安楽木イブキは一般人なのか?
第1話 この路地裏は何処なのか?
好かれても嫌われてもいない絶妙な陰キャ、安楽木イブキ。中途半端にいい成績に中途半端にいい運動神経。非常に悪いコミュニケーション能力と協調性を持つ高校一年生である。
イブキの毎日はほとんど一緒だ。間違い探しのようなものだ。座学は突っ伏。移動教室はダラダラと移動し、体育では縮こまる。掃除や給食では人と関わらないように極力隅による。
別に人に嫌な思い出があるわけでも、いじめられているわけでもない。
ただ、関わるのがめんどくさい。
流行っているアイドルの会話。昨日のドラマの感想。これっぽっちも心が踊らない。くだらない。
こんなことを考えている自分自身が一番くだらないのかもしれないな。陰キャだし。俺。
こんなことを一日中考えて学校を終える。
それが安楽木イブキの日常である。
● ○ ●
入学して1ヶ月で学校のマドンナとなったらしいナントカ田ナントカの噂話(「あの娘厨二病らしいよ...」「...嫉妬は見苦しいわよ」) を聞き流しながらいつも通り下校の準備をしていた。普段はしかめっ面&うつむきの陰キャコラボで下校するイブキであるがこの日は違った。
Q.陰キャが普段と違います。何故でしょう。
A.とある雑誌の販売日だからです。
そう。街の外れにある個人経営店のコンビニで偶然見つけた「路地裏誌・MONSTER」。ホラー系統にハマっているイブキからしたら好みにどストライクな雑誌なのだ。妖怪や都市伝説に関する話が本当にあるかのような書き方。作り込まれた設定(4丁目には人狼がいるから注意!など)がイブキを虜にし、毎週火曜日は陰キャらしくもなくチャイムと同時に走ってそのコンビニに向かう。
「ん?こんな路地あったっけ?」
テンションが上がっている陰キャは普段しないようなことをしてしまう。例えば―――見たこともないような路地裏を見つけ、それを近道だと思ってしまう、とか。
路地裏誌MONSTERの表紙によく似た路地裏。イブキはその表紙を眺めるたびにうっとりとしていた。こんな鬱蒼でオシャレな路地裏、日本にあるのだろうか。
イブキの目の前にある路地裏はまさにそのような雰囲気を醸しだしていて、彼の足を奥へと引き込ませようとしている。
本能が「やめておけ」と叫んだ。「見たこともない道だ」「見るからに危ない」。だが本能というのは常に好奇心に負けるものだ。
「ちょっと言ってみて、やばそうだったら戻ってこよ。」
無傷で戻ってくることなどもうない、ということをイブキは知らない。
● ○ ●
その路地裏は、なんだか艶やかで気分を高調させた。幼少期から生まれ育った街の路地裏なのに全く馴染みがなく、不安とも楽しいとも取れる気持ちがイブキの胸で踊った。
コンビニはここの右に行けば近道だったはず。
うまく行けばコンビニのすぐ横で抜けられるかもしれない。そんな何気ない気持ちでイブキが角を曲がると、目の前が急に桃色に染まる。
「!?」
曲がり角にいたのは2mほどの巨体をもつゾンビのような化け物...?まさか。よくできた特殊衣装をきたコスプレイヤーであるはずだ。
「ビックリした...よくできたコスプレですけど大通りに出た方がウケますよ?あ、じゃあ俺急いでるんで。」
「ウアアアアアア!」
するとコスプレイヤーがイブキに殴りかかる。突き出した拳は赤く汚く、腐った生肉のようだった。イブキは残念な動体視力を生かして拳を避けた。コスプレイヤー(仮)は白目に涎を垂らしていて、明らか正気ではない。
「ちっ...んだよ、クスリでもやってんのか?」
涎、暴力的というところからイブキは薬物中毒者を連想する。関わってしまった分には交番などに連れて行かなければならないだろうか?
