プロローグ2-2
オーガという種族に生まれた俺は、夢の内容に苛まれながらも群れを治めていた。
もしかしたら前世は人間だったのでは、と思うほどに人間として生きていたような夢をよく見る。
だが、俺が見る夢は人間だけに収まらない。
自分がドラゴンになったように感じることもあれば、スライムになったように感じることもある。
つまりは、いろいろな内容の夢の所為で自分という存在に混乱していた。
そんな混乱は、緊急事態に迷いを生んだ。
何を迷っているのか。
それは他種族に戦いを仕掛けることを、だ。
特に今ある群れの中での問題は人間が相手だった。
人間として夢の比率が少し高いが故の迷いだ。
そもそもなぜ人間の街を襲うのか。
それは昨日のことだ。
「ボス、群れの中の子供が見つからない」
そんな報告から事件は始まった。
普通のオーガならば、群れの中の個体数が減っていようが気にすることはない。
だが、俺の群れは積極的に個体数を増やしていた。
かなり前に腰抜けが逆らったせいで、一体殺してしまったが、俺は本来群れの個体数を増やしたかったのだ。
そして、腰抜けが死んでから子供が出来た。
それが三体。
つまり、俺の群れは二十二体いる。
俺は群れの中の子供を大事に育てるように厳命していた。
種が途絶える確率が少しでも減るように。
大きな戦いがあっても、数で圧倒できるように。
そんな群れの中で大事な子供が三体とも帰って来ない。
一大事だった。
俺はすぐに動いた。
群れの中で俺を含めた十二体を四組に分け、さらに残りの七体を拠点防衛に配置し、俺たちは森の中を探し始めた。
四チームのそれぞれを東西南北に向かわせる。
東西は森、北も森、そして南は人間たちの住まう街になっている。
俺のチームは人間に遭遇しやすいであろう南側へと向かった。
もし、強力な個体の人間に当たってしまうと、俺たちのようなオーガでも狩られてしまう可能性もあるから、群れ内の最強個体である俺が向かったのだ。
俺は子供たちの捜索は上手くいかないだろうと思っていた。
そもそも俺たちオーガは脳みそまで筋肉で出来ているように思うほど、力任せの馬鹿ばかりだ。
子供たちの痕跡を探すという器用なことなど出来る訳もない。
そんな風に考えつつも、必死に捜索していると事態は急変した。
子供のうち一体が帰ってきたのだ。
後ろから人間に追われている状態で。
俺たちオーガは力を信奉する種族。
それは子どもであっても同じこと。
目の前の敵から逃げることなどありえない。
そう、仲間から逃がされるような特殊な状況以外は。
そして、今回はそんな特殊な状況だったのだ。
子供を追っていた人間は弱かった。
追って来ていた人間は三人ほどで、驚くほど弱かった。
事実、俺が軽く殴っただけで簡単に死んでいった。
こんな弱い個体の人間なら、子供は逃げる必要はないはず。
その考えのもと、子供に何があったかを聞いた。
「強い人間がいた」
「だから逃げてきたのか?」
俺と一緒に捜索していたオーガの質問に子供は首を振る。
どうやら最初は戦おうとしたらしい。
だが。
「人間の中におかしな奴がいたんだ」
「おかしなやつ?」
「うん。他の魔物に命令してた」
「なに? 魔物を操っていたのか?」
子供の予想外の言葉に、思わず聞き返してしまった。
俺の驚愕が伝わったのか、子供は少し緊張している様子を見せる。
「僕の見間違いじゃなければ、獣みたいなのと人型みたいなのに命令してた」
「そ、うか……」
「あと……、魔物は首輪? をしてた」
さすがに戦闘の得意な種族であるオーガ。
少しでも敵に違和感があれば、それもしっかり把握しているらしい。
そして、俺はあることが気になった。
「もしかしてだが、首輪を持った奴が敵の中にいたんじゃないのか?」
「うん」
「もう一つ、もしかしてだがお前の他の個体が首輪をつけられたんじゃないよな?」
「それは、たぶん大丈夫」
「たぶん?」
俺は気になっていたことがあった。
逃げてきていた個体は目の前にいる一匹だけということだ。
本当なら他に二体いるはず。
それを聞くと……。
「三体みんながバラバラに逃げたんだ。少しでも生き残れるように」
子供たちは賢かった。
まとまって逃げてしまえば、追いつかれたときに一網打尽にされる。
そのことを分かっていたから、かく乱する様にバラバラに逃げたらしい。
探す側としては多少の苦労がかかるが、生き残るという意味では正解を選べたと思われる。
「そうか……。よくやった。お前が俺たちに遭遇できたことで、お前たちがやったことは正解になった」
「ホントに?」
「あぁ、あとは残った子供を探そう」
そう言って歩を進めようとしたところ、目の前から異様な雰囲気の人間が現れた。
人間として普通か分からないが、目の前のコイツは青目茶髪の軽薄そうな表情をしている
身に着けているのは、革の防具を基本とした軽装と言えるような装備。
手には武器であるムチを持ち、腰には子供が言っていた首輪のようなものを装備している。
そして、何より漏れ出る魔力の密度が高い。
総合すると、コイツはそこそこ強いということだ。
「んー? オーガ? それも成体かぁ……。めんどくさぁ」
相手は気だるげな様子で言葉を発している。
しかも、俺たちオーガがいるというのに、危機感のかけらも感じられない。
「おい、お前たち。子供を連れて群れへ戻れ」
「何言ってんですか、ボス!」
「アイツそこそこ強いだろう。だが、そこそこだ。もしかしたら、お前たちでも倒せるかもしれねぇ。だが、ガキが言っていた魔物がいねぇ。不意打ちの危険がある以上、テメェらを逃がすのが俺の仕事よ」
人間には俺たちの言葉が通じないと信じ、逃げる時間を稼ぐために俺は戦闘態勢に入った。
筋肉を膨張しすぎないよう制御し、魔力を練る。
身体からはすでに可視化された魔力が漂っているはず。
これで、目の前のが逃げてくれるといいんだが……。
「へぇ……」
俺の様子を見ても余裕決め手やがらぁ。
心底ムカつくが、ここは逃がさねぇと。
「お前ら、俺の咆哮に合わせて逃げな。……いくぞっ!」
ガァァァァアアアアアア
森全体を揺らすかの如き咆哮。
子供の個体はビビって腰が抜けたみたいだが、成体がすぐに担いで逃げ出した。
さて、俺は目の前のコイツに集中しねぇとな。
「うるさっ。はぁ、君は逃げないんだ。めんどうだけど、僕のために捕まってよ」
目の前の人間との勝負が始まった。
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