第55話 ワンナイト人狼
ワンナイト人狼。
みんなで話し合って犯人を見つける、トーク式推理ゲームの金字塔、人狼ゲーム。
それを少人数でお手軽にプレイできるようにしたのが、ワンナイト人狼だ。
今回のゲームの内容はこうだ。
目黒圭祐がゲームマスターとなり、残りの7人がプレイヤーとなる。
話し合って決めるのは、目黒圭祐を殺した犯人。
投票で選ばれた人が犯人だったら、犯人の負け。無実の人だったら、無実側の負けとなる。
負けとはイコール、呪殺だ。
亜里斗の頭の中は、正直、疑問符だらけだった。
呪憑物のようだから、ゲームをしたがるのは、まぁ分かる。
だが、自分を殺した犯人を当てるとはどういう意味なのか?
いろいろと飛躍している気がした。
不思議なことに、真っ先に突っ込みそうな真壁は黙っていた。
いや、真壁だけではない。全員が、何故か物分かりの良い反応を見せている。
まるで、彼の言っている内容を前もって知っているかのように…。
「ええと、質問をよろしいですか?」
誰も質問しないので、恐る恐る亜里斗は手を挙げた。
「どうぞ」
「えっと、いろいろ分かんなくて、どっから質問したらって感じだけど、この中に犯人はいないと思いますよ。だって、君がいつ犠牲になったかは知らないけど、昔の話でしょ? 犯人も生きてないんじゃないかなぁ」
「俺が犠牲になったのは、3週間前です」
「さ、3週間!?」
亜里斗は仰天してしまった。そんな最近の話なのか。
「あ、でも。どうしてこの中にいると? だって、凄い確率ですよ?」
「…これは推測ですが、俺はヒガン髑髏の試練を成すために殺されたんです。ヒガン髑髏の発動には、最低でも4つの呪憑物が必要だった。けれど、どうしてひとつ準備できなかった。だから、作ることにしたんだと思います」
亜里斗は絶句した。
かなりぶっとんだ内容だった。
「そして犯人は、この7人の中にいます。ゲーム用の呪蓋を降ろすことが出来たのが、何よりの証拠です」
もしも犯人がいなければ、ゲーム自体が成り立たない。
その前提をクリアできたということは、この中に犯人がいるということだ。
「あ、あの。じゃあ、目黒さんには、その黒幕が誰だか分かってるんですよね? それを教えたほうが早くないですか?」
「いえ、わかりません。だからこそ、ゲームをするんです」
ゲームを行うにあたり、投票で選ばれた人が、本当に犯人かどうかの判定が必須だ。
それは圭祐が犯人を知らなくとも、ゲームの構成上、必ず成り立つ。
ある意味、仕様だ。
つまり、圭祐が犯人を知らなくとも、ゲームの最後で、投票された人物が犯人であるかの判定が、自動で行われる。
その人が犯人であれば犯人だけが死に、無実の人であれば、犯人だけが生き残るのだ。
「ちなみに人狼は、一人または二人います」
「え? 複数いんの!?」
亜里斗は思わず素っ頓狂は声をあげてしまった。
「それって確定はしてないの?」
見た目が梅宮清明であるためか、梅宮愛は息子に話しかけるような口調で尋ねる。
「ゲームマスターとして言えるのは、ここまでです」
清明はほかに質問がないか見回して、誰も言ってこないのを確認して、
「それでは、スタートします。みんなで頑張って、犯人を見つけてください」
******
ゲームが開始されても、しばらく誰も話さなかった。
まるで人生で初めて人狼で、何をどう話せば良いか分からない初心者のようだった。
本家とは違い、占い師も盗賊もいないのだ。会話のきっかけがない。
「あの、とりあえず、絶対に大丈夫って人を候補から外していきませんか?」
痺れを切らして、亜里斗が提案する。
こういうことは、今までだったら真壁が仕切っていたはずだ。
なぜか、言葉が少ない。
「具体的には?」
葉月がぶっきらぼうに尋ねた。
「麻衣ちゃんです。目黒くんが何歳かは分からないですけど、大人の男性を殺せるはずがない」
「……」
「そうですね。そこは大丈夫だと思います」
真壁が同意してくれた。
「ねえ、これって実際に、……圭祐だっけ? を殺した人を捜す感じ? それとも現場にいたらアウトなの?」
未来が細かい定義を確認してきた。
「現場にいたら、です。実際に僕を殺していなくとも、襲撃犯の一味であればアウトです」
「…次に潔白を証明できるのは、清明くんのお母さんでしょうね」
しばらくの沈黙の後、真壁が静かに発言した。
「根拠を聞いていいか?」
篠田が言う。
「理由は大きくふたつ。黒幕であれば、わざわざ死ぬ危険のあるヒガン髑髏の試練に、自分の子供を連れてこないだろう点。次に、梅宮さんは初日の混乱の際、車に乗って逃げようとしていました。黒幕の目的がヒガン髑髏から絶対的な才能をもらうことなら、あの場から逃げようとした人は、シロだと思われます」
「あ、確かに! 真壁さん、やるじゃん!」
未来が同調するも、
「…いや、少し弱いな」
葉月は納得しなかった。
「子供の件は、子供にも才能を与えたい、ってケースがある。いや、そもそも子供に才能を与えたいから、目黒圭祐を殺した可能性だってあるだろ? 親心ってのはそういうもんだ」
「…もしかして、如月さんにはお子さんがいるんですか?」
真壁が優しい口調で尋ねた。
「…てめえ、セクハラって知ってんか?」
「何がヒントになるか分かりません。逆に隠す必要はありますか?」
「関係ねぇからに決まってるだろ」
ふたりの間に、やや険悪な空気が流れた。
「続けるぞ。次に車に乗って逃げようとした点だが、それがそもそも演技って可能性がある。実際、今ここに残ってるだろ?」
「そんなことはしません!!」
当然だが、愛は強く否定した。
「この可能性はないか?」
参加してきたのは、篠田だ。
「最初はヒガン髑髏の恐ろしさがよく分からなかったので、子供も参加させていた。人が死んだので、怖くなって子供だけ逃がそうとした。でも、自分は才能がほしいから、残るつもりだった」
「違います! そんなことはしません!!」
それからしばらく議論が続いたが、梅宮愛に関しては、極めてシロに近い、と判断された。
そして、また沈黙。
次に沈黙を破ったのは、未来だった。
「私、思うに、真壁さんって、絶対にシロだよね?」
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