第21話 四号の成長
弟子五号視点
アルツトさんによる初戦は一瞬にして終わった。
俺には何をしたのかが全く分からなかった。
魔力を相手に流したのはかろうじて分かったが……。
「よくやったな、アルツト」
ボスが感心したようにアルツトさんに言う。
俺はふと思った。
「ボスはアルツトさんが何をしたのか分かったのですか?」
俺の疑問に、ボスは何を当たり前のことを聞いているのかと不思議そうにした後、ハッとしたような顔で俺を見た。
「もちろん、アルツトがやったことすべてが分かるわけではないぞ?」
「そうなんですか?」
「そりゃそうさ。アルツトはレーラーに直接教えを受けたゴブリンだぞ? 並の魔力感知じゃアルツトのやったことは分からないだろうな」
「はぁ、そうなんですね。師匠が凄い個体なのは分かっていましたが、アルツトさんってかなり凄かったんですね」
俺がぼんやりとそんなことを言っていると、アルツトさんは苦笑する。
「五号の認識が少し気になるな……。まあ、俺も師匠に修行をつけてもらったんだ。戦闘技術も収めているさ。まあ、格上には通用しないがな」
「ほへぇ~」
「それじゃ、俺はのんびり観戦させてもらおうか」
そう言ったアルツトさんは手をひらひらと振って、歩き出した。
俺はアルツトさんに何をしたのかを教えてもらえていなかったが、次の対戦がある為に追いかけることは出来なかった。
そこで、ボスに視線を向けると。
「あ~。アルツトがやったのはおそらくだが、血管を通じて魔力を流したんだろう」
「血管を通じて?」
「そうだ。魔物の血管には魔力が流れている。そこに敵対する魔物の魔力を強制的に流し、魔物の身体に攻撃をしかけたんだろう。そこまでは何となく分かる。どこにどんな働きをしたのかは分からんがな」
「へぇ。アルツトさん、凄すぎないですか? ボスは何をしたのか予測できるんですよね?」
「まあ、治癒魔法で傷を癒す要領で身体に何かしらの影響を与えたんだろうな。例えば、皮膚を突き破りやすいように、血管から体表までを自分の魔力で無理やり広げるとか……」
「ひえぇ……。何にしろ、恐ろしいことをしたんですね」
「そうだな。敵に対しての冷酷さはレーラーよりも強いかもしれないな」
そこまで言ったボスは、また広場の中心に移動する。
そして、三バカに向かってボスは口を開いた。
「そいつの死にざまに怖気づいたのなら、ここで辞めてもいいがどうする?」
ボスの問いかけに、残りの二バカは威勢よく言い返した。
「この程度で俺たちが怖気づくわけないでしょう!」
「そうっす! 俺たちが絶対に勝つんですよ!」
二バカの様子にボスはため息をつく。
「そうか。じゃあ、次だな。……四号、お前の出番だぞ」
「はい!」
ゴブリンの進化種にしては体格が特別小さい四号が前に出てくる。
体格が小さいのには理由がある。
四号は親からまともに食い物を貰っていなかった上に、周りの個体との関りが薄かった。
だから、余計に精神的にも身体的にも幼かった。
だが、修行を重ねた今なら成長した四号が見られる。
今回の戦い、アルツトさんの戦いも楽しみだったが、一番に気になっていたのは四号の戦い方だ。
「そっちは適当に出てきな」
「……うっす」
ボスの投げやりな言葉に、不満そうに前に出てくる二バカのうちの一体。
四号は気負った様子はなく、自然体の状態だ。
「さて、そろそろ戦うわけだが、何か言いたいことがあるか?」
ボスの問いかけに、バカの方が唾を飛ばそうかという勢いで言葉をまくし立てる。
「おめぇみたいなガキが指揮官なんてありえねぇんだよ! ガキは大人しく寝床で震えてやがれ!」
バカのあんまりな物言いに、周囲で見物しているゴブリンたちが一様に眉を顰める。
だが、四号は何も気にした様子もなく、静かな言葉で言い返す。
「そう。アンタがそう言うのは勝手だが、俺より弱いお前に指図されるのは気に喰わない。さっさと倒してやるから、早くかかってきな」
決して言葉を荒げないその物言いに、周囲のゴブリンたちの中には、さすが指揮官だと感心するような雰囲気が漂っている。
目の前にいるバカは逆に癪に障ったようで、顔を真っ赤にして襲い掛かった。
「死ね! クソガキが!!」
バカは進化した割に戦闘経験が少ないようで、力が分散されるような殴り方で拳を突き出してくる。
バカはこれまで何をしてきたんだろうか。
そんな風に思いながら、四号がどう出るかをしっかりと見る。
「ハァ……」
四号はため息をつきながら、バカの攻撃を受け止める。
そして。
「ングッ!!」
バカの腕をしっかりと掴み、背負う要領で投げ飛ばした。
そのまま四号はバカを地面に叩きつけると、右手でバカをしっかりと抑えつけながら左手をバカの顔面に向ける。
そこまでの動作で四号が何をしたいのかを理解した。
「おい、バカ。最期に何か言いたいことはあるか?」
「し、しね。クソガキ」
「そ」
バカの死に際のセリフをしっかりと聞いた四号は、魔力で練った風をバカの頭に向かって打ち出した。
ドパンッという音と共に、バカの頭は吹き飛んだ。
俺は四号のやりたいことを理解したとき、自傷するのではと思ったが、四号は完璧な魔力操作で魔法を打ち出した。
その様を見て、もう幼い四号はいなくなってしまったのかと少し寂しく感じた。
そんな想いを隠しながら、四号に言う。
「流石だな、四号!」
「なかなか上手くできていたでしょ?」
自慢気に言う四号。
そんな四号の後ろからボスが顔を出す。
「そうだな。四号もなかなかやるようになったじゃないか」
「うひゃっ」
ボスに気付いていなかった四号が軽く驚く。
そんな様子に軽く笑ったボスは、俺へと視線を向ける。
「さぁ、最後だぞ、五号。……やれるな?」
「おっす」
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