第8話 ワンパン

 シュン!


 目の前に洞窟が現れる。


 フフフハハハハハハ。クルシャの村は俺が幼い時に住んでた村! ヒャッハー運が向いてきた。運強化もそういや引いてたな。そしてこの洞窟も小さい時に遊んだ記憶があるということは瞬間移動で洞窟の正面に来ることなど容易。


 そのままズカズカと洞窟の中に入っていく。猫目のおかげで暗いところもバッチリ見える。


 15分ほど洞窟の中を入っていくと、確かに普通のオークより二回りぐらいの大きさのオークが肘をついて横になっている。


「人間か失せろ。たかが人間1匹にやられる俺じゃない。死にたくなければ失せろ」

 そういってオークは立ち上がって、ヒクヒクとその豚の鼻を動かす。


 立ち上がったオークの大きさは小山のようでその大きさに若干の恐怖を覚える。


「お、お前を倒せば10連が回せるんだ!! 俺は逃げない!!」

「ふん! 10連とかなんのことかわからんが死ね!!」


 オークはそう言うと俺に向かって右の拳を振り下ろし拳が真っ直ぐに飛んでくる。その動きは完全に目で追えるが俺には試したいことがあった。


 絶対防御!


 左手から光の盾がでてその一撃を受け止める。受け止めた瞬間、俺の体は一直線に飛んでいき洞窟の壁に当たる。


 洞窟の壁に当たった瞬間ズガーンと壁が崩れそのまま岩に埋もれる。


「他愛も無いな……人間よ」

 そう言ってオークは俺に背を向けた。


 体に降り掛かった岩の破片をどけながら呟く。


「あいてて……まだ力比べじゃ勝てないのかぁ」


 ……やっぱり強化フェス引かなきゃだめだ。でもこいつは大したことないな。ちょっとビビって損した


 絶対防御のおかげでパンチ自体はノーダメ。吹っ飛んで岩に当たったダメージが5ぐらい入ってたぐらい。


 壁に空いた穴から出てくると、オークが狼狽しながら吠える。

「な、なんだと俺の一撃を食らっていながらまだ生きておるのか人間!!」


「でも力はお前の方が上っぽいから、やっぱりフェスを引かきゃいけない。だからお前はここで死ね」

 俺は一気に加速をする。素早さはAそして瞬発力強化もされている!


 オークは俺の加速についていけずあっという間に懐に飛び込む。そして火属性付与! と念じる。


「焼豚になりやがれ!!」


 そう言って右の拳で思いっきりみぞおち辺りを殴りつける。


 ボフっという音ともにオークの体から火が上がり、火ダルマになってそのままバタンと倒れる。


 よっしゃ10連ゲット!! ってこのままこいつをここに置いていくと、彼奴等が倒したことになるんじゃね? 

 ということで、小山のようなオークを背負ってギルドに瞬間移動するように念じる。場所は受付前。


 俺が瞬間移動をしてきてからギルドはザワザワと騒がしくなる。


「おいおい。あいつまた急に現れたぞ……今度はバカでかい黒焦げのオーク背負ってるし……」

「あれを一人で倒したってこと? ありえないだろ……」

「いやいやパーティだろ」

「でもあいつ急に現れるような不思議な力つかってんだぞ?」


 俺の話題で持ち切りだ。フェス10連間違いなし! 


「次の方」

 受付のお姉さんはちらりともこちらを見ずに事務的に声を掛ける。


「クルシャ村のオーク倒して来たので、銀貨30枚ください!」

 そういうとこちらをみた受付のお姉さんは目を丸くして「は?」と一言。

「これ、そのオークです」

 背負ってるオークを見せる。


「どうせその辺のオークを捕まえて燃やしたんでしょ? どこでそのクエストのことを聞いたのか知りませんが、私達を騙そうとしてるんですか? だいたいクルシャ村まで丸1日はかかるんですよ。ありえません」


「普通のオークより全然おっきいですよこれ。それに俺、瞬間移動が使えるんです とにかく俺は銀貨30枚欲しいんですよ!!」


 そう言うとハァとため息をついて頭を抱えて呆れたというような口調で話す。

「そんな話、信じられる訳ないでしょ……」


 するとオールバックの髭の人がカウンターの向こう側からポンポンとお姉さんの肩を叩く。お姉さんは振り返って驚きの表情をする。

「支配人!」

「私が変わります。あなたは奥へ……」

「は、はい……」


 支配人ってここで一番えらい人だよね……


「すいません。ウェブさん。受付のアンナが失礼なことを……確かにあなたが背負っているオークは当方がに討伐を依頼したものです」


 き、きたーーーー。さっすが支配人話が分かる!! これで10連ゲット!!


 キリッと厳しそうな表情で話を続ける支配人。

「ですが! 報酬は我々が依頼をしたパーティに支払われる。それが原則です。クエストの横取りをしたものに報酬の支払いをするとパーティや冒険者との信頼関係が損なわれる。分かりますよね?」


「……はい……でもどうしても金が欲しくて……」

「ですから、今回のクエストの報酬はお支払いできません」

「そ、そんな……」


 支配人はその厳しそうな表情を一転させにこやかに俺に話しかける。

「で、あなたに相談があります」

 そういうと支配人はカウンターからこっち側にでてきて、俺に付いてくるように話す。


 支配人に通された部屋は綺麗な装飾品などが置かれた部屋で、中央にフカフカそうなソファが鎮座している。

 そして支配人と向かい合うような形でフカフカのソファに座る。


「ご相談というのはですね……とある貴族からの仕事の依頼です」

「貴族……」

「ええ。今は名前を明かせませんが、ソロで実力のある無名な人間を探しているお方がおりまして、あなたにうってつけかと思いまして」

「で、報酬は?」


 支配人は目を細めてこう言った。


「前金で金貨3枚。成功報酬で金貨3枚」

「へ……今、なんと?」

「前金で金貨3枚、成功報酬で金貨3枚。引き受けて頂けますか?」

「はい。喜んで」

 俺は何も考えずに即決した。

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