第8話 最終試験IV(後)
あまりに理不尽な獲物を前にこちらが狩る側という事さえも忘れてしまいそうだ。
攻撃を加えなければ、興味してこないのが救いだが食糧も医療技術もないこの空間に長居する事は死につながる事だろう
「ンなもん決まってんだろ??刺し違えてでも首を潰しちまえば良いだけさ!」
絶望禍で一際元気な声と共に駆け出す少年が居た。ミノタウロスの動きを完全に見切り頭目掛けて槍を突き刺す…
「リツチームクリアです」
「やりぃ!!」
強化剤の力…いや彼の先天的な才能は規格外の怪物すらも討ち取ると言うのだろうか
その後も防御壁を使い攻撃を無力化し、弓矢で撃ち抜くチームや強化剤を2人で使い先程落ちていた棍棒で足を叩き体制の立て直しを図るミノタウロスを短剣で着くなどして突破していくものが出た
「あたし達もそろそろやらないとまずいんじゃない??」
「セルシオが焦る気持ちもわかるよ。だけどこれまでのどの方法も博打なんだ。防御壁は1度の攻撃で壊れてしまう、決して何度も攻撃が通る訳じゃ無い。それにミノタウロス達は壁を挟んではいるが戦いの中で学習しているのかもしれない。そんな風に考えてしまう程動きの幅に広がりを見ている、無知だが知恵がない訳では無いのかも知れない…せめて動ければ、、」
「じゃあどうするってんだよぉ!ソラ…てかお前顔色相当やばいぞ」
タイムリミットが近いかも知れない。止血をしたとは言え完全に止まったわけじゃない。少しでも激しい動きをすれば傷口が広がってさらに時間はなくなるだろう。目眩が酷い…酸欠かも
「ソラ!しっかりして!!」
「残っている牛は5体。個人の主体性を期待したかったのですが…あまり面白くありませんね。これより1人殺す事でチーム関係なくその人単体を合格にします。但しあくまで個人間でのみ有効です。チームプレイでの殺害はこれまで通りポイントの分配だけ行われます」
「クロウデェン!!!!!テメェェ」
「ルージ…辞めておいたほうがいい。僕達はこの場の生殺与奪の権利を握られてしまっている。楯突いて何されるか分かったもんじゃないよ…」
自分にも似合わない。いつにも増して弱気な発言が出る
「だけどよ…こんな理不尽なルールに耐えろってのかよ」
「理不尽だけど決して殺しのメリットだけがあるとは限らないよ。ルージ耳貸して」
僕は全体に伝えるほどの気力がないのでデメリットの詳細を話し伝えてもらうことにする。
「えー、殺しで1人が免除になってもチーム全員がクリアする可能性は少ない。他チームから憎まれることになればクリア難易度は必然的に上がる。だから、クロウデェンの言葉に騙されるな!!」
実行すれば仲間を見捨てることに繋がる。流石にそこまでのリスクを犯してまで殺そうとは思わないだろう
_____☆___クロウデェンは考える。
『20点。と言った所だろうか…生命力は目を見張るものがあるけど、彼の考えの根本にある仲間意識は、目先の小さな蜜の甘さを知らない所から来ているのだろう。人という生き物は結局のところ個人の利益に抗えない弱い生き物なの』
鹿狩りの寓話。ルソーの人類不平等起源論に登場する一節。全体の利益、つまり鹿をみんなで狩るという事だがその前に兎が通りかかったとする…すると人は、自分の空腹を満たすために兎を追いかけようとするのだ。その結果鹿を狩れなかったとしても、ね。
________ソラの想定は大きくハズレ、1人また1人と人が死ぬ。鳴り響く悲鳴と怒号が聞こえる…仲間と協力しミノタウロスを倒す。なんて考えが消え誰を殺して勝ち上がるか、、絶望の渦がどよめき殺伐とした空気がながれる。
「そんなっ…そ、んな、、」
どのくらいの時がたったのだろうか。いや実際には対して時間は進んで居ないのかもしれない。体も心も衰弱しきってしまった。いっそこのまま楽に…
「パチンッ!!」
僕の頬に電流が走る。途端頬に猛烈な痛みを感じた。目の前でセルシオが僕の頬を手で抑え僕を抱きしめる…その顔はどこか切なげで覚悟を決めた顔だった。
「しっかりしなさい。いい?ソラ、あんたはここで死ぬような人間じゃないし人を殺すような人間でも無い!!ミノタウロスを倒して、この試験を突破するのよ」
「でも、どうやって…奴らに勝つなんて、それに…もう」
「メソメソしない!ルージ、ソラの事はあんたに託すわ。不本意だけど!あんたのことは信頼してる!!」
「分かった。それがお前の決断なんだろ…俺には、止める資格なんて」
「もー、あんたまで泣きそうになって、、」
ルージとセルシオとの間に知らない会話が繰り広げられる。僕の意識の途切れる中で何か策を思いついたのだろうか…
「馬鹿なあたし達の頭ではこれしか思い浮かばなかった…どうしたらソラの手を汚すことなく突破できるだろーって、ソラ…あんたにポイントの全てを託すわ。それであんたがミノタウロスを倒しなさい!!」
ポイントを全部…?
