第6話 旅路の目的を達成する為に


 一度着替えたいというので、俺は唯の部屋を出て廊下で着替えが終わるのを待っている。本来なら寝ていたベッドまで戻っても良かったのだが、着替えが終わったら出発するということなので渡り廊下で待つことにした。旅に必要な荷物は私が私物と一緒に持っていくと言われ、俺はリュックを一つだけ。その中に着替えや必要最低限の物が入っている。


「お待たせ」


「いえ、大丈夫です」


「ちなみに鍵かけなかったけど何で覗かなかったの?」


 一歩近づいて、少し無理した笑顔を見せつつからかってくる唯が可愛いくてクスッと笑ってしまう。


「もしかして俺に見て欲しかったですか?」


 ――ドスッ


「ばぁーか。ほら行くわよ」


 お腹を軽くポンと叩かれた。

 普段ならどうって事ないのだが、今はまだ傷口が痛むので結構痛かったりする。

 でも少し無理をしてる感じがするも、冗談を言える元気はあるみたいで少し安心した俺は急いで唯の後を追った。




 ■■■


 二人で歩くこと一時間程度すると目指していた街に到着した。


「ここは……どこだ?」


「刹那は来るの初めてよね?」


「はい」


「ここはサルビア街よ。野田家がいるホオズキ街の隣街ってところかしらね。なにをするにしてもまずは拠点が必要だからね」


 つまり今回はこの街を拠点にして動くというわけだ。

 わざわざ相手の本拠地で活動する必要もなく、隣街と言うことで情報もある程度は入ってくるこの場所を選んだ唯。

 どうやら俺の復讐に力を貸してくれるらしい。

 それが唯の目的にも繋がっているのなら理に叶っているとも思う。


 唯に案内されたのは街中の中心部にある豪華な建物――サルビアを代表するホテルだった。


「割高だけどここはセキュリティもしっかりしてるし、顧客の情報は絶対に外部には流さないわ。それにここのオーナーもかなりの権力者。仮にマスコミや野田家でも簡単には手を出せない場所ってわけね」


「……なるほど」


 あっけにとられる俺を見て唯が説明をしてくれた。

 万が一不備があってもここなら安心だと言いたいのだろう。


 なんのアピールか前いた世界で言う魔法のカードを見せてきた。

 つまり行くしかないのだろう。

 いざという時の経済力では俺は唯に一生勝てないと思わずにはいられない。



 唯が受付を済ませ案内を聞いてから部屋へと移動する。

 俺はただその後ろを黙ってついて行く。


 すれ違う人たちはこちらには興味がないのか、見向きもしない。

 あんなに噂になっていたはずなのに。

 少なくとも新聞に載るぐらいには。

 そんなことを疑問に思っていると、唯が小声で教えてくれる。

 どうやら顔に出ていたらしい。


「大丈夫よ。噂が本当なら私が刹那を此処に連れてくるわけがないって皆薄々感じているのよ。噂はあくまで噂でしかないから、皆自分の目で見た光景を第一に信じるのよ。それが一から努力し頑張ってきた成功者の考え方なのかもしれないわ」


 要は目の前の出来事を一番に信じるというわけか。


 それは裏を返せば自分の目で見た物以外は半信半疑で疑うと言う事なのだろうか。

 やはり雰囲気からして凄い人たちは人としての格も魔法師としての格もどこか違っていて当然凡人の俺とは考え方その物が違うのかもしれない。

 それにここにいる数人は顔見知りらしく、さっきからすれ違いざまに手を振られたり軽い挨拶をされている。


 そんな事を思っていると、どうやら俺の部屋に――。


「えっ? ちょっと待ってください。今私たちって言いました?」


「言ったわよ。ほら早く中に入って、いつまでも廊下にいたら他の人の迷惑になるから」


 どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 俺の部屋ではなく私たちの部屋に到着したらしい。


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