第16話 デスゲーム1日目 3
「犯人がいるって!? この参加者100人の中にかい!?」
主催者による説明が終わったあと、乙希は、圭祐から聞いた話を向井に伝えた。
「でも、誰かまでは分からなかったみたいで…」
「一応は、捜してみたんですが…、顔を見てもピンとくることはありませんでした」
「気配が近づいたりとか、遠のいたりとか、そんなのも無かったみたい」
乙希が補足する。
「…ただ、ちょっと気になることがあります。H乳業…でしたっけ?」
「H乳牛よ。その間違いすると、定番のボケをされるから注意して」
「彼が何か?」
「いえ、純粋に被り物をしているから、顔を見ることができないんです。もしかしたら…」
「その可能性があるかもしれないが、純粋に君が、犯人の顔を知らないだけなのかもしれない」
「え?」
「君の傷は主に背中だよね? だから後ろから刺されたんだと思う。そのまま亡くなったのなら、犯人の顔を見ていないんじゃないかと」
「…そうかもしれません」
向井の言葉に、圭祐は明らかに落胆の表情を見せた。
自分を殺した犯人の顔を知らなければ、顔を確認しても意味がない。
唯一の手掛かりがなくなったとも言える。
「もしかしたら、犯人がいるってのも俺の勝手な勘違いかも…」
「いや、どうだろう? ここには本物の呪憑物がある。顔は知らなくとも、憎しみや無念の感情に反応して、なんらかの予感を与えているのかもしれない」
「あ~、また二人でいる! 本当、怪しくない!?」
自分たちを捜していたのだろう、畑中由詩(ポニテ)が声をかけてきた。
「向井さん。このことは」
「…みんなには黙っておこう。疑いたくはないけど、僕らも全員のことを知っているわけじゃない」
乙希はコクンと頷いた。
オカルトコミュニティのメンバーの所へ戻ると、全員が地図と睨めっこをしていた。
「で、乙希ちゃんの宿はどこになったの?」
由詩が尋ねてくる。
運営の方針で、参加者たちの「宿泊ポイント」はくじ引きで決めた。
宿泊ポイントとは、夜の22時から朝の6時までを、ひとりで過ごす場所のことだ。
デスゲームと言いつつ、中身は肝試し。
恐怖心からリタイアさせることで、ゲームが成り立つ。
そのため、夜はひとりで過ごすことがルール付けられたのだ。
「なんか、神社っぽいとこの裏側みたい」
「うわ~、如何にも出そうだね」
「俺はなんか運動場の車の中だよ。近くに人も多いし、幽霊は無理かな。見たかったぁ」
金村翔太(下睫毛)が残念そうに言った。
「俺もだよ。こんなにヤバそうな肝試しに参加して、幽霊が見れなかったら、マジで凹むわ」
やや太った体形の木村太郎も会話に参加してきた。
二人ともオカルトコミュニティのメンバーだが、霊感がない。
だから、死ぬまでに幽霊を見ることが夢なのだそうだ。
ふと、乙希は思った。
霊感があるかないかなんて自己申告だ。
霊感がないのに、あると主張する輩には会ったことはあるが、可能性としては、その逆もいるはずだろう。
つまりは、本当は霊感があるのに、霊感がないフリをしている。
(でも、そんなフリをする必要なんて、ないわよね?)
「そこを何とかお願いできないですか?」
そのときだ。
ふと、大きな声が聞こえてきた。
ボブカットの女性が、何事か運営と揉めていた。
さきほどH乳牛のまわりにいた、小学生の保護者のようだった。
「なんか子供と一緒に泊まりたいんだってさ」
オカルトコミュニティのメンバーで、そばかすが目立つ女性、岡森麗奈が状況を説明してくれた。
「ああ、なるほど」
「でも、ルールだし、仕方なくない?」
「事前に伝えておくべきだったと思うよ。小学生の親からしたら、そんなルールだったら参加しなかったかも」
「っていうか、小学生を連れてくるのが非常識なんじゃね?」
オカルトコミュニティのメンバーたちも、さまざまな意見を口に出しながら、事の成り行きを見守っていた。
「駄目だ。ルールはフェアにしないと」
シュンケルが言い放つ。ガンとして譲るつもりはない感じだった。
少しだけ、騒ぎが大きくなってきている。
「どちらか片方がOUTになったら、両方OUTにしたらどうですか?」
そんな提案をしてきたのは、整った顔立ちをした男性だった。
爽やかな笑顔に、ワックスで動きを付けた黒髪、オシャレで落ち着いた服装をしていた。
アイドルだと紹介されても、驚きはしないだろう。
「やだ。あの人かっこよくない?」
由詩が思わずといった感じで、黄色い声を漏らす。
「二人だと、怖さが半減するだろ? そんなのズルじゃん」
イケメンの提案に、シュンケルがムッとした態度で答えた。
「子供は怖がりなんでハンデが必要では? しかも親からしたら、子供がOUTになったら自分もOUTになるんです。そっちはデメリットになると思いますよ?」
「いいんとちゃう? 先にルール言わなかったウチらにも問題はあるわけだし」
YouTuberのやまだ天気が口を挟んできた。
彼女は過去に、「イケメンじゃない奴は人権がない」と発言し炎上していた。
その後も何度か炎上していたが、今ではイケメン大好きキャラとして、人気を取り戻している。
「だけどよ」
シュンケルはまだ不満そうだった。
「助けてコールはどうすんだ? 子供だからスマホは持ってないだろ?」
ひっつめ髪で無精ひげの男性も話に加わってきた。
ちなみに助けてコールとは、スマホでOUTを宣言することだ。
助けてコールを使うと、すぐに運営が駆けつけてくる。
元来、この廃村には携帯電話の基地局はないのだが、なんでも数キロ先の基地局まで無線で通信を飛ばせる機械を準備したらしく、全員のスマホが使用できる状態にあった。
「それは、紙か何かに書かせて…」
「助けてコールに意味があるのは、怖いとき、すぐに運営が来てくれる点です。どのみち朝まで来ないのなら、我慢するしかないですし、それは逆にアンフェアなのでは?」
イケメンの指摘に、シュンケルは「うぐぐ」と唸った。
「また、親子のうち片方が脱落した場合、常識的に考えて、残ったほうもリタイアするしかないと思いますよ」
「あのイケメン。頭も良くない? 独身かな?」
由詩がキャキャっとはしゃいでいる。
いや、彼女だけでなく、多くの女性の心も掴んでいるようだった。
「いや、だけどルールが…」
「シュンケルは頭かったいわ。ルール言うけど、最初は3日だったデスゲームを急遽7日に伸ばしたんは、あんたやん」
やまだ天気が呆れたように言った。
「あ、いや…、俺じゃ」
「とにかく、このイケメンさんの意見を取り入れよ?」
「……」
「では、みんなの意見を聞きませんか? 言い出しっぺは僕ですが、ここにいる参加者の意志も大切です」
「せやな! うちもそう思とった! みんな、聞いてたよな!? このイケメンさん…、ええと…」
「真壁です。真壁浩人」
イケメンが笑顔で自己紹介した。
「真壁さんの意見に賛成の人、挙手!!」
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