第16話
俺の家に着くとキョウヘイとカミオカさんにお礼を言って車を降りた。
玄関のドアを開けると母さんがやってきて、夕飯を食べるか聞いてきた。俺はまだ少しお腹がすいていたから、「食べる。」と返事をした。
「分かった。用意するから、荷物置いてきちゃいなさい。」と母さんに言われて、自室に荷物を置きに行った。部屋に入ると、すぐにナツキに謝った方がいいかな?と思ったが、夕飯を食べてからでもいいだろう。と思い直しリビングへ向かった。
夕飯を食べ終えると、よしっ!それじゃあ、ナツキに謝ろう!と思ったが、母さんに「お風呂沸いているから、後で入りなさいね。」と言われて、お風呂に入ってからでもいいか。と思い直してしまった。
ここまでくれば自分でも嫌というほど分かるが、俺はナツキに謝るのを先延ばしにしていた。もちろん、すぐに謝りたいという気持ちもあった。だが、謝るのなら今朝謝った方が一番良かったのではないか?という思いが浮かぶとなかなか実行に移せずにいた。そもそも謝ったところで許してくれるのだろうか?許してもらえないなら謝らなくていいのではないか?という酷い考えまでが浮かんできたが、許してもらえなくても謝るということが大事なんだ!謝らなかったら、今後ナツキとの付き合いはなくなってしまうぞ!それでもいいのか!と考え直し、よしっ!お風呂から出たら謝るぞ!と意気込んだが、結局長風呂をしてしまった。
さすがにお風呂から出たら先に延ばすことができず、自室の窓の前でラインのメッセージをナツキに送ろうとした。タイミングよくナツキからメッセージが来ないかな?と期待したが、そううまく行くことはなく、意を決して「窓開けてくれないか?」とメッセージをナツキに送った。
俺は窓を開けてナツキの部屋の窓が開くのを待ったが、送ってから数分(体感ではそれ以上に感じたが)経っても既読にはならなかった。仕方ない。返信が来るまで気長に待つか。と考え、窓を閉めようとした時、ナツキの部屋の窓が勢いよく開いてナツキが顔を出した。パッと俺とナツキの目が合うとお互いに気まずさがあったため、しばらく無言の時間が流れた。
しかし、このままでは良くないと思った俺はまず謝ろうと思い立った。
「「ごめん!」」
「「え⁈」」
俺が謝ると同時にナツキも謝ってきた。俺はナツキが謝る理由が思いつかず、ナツキに、「何でナツキが謝るんだよ?」と聞いた。
「だって昨日、裏でキョウヘイにセイのこと聞きだしたりしてセイを怒らせたから。むしろセイの方こそ何で謝るの?」
「それは昨日怒ってたとはいえ、ナツキに対して言い過ぎたと思ったからだよ。ホントにごめん!」
「ううん。私の方こそごめん!」
「いや、俺の方こそごめん!」
「いやいや、私の方こそごめん!」
「いやいやいや、俺の方こそごめん!」
「いやいやいやいや、私の方こそごめん!」
「「ぷっ!あっはっはっは!」」
俺とナツキは同時に吹き出し笑い始めた。というのも俺とナツキは小・中学生の時によくケンカをしては、こうしてお互いに窓を開けて謝り合って仲直りをしていたからだ。久しぶりだったが、今まで通りで笑いがこみ上げてきてしまった。
「それじゃあ、お互い悪かったってことで!」とナツキが提案してきたので、「ああ、そうしよう!」と同意した。
「それじゃ、もう寝るね。おやすみ~。」
と言って、ナツキが窓を閉めようとしたので、俺は「待った!」とナツキが窓を閉めるのを止めてしまった。
ナツキが驚いた顔で「どうしたの?」と聞いてきたが、俺も自分自身に驚いていた。ナツキが窓を閉めようとした時、キョウヘイの「一応は心配してくれたわけだし。」という発言を思い出してしまい、ナツキにこのまま黙っておくのは良くないのではないか?と思ってしまった。まあ、ナツキにカジワラに振られたことを話しても誰かに言いふらすようなやつではないからな。
「あのさ、3日前から俺の様子がおかしいってナツキ言ってたじゃん?実は俺、3日前に告白して振られたんだ。」
ナツキは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに寂しそうな表情になった。
「……そっか。まあ、そんな気もしてたんだよね。相手はハタケさんでしょ?いくら仲良くても、あんな美人がセイに振り向くわけないじゃん。身の程をわきまえなさいよね。」
「は?」
「は?」
「いやいや、確かにハタケは美人だけど、俺が振られたのはハタケじゃなくてカジワラ!」
「カジワラさん⁈何でカジワラさん⁈(ハタケさんだったら諦めがついたのに……。)」
最後のごにょごにょ言ったところは聞き取れなかったが好きなった相手をバカにされた気がしたので、「カジワラだって可愛いし、性格もいいし、何より話が合う!好きになるには十分な理由だろ!外見だけでカジワラがハタケに劣ってると思うなよな!」と反論した。
「それはごめん。そうだよね。好きなるにはいろんな理由があるよね。それでカジワラさんに振られたこととここ最近帰りが遅いことは関係あるの?」
「それは……カジワラには振られたけどまだ俺はあきらめてないんだ。それでカジワラを振り向かせるためにキョウヘイと特訓しているんだ。」
「特訓?どんなの?」
「それは言いたくない。もう少し形になったら話すよ。」
「分かった。セイが私に話したくないことを話してくれたんだから、これ以上は聞かない。」
「あと、このことは……。」
「うん。誰にも話さない。」
「それじゃ、おやすみ。」
「おやすみ。」
俺は窓を閉めてカーテンを閉めた。ナツキにカジワラに振られたことを話してしまったぁ~!と後悔する気持ちもあったが、どちらかと言えば、話したことによってすっきりする気持ちの方が大きかった。
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