第11話 100人の容疑者
葉隠刑事は、捜査官たちの緊張した雰囲気から、これが異様な現場であることを察した。
「ガイシャは?」
現場を保持している警官に尋ねる。
「三名です。少年が1名、少女が1名、中年の女性が1名です。確認中ですが、この家の住人で間違いないでしょうね」
「まあ、そうだろうな。名前は?」
「母親の名は、目黒友加里。その息子で高二の圭祐、娘で中三の朝陽の3名です。中学の担任が、学校に来ていないのを不審に思って、発覚したようです」
「そりゃ、可哀想に」
葉隠は天井に首をつってぶら下がっている朝陽の死体を見て言った。
無惨にも腹が引き裂かれており、内臓が飛び出している。
涙の跡が色濃く残る顔は、相当悔しかったのだろう、今にも呪い殺しそうな怒りの形相が刻まれていた。こちらを睨みつけたまま事切れている。
その下には、圭祐の死体が仰向けで転がっていた。
下半身が丸裸で、陰部が切断されていた。
「母親は?」
「そこのシンクの中と、あっちの部屋です」
「二か所かよ!」
葉隠れは頭を抱えた。
一家惨殺の猟奇殺人。犯人はどれだけ頭のイカれた変態なのだろうか?
「そういや、父親は?」
「いないようですね。数年前に離婚したようです。今、面合わせで呼んでいる最中です」
「そりゃ…同情するぜ」
本心だった。
死体の猟奇性から、父親が犯人の線は薄い。
離婚したとはいえ、変わり果てた家族の姿を見て、相当ショックを受けることだろう。
「おい、おまえ! 勝手に入るんじゃない!」
入口で警官の叫びが聞こえた。
父親が来たのだろうか?
そう思ったが、すぐに違うことが分かった。
入ってきたのは金髪のチャラそうな青年だった。
「葉隠刑事。すみません、そいつが──」
「いい! そいつは俺の相棒だ」
「え?」
警官が驚いた顔をした。
まあ、そう思われても仕方ないだろう。
警察官としての威厳を、キャバクラにでも忘れきたような軽薄な雰囲気。
金髪の刑事なんて、こいつくらいなもんだ。
「おい、タケ! 警察手帳を出しゃ済むだろ!」
「いや~、顔パスに憧れてましてね。ども、ご苦労さん」
自分を引き留めようとついてきた警官に、いたずらな表情で言ったあと、とぼけた面構えでやってくる。
「だから金髪はやめろと言ってるだろう。ヤンキーか、お前は?」
「ファッションっすよ~。髪型で文句言うなんて古臭いっすよ」
「うっせ~な。このZ世代が」
「Z戦士ですってば。で、ガイシャはどんな感じです?」
葉隠は、先ほど自分に説明してくれた警官に、もう一度説明するよう、顎で指示を出した。
「うへ~」とか「うわ~」とか、素人っぽい反応を見せていた金髪の相棒だったが、ある情報を聞いた途端、急に真面目な表情となった。
そして、ツカツカと死体に近づいていく。
「どうした? 何か気になることでも?」
金髪の相棒は、目黒圭祐の死体をじっと観察していた。
やがて口を開く。
「モテそうにない顔ですね。もしかしたら童貞だったのかもしれません」
「おまえなぁ、何言ってんだよ?」
葉隠は頭を掻きむしりながら、呆れた声を漏らす。
最近別の管轄から異動してきた新米刑事。それなりに優秀だと聞いていたのだが…。
「この子も処女かもしれません。化粧をして遊んでいるように見えますが、まだ中学生ですし」
「だから、なんだよ?」
さすがに苛立ってきた。
今の時代パワハラだと言われるかもしれないが、こいつのふざけた金髪を、黒く染めなおしてやりたい気持ちになる。
「兄からは性器と睾丸が、妹からは性器と子宮が切り取られています。まだ見つかってないですよね?」
「…見つかってないです」
警官が首を横に振りながら答える。
「だから、それがどうした? そいつらが童貞処女だったら、犯人の検討がつくのか?」
もちろん、そんなはずはないだろ?
葉隠は、大いにそのニュアンスを込めて皮肉った。
だが…
「わかりますよ」
「なんだと!? タケ! 本当か!?」
「ええ。少なくとも、100人には絞れました」
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