第47話 テリトリー

『一緒にしたいゲームはねぇ、テリトリーだよ』

 こっくりさんを通して、呪憑物・しおりちゃん日記が、ゲームの内容を伝えてきた。

 プネウマ座に位置する呪霊は、ゲームのルール説明のような複雑な内容を伝えることができない。

 なので、こっくりさんという術式で、術者の記憶や認識の部分を利用して、自分が伝えたい内容を教えてくれるのだという。


「たぶん、猿姫人形だけが呼ばれてゲームをしたことに嫉妬して、自分もやりたくなったんだと思う」

 オカメンの御船美保(オカメン)が、こっくりさんに集中する如月葉月(霊媒師)たちの代わりに説明してくれた。


 テリトリー。

 小学生が公園などでよくやる遊びで、「ポコペン」や「缶蹴り」と似たゲームだ。

 鬼をひとり決める。今回は山下朋子(しおりちゃん日記)が鬼をやるらしい。

 鬼は自分の「本体」を決め、プレイヤーが「本体」に触れた状態で「いのぢが転んだ」と言うとゲームは終了となる。

 鬼が宣言した「本体」は、運動場にある朝礼台だった。

 しかも最悪なことに、しおりちゃん人形はそれを、周囲に遮るものがない、運動場の中央へ移動させた。

 鬼側の勝利は、プレイヤー全員を見つけること。

 隠れて近づいてこようとするプレイヤーを見つけて、「●●、みっけ!」と叫ぶと、その名前を呼ばれた者は脱落となる。

 ポコペンや缶蹴りのように、一度見つかった仲間を救済するというシステムがこのゲームにはない。


『私が765秒数えるから、その間に逃げてね。あと、今回は全員参加だよ!!』

 五円玉が最後の文字を指示した瞬間、こっくりさんの紙がボワッ!と燃え上がった。

「うわっ!」

 葉月たちが思わず悲鳴を上げる。


「は、じじじじ、め、ま~す」

 朋子が朝礼台に顔を伏せて、数を数えはじめた。

「とにかく距離を取りましょう!」

 叫んだのは真壁浩人(イケメン)だ。自ら走りだしている。

「落ち着け! 765秒もあるんだぞ!」

 篠田武光(金髪)が待ったをかける。ただし、そんな彼も一応は走っていて、全員が運動場から逃げ出そうとしていた。

「違います! 765秒しかないんです! 約13分弱です!」

「十分じゃねえか!」

「こっちは姿を見られたら終わりなんです! 移動して隠れる時間を考えると、かなりギリギリです! このゲームで生き残るには作戦が必要です。みんなで話し合う時間を確保するためには、今は遠くへ逃げましょう!」


 ブォオオンン!


 そのときだ。車のエンジンの音がした。

 見ると、葉月が軽自動車を運転していた。

 プレイヤーたちの前でハンドルを切って、停車する。

「篠田、向井、梅宮! 乗れ! 霊能力の高いおまえたちは必要だ! それと真壁! おまえもだ! 乗れ」

「え? 車!? それって有りなんですか!?」

 亜里斗は思わずツッコんでいた。

「ルール聞いてたかぁ? 車を使っちゃ駄目なんて言われてねえだろ!」

 確かにそうだが、発想がぶっ飛んでいる気がする。

「ルールは契約と一緒なんだよ! いいから乗れ! 真壁の言うとおり時間がねえ!」

「いいえ、乗りません」

 拒否したのは梅宮愛(小学生の母)だった。

「子供がいるんですよ!! 置いて行ける訳ないでしょ!!」


「いいえ、乗ってください」

 言ったのは真壁だ。

「ただし、子供たちも一緒にです。警察がいるわけじゃないので、定員外乗車違反になることはありません。乗れるだけ乗せましょう。女性差別をするつもりはないですが、女性を優先させてください」


「悪りぃが、俺は乗るぜ」

 篠田は批判を受け付けない態度で、助手席に乗り込んだ。

「あ、わたしも!」

 次に忽那来夏(ヒステリック)が周囲を押しのけるようにして車に乗り込む。

 周囲に微妙な空気が流れる。

 なんとなく車に乗ることが躊躇われた。

「梅宮さん、乗って下さい! 清明くんも麻衣さんも!」

 真壁が気を取り直したように言う。わざわざ篠田と議論するつもりはないようだ。

「女性の方も早く! 葉月さんトランクを開けてください! ふたりくらいは乗ります」

「私はいいよ。足には自信あるから」

 断ったのは阿久津未来(ギャル)だ。


 ふと亜里斗は、呆然と突っ立っている向井慎太郎(オカメン)の姿に気づいた。

 彼も篠田と同じように、葉月から車に乗るように言われている。

 だが、篠田のように世間体を気にすることなく車に乗るようなことは出来なかったのだろう。

 ちょっとばかり同情する。


「向井さん。自分で決めてください。僕は、決して否定はしません」

 真壁が助け舟を出した。

 正直、その配慮はいらなかったと思う。

 向井はちょっとぽっちゃりだ。彼が車に乗らなければ、女性ふたりが乗れるだろう。

 そして彼は、おそらくだが足はあまり早くない。

 残れば真っ先に死ぬ可能性があった。

 

 向井はほんの一瞬、躊躇した後


「僕も残ります」

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