第12話 Episode0Ⅱ

「以上が私からの提案です。容認の方お願いしますね。市長」

「分かりました」

 あくまで淡々と二つ返事で市長は返す

 ここは都市・アルカナムのビル街その中で一際高いビル、スカイテレーズの最上階にある市長室。エルゾットは市長との面会を済ませ、手配していた車に乗り込む


「変わりましたね。あの男も」

 悲壮感漂う言葉なのに何処かご満悦なエルゾットを運転席のリゾットが見遣る

「その御様子ですと交渉成立のようですね」

「えぇ、別に交渉自体は通ると思ってましたが彼のをふと思い出しましてね」

「悦に浸っていた訳ですか…」

 リゾットが少し呆れながらも腑に落とす

「君も中々面白いジョークをしますね。単に昔のことを懐かしんでいただけですよ」

 その表情はいつも通りの笑顔だが少し不機嫌にも見える。向かう先の道すがらだがまだ少し時間があるので2人は会話を続ける


「これは失礼しました。生まれが下なもので」

「君のそういう所嫌いでは無いですよ。最もこれからの社会を担ってくれる子供達には不必要なものですけど」

「そういう意味では市長こそが新時代の完成系なのかもしれないですな」

「彼はデモ版に過ぎませんよ。人は日々、成長しなければ意味が無い。完成させる為には完璧でなければいけない…もうすぐですよ」

「貴方様の切り開く道の果てをこのリゾットも見てみたいですな」





 _____「お待ちしておりました」

 気品溢れる彼女、クロウデェンが入口で頭を下げている。あの市長してこの女ありと言う所だが彼が今持ち合わせていないものも受け継いでいるようだ

「勝手に尋ねたのは私の方ですから肩の力を抜いてもらって構いませんよ」

「お気遣い感謝致します」

(会議室へのご案内を開始します)

 配置されているAIがシステムマニュアルを開始した


「我々が話したい事はアルカナム学園で行う事の概要です。貴方にも話しておかないとフェアじゃないですからね」

「分かりました」

 承諾はしたが勝手に探られては困る事でもあるのだろうか…といった事を考えているのだろう。それも含め大した問題は無い



「まず私が運営している施設はご存知だと思いますが、今回から学園での運用をさせていただくことになりました」

「確か人工管理塔ジュエリー児院などで賄えきれない子供達を引き受ける仮児院みたいなものでしたよね」

「便宜上はそのようになっていましたね。貴方が裏でお人形遊びを企んでいるように私も少し手を加えてきました」

「そうですか…」

 心当たりがない。そんな顔を浮かべながらもクロウデェンは勘ぐっている



「ここまでは周知されていた事だと思いますが本題はこの先にあります」

「はい」

「これまで私達は児院、学園共に情報の統制を行ってきました。ですがこれから先の学園ではこの情報を解禁しようと思います」

「意外なことを仰られますね…」

 無表情なクロウデェンも少し驚きが表に出る


「勿論、機密指定レベル3までの情報にはなりますが、それでも旧文明の過去の知恵を大衆に詳らかにすることは本当なら有り得ない事に変わりはないですが」

 統治者や管理者達などにしか知らされて居ない事だがこの都市の情報は機密指定によって閲覧の管理がされている。大勢の市民は過去旧文明の出来事や都市の内情について、断片的な事や改変されたものしか見れないようになっている


「流石に全てを詳らかにするとは思っていませんでしたが、それでも情報を開示することを官僚や統治者が反発しないとは思えないですが」

「市長には許可を取ってあるのでその辺のことは、なんとでもなりますよ。それに私はこれでも貴女の事を買っているつもりです。これは手助けだと思ってください」

「市長が…そうですか、お心遣い感謝致します」


「無知の知。今まで児院の子供達は限られた知識や能力の中でこの世界を知っているつもりだったと思いますが、その知識がいかにずさんなものだったかを知る機会になる事でしょう」

「知識が無く自分達が管理される側に居たと気付かされると…」

「はい。その上で今の環境に堕落し身を投げる事も良し、旧文明の考えに真実を見つけ落とし所を見つけるも良し、都市を変革しようと思い立つ者も現れるかも知れません」

「大臣の考える先は破滅への道…ということですか?」

「いえ、私の考える答えは再生です。一度勢い付いた者たちを私の手で壊す事で完璧なものになる」

「あくまでこれも貴方の試験的運用の一環って事ですか」


「そうなりますね。私がやってきた事の確実性を出す為に必要なテストですよ。成功すれば彼らが持つ疑念や憎悪、喜び感情の一切は消えてなくなるのですから」

「やはり私が考える進化の過程とは違うみたいですね。人は感情を持たずして成長しない」

 父とは違う強い眼差し。表情こそは冷淡だがその眼が見せる輝きには昔の市長の面影そのものだ


「それも含めてこの学園を通して決まることです。既に私が運営する子供達はその成長の一旦が見えていますが。脳に埋まる電脳補完ICは非常に優秀ですね…やり方次第で可能性が広がる」

「改変を加えたのですか?しかしあのチップはあくまで補助的なもの。あの小さなメモリーで感情を消去するまでの作業は不可能だと思いますが」

「えぇ。ですからやり方次第で、ということです。クロウデェンさんも試して見ますか?非常に心地の良いものですよ」

「私は遠慮させていただきます」

 実情が掴めていない不信感からか、いつも以上の警戒をみせる



「施設の話はこれくらいにしておきます。アルカナムに秘められた可能性はご存知だと思いますが今回はそこにも力を入れさせて頂くので心の準備だけしておいて下さい」

「意外と欲深いのですね。目の前の問題を着実に解決しないと足元救われてしまうかも知れないですよ」

「翻訳や記憶違いによって本の内容に齟齬が出てくる事はありますが、何度読み直しても結末は同じものです。この筋書きは既に完結しているのですから」

「物語は改変を加えられませんが、現実は違います。後書きを加え変革をもたらす事が出来るからこそ、私も大臣もこうして思考を巡らせられる」

「今はそうですね」

「今はですか」


「いずれ私がこの世界の絶対になった時同じ事を言えるか期待しておきます」

「神は死んだ。いえ、私が殺します。この世界に必要なのは道ではなく方向を示すだけですから」

「そうですか…ミス・クロウデェン貴方の事を少し分かった気がします」

「私もです。相容れる事はないと思いますが価値観が違えば貴方の下に着くことも有り得たかも知れませんね」

「ではまた二年後。この場所で答え合わせをしましょう」


「はい」



 Episode0 -完結-



 _____後書き 神になる男と神の代理人である女二人の思考がぶつかる形です。次から正真正銘、学園編ですのでよろしくお願いします

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