第4話 アルカナム最適合者
物心が付いた時には周りとの違いを感じていた。自分が何のために産まれたのか。何故こんなにも自由が無いのか、父親はどこに居ったのかそんな事ばかりを考えていた。
生まれた時から監視社会が当たり前で、与えられるカリキュラムをこなすのに精一杯で日々気付くことの無いであろうそんな違和感に、私は酷く嫌悪感を覚えていた。
この都市の秘密を知った時肩の荷がおりたかのように納得したことを今でも覚えている。世界からズレてるのは私ではなくこの都市そのものなのだと…
同時に落胆もした。この世界の常識をアルカナムは認めてしまっているのだから
なら導くしかないのであろう。都市そのものを
なるしかないのだ。神の代理人に
「待っていてください。お父様」
クロウデェンは、首から下げたペンダントを大事そうに擦り笑みを浮べた
_______☆_______
「着きました。大臣」
都市の外側にある十二区の一つ。ジュアリー児院を前にクロウデェンは呼びかける
「ここが、ジュアリー児院ですか」
エルゾット大臣の視察がきまり私達は、ジュアリー児院に訪れていた。
彼については不透明な部分が多く存在する。探りたいことは沢山あるが、今はこの場を乗切ることが先だろう。本当に、ただの視察であれば私が口を開くことなくAIに任せておけばいいのだけれど…
(お初にお目にかかります。私はここの管理を任せれて居る
「あぁ。そのくらいで構いませんよ塔のことは僕もしってますからね。君よりも」
(失礼致しました)
基本説明を終えたハイソリティが後ろへ下がり後をついてくる
「僕が知りたいのは、XXの事なのですがね」
「何かおっしゃいましたか?大臣」
すこし小声で何かを独り言のように呟く大臣が気になり声をかけてしまう
「何でもありません。所でミス・クロウデェン貴女は、人類不平等起源論をご存知かな?」
何か話を逸らすかのように大臣は尋ねてくる。先程の独り言の内容が気になる所ではあるがここは話を合わせることにする
「
「自然状態の下、平等。一件我々の社会とは真反対のものにも見えますが。ただ捉えようによっては、同じようなものです。特なくして恐怖は忌わしく、恐怖なくして得は無力である」
ルソーを指示し王権制度撤廃を求め恐怖政治を行ったロベスピエールの言葉を
この社会で支配者の立ち位置と言っても過言では無い彼が言うのはルソーからして見れば皮肉を通り越して冒涜だ。
「同じようなもの…ですか。知識を与えなければその事柄に対しての欲求や、違和感を感じることがない。自由を奪う事を常識とする事で平等な無知が生まれると」
本来のルソーは誰からの支配や従属も望んでおらず自然法におもきを置いているのだが、似た考えだと捉えるなら支配を強いる私達を神とでも規定しているのだろうか
「その通り。それが我々が都市としての形を保つ為に出来る事だと考えたからです。そのために我々は徹底して感情、思考を奪ってきました。」
「ここより他の孤児院が顕著な例ですね。しかし大臣、行使するのが人間である以上厳しいのでは無いかと私は、考えます。縛る鎖には必ず人の意思が介入してしまう。どれだけ私達が過ぎた
この支配体制が始まった時から決まっている事だ。
【財政や資源の関係で徹底した支配にも差が生まれてしまっている】そんな中でいくら抑制を重ね統制しようにもいつかは不信感を抱かれる日が来る。
その時が訪れた場合、私達は食い止めることが出来るだろうか?…答えはきっと否だ。
抑圧の中で生まれた感情が憎悪や憎しみであった時、私達に止める術はないだろう。
従順な
そうなればアルカナムは完壁都市から陥落寸前の城に形を変えることもありえる
「だから貴女は、この児院を変えたのですね。元々
「そこまでにしてください」
怪訝な表情を浮かべるクロウデェンを見た大臣は、首をすくめる
「分かりました。先のテストも近いですし貴女にも考えがあるのでしょう
この先の未来を考えるなら僕としても貴女の成功は喜ばしいことですから。
ここで僕から1つ提案があります」
大臣がクロウデェンに耳打ちする形で提案を伝える
「数時間電力を止める!?」
「はい、その中での自由意志を確かめるのです。仮にも監視体制のもと暮らしてきた子供達が何を考え行動に至るか、気になります。今後のためにも思考実験のようなものです」
あまりに荒唐無稽な提案に動揺が隠せない…先程考えていた内容が内容なだけ起こりうる最悪の結末に結びついてしまう。この男は本当に今の体制が磐石なものであると信じているのだろうか?しかし未だ掴むこと出来ない彼から漂う雰囲気からは違う事を感じさせられる。現状の中での自信とは違う、彼がこれから行うであろうものに対しての絶対的な自信。考えすぎかもしれない…けれど否定する事も出来ない、、「ミシマ・エルゾット」本当に掴めない男ですね
「大臣。お戯れがすぎるのでは?私は別に反逆者を作るためにジュアリーにこの体制を導入した訳ではありませんよ。感情とはあくまで進化の過程に必要なツールに過ぎませんから」
誤魔化せる気もしないので最もらしい返答に本心も織り交ぜて伝えた。
「ミス・クロウデェンこの時代に足りないもの、それを君は分かるかな?
この淘汰される事が前提でそれに不信感すら抱くことを許されない人民
それを良しとし、上にたち続け自分の利益を保守する我々。スリルが無いのだよ…平和ボケした
「これも必要なことであると…そう考えるのですね」
「分かっていただけたなら良かったです」
本来なら反発すべき所だけれど、彼の後ろに居た付き人に怪しい気配を感じたので
ここは従う以外の選択肢が無いのだと察した。
本題を伝え終わり満足したのだろう大臣はその場を後にした
エルゾット大臣。この都市でゲームをしているかように楽観的に考える姿勢に思う所がない訳ではない。不本意ながら彼は私と似ているのだろう…それが生まれながらなのか生きる中で壊れてしまったのか、どちらにせよ少し厄介な存在ではあるが所詮それまで。私が考えるシナリオに彼が加わる事はない
塔の子供達が真実に近づき、不信感を感じることになったとしても、その不信感は直ぐに変わるのだ。とびっきりの憎悪へと…感情を完全に消さずとも支配してしまえば問題は無い。むしろ進化に必要なパーツだ
たとえ
そして決して彼らや旧文明のようにはならない。神は支配するために存在することすら必要としない唯一の存在であるように、私が神の
クロウデェンとの接見を終えた帰り際、大臣は付き人に口を開く
「リゾット。あの女をどう見る?」
「素質は悪くないですがあれがアルカナムを引き出せるとは思いませんね」
「考えが違った方が面白いというものだ…完璧な兵隊を作る我々と彼女。どちらがアルカナムを導けるか勝負といこうか」台本に無い事を考える奴が出てくるのもこの
社会的法も秩序も無い中で私の
「このリゾット…どこまでもついて行きますぞ」
ここアルカナムにおいて、異質である2人がそれぞれの決意を決めるのであった
__後書き 感情を捨てさせ神の考えのみを、絶対とした世界を築こうとするエルゾットと感情を支配し神の代理人として人類を導こうとするクロウデェンの野望が見え隠れするお話です。次回は塔、(最初で)最後の特別試験です。クロウデェンが言っていたとびきりの憎悪(愛)とは?ご期待いただければと思います
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