老婆転生―異世界に生まれ変わったお婆ちゃんは愛される―

ワシミミズク

第1話 果たされなかった約束

『私と貴方、どちらが先でも、必ず迎えに来てね』


そんな約束をしたのは、いつだっただろう。彼のプロポーズを受けた、その日だったかもしれない。


(貴方は、驚くほど早く、逝ってしまったわね……)


もう随分と長いこと、起き上がれていない。


(登紀子さんにも迷惑をかけて。本当に、申し訳ないわ。ねえ、貴方。私はもう、十分よ。もう、お迎えに来て頂戴)


息子の嫁は、息子には勿体ないほどに素晴らしい人だった。自分が居なくなっても、もう大丈夫だと、そう思えるほどには。


(貴方。ねえ、聞こえているかしら? 私はね、死ぬことが怖いわけじゃないのよ。この声が、もしも貴方に届いたら。そうしたら、すぐに迎えに来てほしいの)


世話をさせてしまうことは、心苦しい。あの日に見送った、大切で大好きな人に、もう1度会いたい。眠りに落ちる、その寸前。恵子は、あの日の約束を果たしてほしいと、ただそれだけを願った――


――――


そうして、惠子は目を覚ます。見慣れない、白い石造りの天井が見えた。


(……あら?)


咄嗟に、起き上がろうとする。体が、宙に浮いた。


(まあ大変。私、どうなってしまったのかしら)


その部屋は、天井だけでなく、全て白い石で造られていた。今まで自分がいた場所には、豪奢なベッドがあり、窓には白い布が掛けられている。


(まるで、絵本で見たお姫様のお家みたいね)


浮かんだ状態で、部屋の中を見て回る。そうして、しばらく経った頃。扉が開いて、誰かが部屋に入ってきた。


「……姫様?」


驚いたような声音。その声の主は、孫よりも5つくらい年上の、可愛らしい服を着た少女だった。


「あらあら、驚かせてしまったかしら。ごめんなさいね」


そう言って、ゆっくりと降りる。地面についた己の足は、取り上げたばかりの我が子を思い出すほどに細かった。


(……これは、夢かしら。きっとそうね)


少女に歩み寄って、伸ばされた腕に抱えられる。この年頃の子供にしては随分と子供の扱いが手慣れているような様子であるのも、夢だと思えば納得できた。


「姫様、おめでとうございます。ティルテュ公爵家の血筋から"龍"が産まれるだなんて、何千年ぶりかしら。とても素晴らしいことですわ。旦那様と奥様に、すぐにお知らせしなくては」


少女は、恵子を先程のベッドまで運んで、優しく寝かせた。そうしながら、ほとんど独り言のように言葉を紡ぐ。横たわった恵子は、すぐに襲ってきた睡魔に身を任せて、目を閉じた。この夢の終わりを、少しだけ惜しみながら。

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