「セル…シオは、どうなっちゃうの?」
「あたしは、ここでお別れ…!でもちゃんと、絶対見守ってるから!!
それにルイさんにも話はつけてある!」
「私が犠牲になれるものならなってあげたいのだけど、、」
「あんたには、あたしを殺してもらう。そしてその贖罪としてソラを助ける…その義務があるのよ!!」
分からない。わかんない。何故セルシオが犠牲になるの?何をしようと言うの?
分からない分からない分からない分からない
「セルシオ!僕は…どうすればいいの?」
「25pt…正確には24ptね。後の1ptを残してルイちゃんに殺してもらう。
そのポイントで銃を買ってミノタウロスを倒す!これで人を殺すことなくあたし含めて3人はクリア出来るって訳。」
「なっ、なんでさ…なんでセルシオが」
「ソラの意識が
「ソラの体じゃあほかの装備でどうこうって訳にも行かねーだろし、、」
「それに目の前のルイちゃんを残してまで生き残りたくないし〜」
「あたしは本当に…でも、ありがとうございます」
まって、なんで皆そんな冷静なんだ…いつだってそうだ。僕は決して冷静な人間なんかじゃない。自分の弱さを隠すために飾って…強い人間だと思い込んでいるだけだ、、、
「みんな身勝手だ!倒せるかも分からないミノタウロスを僕に全て押付けて、、」
「本当にごめんなさい。でも信じてるわ…ソラ貴方なら出来る。大好きよ」
僕に笑顔を向ける…怖いだろうに悲しいだろうに彼女の表情には涙を浮かべながらも強い光、心からの笑顔があった。
「さようなら。」
ルイの短剣が彼女の胸に突き刺さる。
嫌だ。怖いでも、僕も、、、、!!!
「セルシオ大好きだよ」
ちゃんと笑えてるだろうか…動かす表情筋が重たい。笑顔なんて作れない…でも
「その言葉が聞けて良かった…あぁ、、貴方の好きな私で死ねるなら本望ね」
「セルシオッ…俺、ぜってえソラを守るから。」
「私もあなたの事を忘れません…決して、、、、」
「ふふ。あなた達が居るなら心強いってものね…」
彼女の体温が下がっていくのを肌に感じた。死の最後の最後まで彼女は微笑み続けたのだった
____この腐りきった世界で1人の少女が己の正義を貫き、愛する人を守ったのだ。
誰からの支配も受けることの無い善なる愛で
ロズピエール亡き後、その弟によって見出され後にフランス全土にまでも及ぶ革命の英雄ナポレオン・ボナパルトは言った。
「勇気は愛のようなものである。育てるには、希望が必要だ。」
___後書き。まだ続きます。セルシオ、、、個人的にとても悲しいです。
キャラの魅力を引き出せていたか分かりませんが、伝わってくれたら嬉しいです。
今回のお話はソラの成長にも大きく関係してくるので、長いですが読んで欲しいです。
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