じ。それに礼儀正しくて、清潔感も持ち合わせていて、サルビア街に不慣れな俺をしっかりとリードもしてくれた。
悔しいが二つ年下の彼女の方が社交性含め、俺より能力が高いことは認めるしかあるまい。もっと言えば魔法師としても。これは男として格好悪すぎるが事実なので咳ばらいをしてせめてもの抵抗をしてみる。
これが逆に子供っぽいことは自覚しているが、からかわれているのが恥ずかしくてついしてしまった。
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