底辺ダンジョン探索部はあきらめない
蛙田アメコ
プロローグ
プロローグ
プロローグ
東京
美しい大理石と宝石に彩られた、【絶対安全領域】。
学生服の四人の人影が、そこにあった。
「ふぅ、溝口アカリ、準備完了……!」
燃えるような瞳を爛々と輝かせる小柄な少女は髪飾りをもてあそぶ。
クセの強い一房の髪を頭の横で結いなおした。
アカリの胸の内は燃えている。
いや、恐れながら、震えながら、それでも燃えている。
何度足を踏み入れても、ダンジョンに入るときの高揚感は色あせない。
だって。
ずっと、ずっと、こうやって大手をふってダンジョンで冒険したかった。
背負っているのは高校生用の標準装備、三〇キロ。その重さすら心地が良い。
ここで、有名になるんだ。
大活躍して、チヤホヤしてもらうんだ。大切な仲間と一緒に。
「行こう、みんな!」
アカリの力強い声に、隣に寄り添うように立っている少女が頷く。
「木月野桔梗も同じく準備完了、です」
切りそろえた黒髪。前髪の一部は白銀色というミステリアスな出で立ちをさらに際立たせているのが、和服を模した改造制服だ。
その奇妙な格好が恥ずかしいのか、モジモジと所在なさげにしている。
小柄なアカリよりもさらに小柄な彼女の姿は、庇護欲を掻き立てる。
けれども、どこか芯の通った強さを感じさせる少女だ。
なお、この可愛い解像和服は桔梗のイメージ戦略のひとつとしてメンバー全員でプロデュースした衣装だ。可愛い。
「皆さんも、準備はいいですか?」
そんな桔梗の声に、小柄な少年がぼそぼそと応答する。
「あー、北加瀬太郎、いけます……っつーか、これ毎回やんなきゃダメなのか?」
手に持っている単語帳──北加瀬自身が開発した世界最小の
「げふぅっ」
北加瀬の背中をバシンと叩くのは、四人の中でひときわ長身の少女だ。
「あはは。こーゆーのは雰囲気だって。わかってねぇなー、『漆黒の魔導師パピよん☆』は」
「いったぁ! っつーか、その名前で呼ぶな!」
「あはっ、ごめんごめん。ってなわけで、夢見ヶ崎レイ、準備おっけー」
アカリに向かって片目を閉じて見せるレイが、親指を立てる。
どこに出しても恥ずかしくないヤンキー女だが、ランクAの迷宮異能の持ち主だ。
「全員準備完了だよ、隊長!」
「うん! そしたら記念すべき、第一四六回目のアタックを始めようか。怪我なく、楽しく、全力で!」
アカリの声に、三人が頷く。
心が満たされる。
このパーティは最強で、それはダンジョンの外でもそう。キャラが立っているアカリたちの探索者パーティは、あらゆるメディアで人気者だ。
「……と、その前に。桔梗センパイ、しゃがんで!」
「え? あ、はい」
桔梗が反射的に膝を曲げる。
とん、と。アカリが軽やかに床を蹴った。
桔梗の髪が、鋭い風圧にわずかに揺れる。
次の刹那。
「GYAAAAAAA!!?」
大咆吼、続いて地鳴りと共に――怪物が倒れた。
「っしゃ、一撃ぃっ!」
アカリの声が響く。少女は土煙とともに倒れた怪物――大型のトカゲ、あるいはドラゴンとでも呼ばれる存在の体躯の上に立っていた。
一拍遅れて、桔梗が背後を振り返って声をあげる。
「お、大きい……カテゴリー4相当の大型
「げげ。デカいのに静かに忍び寄ってきやがるなぁ……さんきゅ、アカリ!」
「……相変わらずの馬鹿力」
跳躍、全力で殴る……以上、である。
当然、その動きは人間離れしている。
「しっかし、
アカリは肩をすくめる。
「はい、昔は四層以降に生息していたタイプの
「油断ならないから、面白いんだけどさ」
アカリはそんなことをいいつつも、心臓をバクバクさせていた。
(鬼のようにレベリングしていてよかった……ドラゴンっていっても格下なら怖くないもんね! 格上のロギアなんて怖くて相手できないっていうか、絶対したくないし!)
アカリは、臆病であった。
その足もとで、ドラゴンはさらさらと虹色の砂になって崩れていき――消滅する。
あとに残されたのは、どこまでも透明。それでいて美しい虹色を帯びた結晶だ。
「魔力素結晶、ゲット!」
レイが結晶を拾い上げた。
小指の先ほどの小さな結晶。
だが、売却をすれば五〇万円は下らないだろう。
物理法則は通用せず。
摩訶不思議な現象に溢れ。
神話や伝説の生物が息づき。
そして、石油や原子力を凌駕する未知のエネルギー結晶――魔力素結晶と名付けられた資源を産出する。
――それが、ダンジョンだ。
いったい何故突如として出現したのか。
いったいどうやってこの世界に出現したのか。
いったい奥へと伸びる迷宮は、どこまで続くのか。
一切が、不明。
しかし、ダンジョンに足を踏み入れたとき、確実に人類史は変わった。
「それじゃ、行こうか」
アカリの声に、三人が大きく頷いた。
探索開始前から大型
「樹学院ダンジョン探索部──チーム『もぐもぐズ』、行きます!」
不明迷宮――通称、ダンジョン。
謎多きダンジョンに、今日も彼らは足を踏み入れる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます