第5話 ここは裏世界なのか?
「今から“裏世界”に行く。」
「“裏世界”?」
なんだそれは、とイブキは訝しむ。裏側の世界なのは想像がつくが、どう裏側なのかは全く予想できない。
話の流れ的にはレブルが集まる世界のような感じだろうか?
「けど、“裏世界”に入るには『
「
「
どうやら周囲が暗くなって静かになるあの術らしい。なんだか難しそうな印象を受ける。
イブキは頬が強張るのを感じた。
「俺、そんなセンス無いと思うけど...?」
「大丈夫。妖力があれば―――レブルなら、誰でもできるから。」
ハルカが必死にイブキの緊張を解こうとしているのを感じて、イブキの頬が緩んだ。ハルカは優しい。
「体内を流れる“妖力”に集中するの。血と共に巡る“気”を感じ取って。そして周りの風景を見て『
「オーケー。」
イブキは言われた通り体内を巡る“気”に集中する。そして目を開けて周りを見る。広い校庭。大きな校舎。校庭の脇にある森林。
「
イブキは柔らかいベールを潜るような、気温の違う部屋に入るような違和感を感じた。周りを見回すと校庭で遊んでいた生徒たちは忽然と消えている。
「みんな消えた...。」
「私たちが消えたの。元の世界から。」
空を見ると太陽は消え無機質な黒に覆われている。しかし気温や明るさに変化はなく、それだけに強力な違和感を覚えた。
「一種の結界術だわ。見えている範囲内の情報を4次元に写しとってそこに移動する術。広さは発動時見えている範囲内。発動者が入れたくない人は基本的には入れない。出るには発動者が解除するか意識を失うか死ぬか―――わかった?」
「うん。よく理解できた。」
見えている範囲内の情報を写し取るということはテストの時に使えばカンニングし放題かも知れない。
「他にもレブルかどうかを確かめる『共鳴』《サーチ》とか色々あるけど...今度教えたげる。とりあえず“裏世界”に行こ。」
「待って。」
イブキは歩き出すハルカを手で制す。
「移動して
「いや、その移動した位置で元の世界に戻るわ。」
「じゃあ
ハルカは何かもどかしそうな顔をした。自分がイブキと歩いているのを周囲に見せつけたい、とでも言いたいのか―――。ハルカは何かを言いかけて言葉を飲み込んだ。
「じゃ、行こ。」
「おう。」
イブキは無機質な黒の下をハルカと歩く。不思議と空は輝いている気がした。
● ○ ●
「ちょっとコンビニ寄りたいけど、なんか買おうか?」
「今向かってるのって北の方角だよね?」
「うん。便利屋がある場所。」
太陽がないと方角もわかりづらい、と嘆きつつイブキはハルカの返答に疑問を抱く。便利屋?
「じゃあ雑誌一冊買いたい。路地裏誌MONSTERてやつなんだけど。この
ハルカが目を眼球がとびださんばかりに見開く。
「レブルになる前から路地裏誌読んでたの?」
「え、あれレブル関係のやつ?普通にオカルト雑誌だと思ってた。あの雑誌山里屋にしか売ってなくて―――山里屋ってあの路地裏近くの個人経営のコンビニね。北の方角のコンビニって言うとそこしかないかなって思って...。」
ハルカは呆れたように口を開く。
「えぇと...。その山里屋が私の言う便利屋ね。つまりあなたがレブルになる前から路地裏誌を便利屋で買って読んでたってこと。」
つまり、イブキは身近にレブルと接していたらしい。
「さ、着いたよ。
「
す、と解けるように自分らを包んでいたベールが消えた気がして、イブキらの元に喧騒と太陽が戻ってきた。
ハルカは少し乱暴に山里屋もとい便利屋の引き戸を叩く。
「は〜い。」
ガラガラガラ、と躊躇なくハルカがドアを開くと老婆がしゃがれた声で「いらっしゃい」と呟く。いつもイブキが雑誌を買う時のお婆さんである。
「路地裏誌ひとつ。あと裏世界に繋いで。」
「1000。ああ、彼氏連れてきたからまけてやるよ。800。」
「ちょ、か、彼氏じゃないから...。」
「まいど。」
老婆はハルカの否定をスルーして小銭を受け取ると、レジスターのボタンを押した。
「う、わ。」
グワングワン、と言う音とキーンと言う音が同時に聞こえたような気がした。
臍の裏側が引っ張られる。平衡感覚がなくなって、目が回る。重力がひっくり返って上に引っ張られるような気持ち悪さ。散乱する駄菓子。
チーン、と言う軽いチャイムと共に違和感が止まった。鏡がないので本人は知らないが、イブキはこの世の終わりのような表情をしていたらしい。
髪の毛が全く乱れていないハルカがイブキに手を差し出して言う。
「“裏世界”にようこそ。」
● ○ ●
「すっげぇ...。」
先ほどまでの古臭い駄菓子や週刊誌は消え、店内は不思議な雰囲気に包まれていた。
怪しい刀剣類。輝かしい宝玉。天井から吊るされているのは何かの干物か?干からびていてなんの動物なのかわからない。先ほどレジがあったところには「依頼承ります(金額要相談)」と言う張り紙がある。
「すげえよ...。」
イブキはたまたま左の棚に置いてあった商品を見る。
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呪いの手枷 ¥100,000,000
マジ・マジック監修の『呪いの手枷』!つけたものの生気や妖気を少しずつ吸い取っていきます!憎たらしいあいつに!どうしても倒せない強敵に!
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「ひえー...。」
厨二病拗らせた陰キャからすると夢のような場所だ。
隣にも同じような商品が置いてある。
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魔法登録指輪 ¥25,000,000
マジ・マジック監修の『魔法登録指輪』は喰らった魔法を登録して使うことができます!5つまで登録でき入らなくなったら交換!これであなたも
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ほほう。死なないイブキからしたら超お買い得である。が。
値段がおかしい。桁を間違えているレベルだ。こんなの高一が出せるわけない。
「マジ・マジックはやめときな。高い割に低品質よ。買うならこっち。」
興味深げに見ていたイブキをハルカは隅の棚へ誘う。
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¥1,000,000
せっかく妖怪を狩ったのに大した素材が得られない...そんなあなたにこの創作キット。魔法円を描いて中に素材と融合させたい物を入れるだけでのぞみのものが手に入ります。
※無料返品可。
陰陽職人-TAKUMI-
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「陰陽職人-TAKUMI-《ここ》は常識的な価格だし高品質。無料返品もできるしね。」
「へえ。」
イブキはハルカの1,000,000円を常識的な価格と言てしまう金銭感覚に驚きながらも相槌を打った。
「それで。」
イブキは言う。
「“裏世界”にきた目的はこれだけじゃないだろ?」
妖しげな宝石をいじっていたハルカは立ち上がってうなづく。
「もちろん。行こ。」
店員の何も買わないのか、と言う落胆の視線を背に2人は店を出た。
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