第34話 波紋党


フェラクリウスは鞄から小銭を取り出し、ヘルスメンに握らせた。


「質は保証するぜ」


ヤニを吸っている割には白く輝く歯を見せて笑ったヘルスメンが、背もたれにしていた大きな鞄をごそごそとまさぐる。


そこから一枚の布を取り出して広げて見せた。


「これ、なんだと思う?」


縦30センチ、横50センチ程のそれは藍色の生地に三重の同心円が二つ、横に並んでいる。


「なんだと思うって…

 図形が単純すぎて

 コレってものに絞れないだろ」


カートの言う通り、なんとでも解釈出来る。


だがその中でも一つ、フェラクリウスの脳裏にピンとひらめいたものがあった。


「女性の乳房だろう」


「違う。これは水面に立った波紋を表している」


違った。


痛恨のミスである。


フェラクリウスともあろう男がみっともない誤り方をしたものだ。


カートが横目でフェラクリウスの顔を見る。


いつもと変わらぬ彼の表情から恥じらいは感じられなかった。


恥も失敗も恐れない男、フェラクリウス。


彼の強さの秘訣はここにあるのかもしれない。


むしろ同行者のカートの方が赤面してしまった。


「西の盗賊団の旗さ。

 “波紋党はもんとう”と名乗っているそうだ」


「なんでお前がそれを持ってる?」


まるで内部の人間であるかのように。


そう言いたげなカートの含みのある言い方にヘルスメンは口を尖らせた。


「俺を疑うなよォ」


「当然の疑問だろ」


問い詰めようとするカートをへらへらとかわし、ヘルスメンは自分のペースで話を続ける。


「俺って色んな国の風俗を巡るのが趣味でさ」


「風俗大好きヘルスメン…」


「そ。行く先々で商売してるワケよ。

 世界中に顧客がいるんだわ」


一旦言葉を区切ると、ヘルスメンはパイプを咥えて深く呼吸をした。


パイプの先から灰色の煙が立ち上っていく。


「きっかけはある男の姿を見た事だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る