第54話 デスゲーム 最終日 (残り8名)

 しおりちゃん日記を龍脈封印してから、1日が経っていた。

 いざという時のため、事前に龍脈の場所に穴を掘っていたから、しおりちゃん日記の封印は、亜里斗と真壁浩人(イケメン)のふたりで行うことができた。

 阿久根未来(ギャル)も手伝うと言ってくれたが、命乞いをする山下朋子(ギャル)の姿を見ていられずに、早々に校舎の奥へと引っ込んだ。


 しおりちゃん日記の封印が完了した亜里斗たちは、山下朋子が乗っていた車で、生存者の確認を行った。呪蓋が消え、ゲームがクリアされたことは、おそらく全員が気づいているはずだ。

 最初に、梅宮清明(小学生)と佐土原麻衣(小学生)のふたりを発見した。

 彼らの証言から、如月葉月(霊媒師)と篠田武光(金髪)が山のほうへ消えたこと、奥の方にある平屋で山下朋子に襲われたことを教えてくれた。

 生存者がいるとすれば、平屋のほうだろう。

 

 急いで平屋へ車を進ませる。ほぼ一本道だったので、清明たちも道を覚えていた。

 平屋は凄惨な現場と化していた。

 無念の表情を刻んだままの、たくさんの生首が転がっている。

 生存者はいないだろう、そう思ったときだった。

「う、うう…」

 壊れた納屋から、人の声が聞こえた。

 梅宮愛が、血を流して倒れていた。まだ息はあった。


 愛を乗せて帰る途中で、意識を取り戻した彼女から、車に轢かれて怪我をした事実を聞かされた。

 後ろが半分腐った木の壁だったから、命が助かったのだろう。

 死んだと思われたのか、単に気づかれなかったのか不明だが、彼女はしおりちゃん日記の呪いで殺されることはなかった。


 校舎に帰る途中で、道路を歩いている葉月と篠田を発見した。

 全部で8人。それが、あの惨劇を生き延びた全員だった。


 愛の折れた腕に応急処置を施し、その日は言葉少なく過ごした。

 連日の徹夜続きで体のリズムが狂っていた。

 うとうとと浅い眠りが続き、次に気が付いたときは、お昼を過ぎていた。


 カップラーメンで腹を満たし、何をするわけでなく、廃校の教室にみんな集まっていた。

 最終日ということもあり、呪蓋の影響で霊障は濃くなり、ふとした瞬間に霊の姿を見たり、窓ガラスを見ると、一面に手形がついていたり、トイレに行くと誰も居ないはずの個室から、ぶつぶつと喋る声が聞こえたりした。

 正直、生きた心地がしない。

 早く時間が過ぎてくれることを祈っていた。


 そして夕食にもカップラーメンを食べ、呪蓋の向こう側で、西の空が朱く染まりはじめた頃、唐突に梅宮清明が、「話がある」と言って立ち上がった。


「今は夜の八時です」

「あ? ああ。…そうだが、それがどうした?」

 篠田武光が少し苛立ったように尋ねた。

「あと、5時間で7日目が終わります」

 亜里斗はぽかんとした気持ちで聞いていた。

 確かに彼の言うことはそのとおりで、子供なりに感慨深いことがあったのだろう。

 しかし、大人たちに向かって、演説のように言うのは違和感ありまくりだった。


「たぶん皆さんは欲しい才能があって、ここに居ると思います」

「清明…?」

 さすがに違和感を覚えたのか、愛が訝しげな表情で、息子の名前を呼んだ。

「だけど、才能がもらえるのは、7名だけです」


 刹那、緊迫した空気が漂った。

 どうして子供がそんなことを言うのだろう、という違和感がある。

「だったら言い出しっぺのてめえが抜けな! 子供に才能の価値なんて分かんねえだろ」

 葉月が吐き捨てるように言う。

「子供になんてことを言うんですか!?」

 愛がヒステリックに抗議した。

 けれども葉月は、手を振って相手にしないパフォーマンスをする。

「僕からもふたつほど、いいですか?」

 手を挙げたのは、真壁だ。

「清明くんは、どうして7名だと思うんですか? オカメンの人たちの話だと、生き残った者全員に才能がもらえる、だったはず」

「…ふたつめは?」

 清明は答える代わりに、次の質問を要求した。


 真壁は一瞬口元を浮かべ、次に睨むような視線で問う。

「君は…誰です?」

 清明が小さく笑う。

 それはとても、子供の笑い方には見えなかった。

「──清明!!??」

 愛が悲鳴のような声をあげる。


 刹那、呪蓋が降りた。


「清明!!?」

「動くな!!」

 息子に駆け寄ろうとした愛を、真壁の怒声が制した。

 愛が救いを求めるように、真壁に視線を送る。

「もう、呪蓋の中です。迂闊な行動はしないほうがいい」


「うう…、清明…。お願い! 清明を返して!!」

 愛が涙ながらに懇願する。

「ええ、返しますよ」

 誰もが、呆気にとられた。

 確かに返してくれと頼んだ。だが、OKが出るとは思っていなかった。

 愛が目をぱちくりとさせる。


「清明くんの体と精神は責任をもってお返しします」

「え? どういうこと!?」

 未来も目をぱちくりとさせた。


 清明がパーカーのポケットから、古びた巾着袋を取り出した。

「「ひっ!」」

 愛と未来が小さく悲鳴をあげる。

 当然だ。

 霊感がそんなに強くない亜里斗でも、ひしひしとその悍ましい呪いの存在を感じ取っていた。

 間違いない。

 あれは行方不明だった呪憑物・キンシン袋だ。


「まさか、それ! エンティティが残ってるのか!?」

 葉月が信じられないといった表情で問うた。

 言われて気づく。

 そうだ。こんなにも禍々しく悍ましいオーラを放っているのは、中にエンティティが残っているからだ。


「見ての通り、清明くんは呪憑物に憑りつかれているわけじゃないです。だから、無事に戻って来ます」

 状況についていけない。

 だが、何かとんでもないことが起きていることは理解できた。

 そして、同時に誰もが思ったことだろう。

 誰だ? おまえは? と。


「そろそろ僕の質問に答えてもらえますか?」

 真壁が爽やかに笑って言う。

 顔は笑っているのに、どこか怖い雰囲気があった。


「俺は、このキンシン袋を作るために、殺された人間です」

 清明がキンシン袋を持ち上げてみせる。

 すると驚くことが起こった。

 あれほど、禍々しい呪詛を吐き出していた呪憑物が、ただの巾着袋のように、呪いの気配を完全に消したのだ。

 それはつまり、彼がキンシン袋を完全に制御できていることを示す。


「俺の名は、目黒圭祐」


「え!!」

 驚きの声をあげたのは、意外にも未来だった。

 全員の視線を受けて、慌てて彼女は視線を落とした。


「そして、どうして7名なのかという質問の回答ですが、今から俺が、ゲームをするからです」

 ごくりと全員が息を呑んだ。

 ゲームには嫌な思い出しかない。


「ワンナイト人狼。みんなで俺を殺した犯人を当ててもらいます」

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