考えている矢先、すかさず薬物コスプレイヤーは鋭い動きでイブキに第二撃を放った。拳はまともに鳩尾に入り、イブキは膝から崩れる。
「うっ....。」
崩れ落ちたイブキに追撃を止めることなくコスプレイヤーは殴り続ける。
「い」
つま先が肋に入りコヒュッと息が漏れた。
―――こんな路地裏入らなければ、今頃家でゆっくりとMONSTERを読んでいたはずだ。
ゆっくりと薬物コスプレイヤーが俺に歩み寄る。やられる、と分かった時にはコスプレイヤーは俺の腹を今までで一番の強さで蹴っていた。
ドッ、と鈍い音がして痛みが走る。
「や、めろ....」
「やめなさい、汚らわしい
上空から何かが振ってきて、コスプレイヤーに向かってそう言う。どうやら女の子が上から落ちてきたようだ。はは、意味わからん。
「
● ○ ●
「
現れた女の子が突然そう叫ぶと周りの空間がゆらりと歪んだ。そしてイブキは違和感を覚える。静かで、なんだか暗い。
「ウアアアアアア!」
イブキはよろよろと立ち上がって真上を見た。――――――太陽がない。先ほどまで広がっていた青空は一転、曇り空よりも黒く無機質な黒で覆われていた。
しかし天が黒く覆われているとは思えないほど周囲は明るく、その事実がイブキと
「
女の子が呪文を唱えながら投げたお札が頑丈そうな縄に形を変え、
「略式詠唱だからすぐ解かれる!一回離れるよ!」
「...ナントカ田ナントカ...厨二病って噂がある...学年のマドンナ...?」
「叶田ハルカ。マドンナじゃない!」
嘘つけ、とイブキは思う。ハルカがこの前先輩に告白されているのをイブキは見ていたのだ。名前は忘れていたけども。
ハルカに手を引かれて別の路地に入ると、彼女は「
「あんた1-2の安楽木でしょ。
「なんで知ってんだよ。」
イブキは驚く。自分が一方的に知っているのはともかく、なぜ学年のマドンナとも言われているハルカが自分を認知している?
「なんで?同じ学校なんだから。」
「そういうことじゃなくて。」
言いたいことを素直に言えないのは、自分を認知していた人に自らのことを陰キャだと言いたくなかったからだ。
沈黙に苛立つようにハルカは口を開く。
「早くこの路地裏から―――「危ない!」
イブキは目の端のピンク色をいち早く捉えハうルカを庇って横跳びした。ハルカがいた位置を鋭く拳が通り過ぎる。
ハルカは動揺を隠しながらも素早く起き上がると再びお札を握って呪文を唱えた。
「天地の詞!敵を切り裂きたまえ!
するとお札がみるみる硬く大きくなり日本刀のように姿を変える。
ハルカは日本刀をイブキに手渡すと再びお札を握りしめて呪文を唱え武器を作った。
「天地の詞!敵を突き刺したまえ!
「この人クスリかなんかでおかしくなってるだけじゃないの!?切るの!?」
「こいつは化け物!ゾンビなの!」
彼女がそういうならそうだ。多分。
イブキは剣道の経験者でも剣術の経験者でもないので、右手に刀を握りしめて腰を落として構える。アニメでよく見る構えを真似しているつもりだ。
向かってくる
ハルカが続けて頭を狙うと腕を動かさずに頭を差し出した。
「フッ...フッ...フッ...」
不規則な呼吸になる
「ねえ、あの...」
「ハルカでいい。」
「あ、えっと。」
「ハルカでいい!」
「...ハルカ、あいつ、不自然に腰を庇ってるんだ。右側の腰。」
「狙ってみよう。やってみる価値はある。弱点かもしれない。」
イブキは腰を低く落とすと
「
「その長い詠唱どうにかできないのか!?」
「現時点で私じゃ効果付与は略式詠唱できないの!」
ハルカは矢に「右の腰を狙って」と囁いて
矢はやや不自然に軌道を変え
「ワアアアアアアア!!」
「ウ、アアウア...」
「ウ、アアアアアアアウアアアアア!」
「なんかやばい!」
「逃げるぞ!」
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