第2話

 私の古い友人に北山信夫という男がいた、彼は中高と成績優秀で大学は東工大を目指したが、不合格になり有名私大に進学した。のちに卒業後は都内の上場企業に就職し順風満帆に見えたが、社内旅行の酒の席で、口下手な彼は上司と口論になり殴ってしまい、上司に怪我をさせてしまった。実は彼は空手2段で暴力をふるってはいけない立場なのだ、しかし彼には決定的なくせがあり、酒乱なのだ、自覚はしているが酒の誘惑には時々負けてきた、結局彼は退社することになり失意の中で実家がある関東のQ市に帰ってしまった。

 私の家は自営業で彼の実家とは近かったので時々彼を訪ねた。彼は普段はとても柔和で暴力を微塵も感じさせない男だった。私は彼に家にばかりいてもしょうがないな、ということで彼を山歩きに誘った。それから2人で北関東の山々や長野県の山々を精力的に歩き回った。彼は地質学や植物学を大学で学んだらしく、山行のなかでは私の知的好奇心を大いに満足させてくれた。そんななかで彼も精神的な落ち着きを取り戻したのか、地元の企業に就職が決まった。その後互いに仕事は順調に続けながらも山行は続いた。

 夏休みに高山植物を見に行こうということで尾瀬ヶ原にいった、尾瀬は春爛漫であった、木道に立ち止まると、私は花々を確認するため植物図鑑を忙しくめくっていた。すると私の後ろからのぞき込むような気配を感じた。私はすかさず振り返ると若い女性が2人立っていた。1人はスレンダーで髪の長い女性でもう1人は丸ぽちゃで童顔な女性だった。彼女らはにこりと挨拶をすると、花々の名前を聞いてきた。私は即答できるほど詳しくはないので図鑑と照らし合わせながらかろうじて答えた。彼女らはうなずきながら「ありがとう」といった、私は「高山植物は好きなのですか」とたわいもない言葉を返した。その後、私らは木道をゆっくりと歩きながら花々の名前を確認して歩いた。1時間くらい歩くと木道が2手に分かれるところに差し掛かった。私らは左の滝のある方に向かうと言い、彼女らとは別れることにした。「またご縁があったら山でお会いしたいですね」と彼女らとラインの交換をした。

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