異界への途
「じいちゃん!?」
思わず声を出してから、しまったと思った。しかし、一度出てしまった声は引っ込んではくれない。一度口にした言葉は、何があってもなかったことにはできないのだ。
童女のぽっかりと開いた穴のようなうつろな瞳がこちらを向く。
「見ぃ~た~なぁ~」
地の底から噴き上がるようなおどろおどろしい声に、俺は思わず悲鳴を上げようとした。
……現実には、喉が張り付いたように動いてくれなくて、ひゅぅ、と情けない音を出すにとどまったのだけれども。
〽通りゃんせ通りゃんせ こぉこはどぉこの細道じゃ
童女が再び歌い始める。
その声は狂ったように高く低く歪に歪み、まるで虫よけの超音波のように耳に張り付いては脳をじかに揺さぶってくる。ああ、頭が割れるように痛い。
逃げなければと思うのに、足がまったく動かない。いや、それどころか、自らじりじりと彼女の方に這いよってしまうではないか。
〽ちょっと通してくだしゃんせぇ
〽ご用のないもの通しゃせぬぅ
――このままでは連れて行かれてしまう!!
俺はとっさに昔ばあちゃんが教えてくれたお経の一節を唱えた。
否。唱えようと頭の中に思い浮かべた。
――
脳裏で唱え終わったその瞬間。どこからともなく強烈な光があふれ出し、視界を真っ白に埋め尽くす。
気づいた時には夜がしらじらと明けていた。
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