襲来 (加筆アリ)

「本日から入隊となる新人たちだ。みんな、仲良くするように」




なぜか海パン姿の変態(周囲の人から司令と呼ばれている)が私を含めた4人を先輩方に紹介する。




左端から順に、自己消化をしていき、最後が私だった。




新人4人の自己紹介を一通り終えた後に、一番手前にいた部隊長が、怪訝な顔をしながら海パン変質者に質問を投げる。




「司令、なんですかその恰好?」




この姿がデフォルトではなかったことを知り、私は少しだけ安堵した。




「決まってるだろう。新人歓迎を兼ねた海水浴だよ」




私は耳を疑った。




今まさに世界で敵の侵略が行われているというのに、のんきに海水浴などと、それでも軍人の端くれだろうか?




これが、ヒーローモノのドラマや漫画ならば間違いなく死亡フラグだ。




この回で全滅確定もありうる司令の命令を私は心底理解できなかった。




そもそもこの基地自体、沿岸部からは相当に離れており、日帰りで海水浴をするとなると遊べるのはせいぜい1時間もないだろう。




娯楽が実現可能かという現実的な観点からも、目の前の変質者の提案は愚策と言えよう。




とそんな私の内心を見透かしたように、司令が時代劇に出てくる悪役のような顔をこちらに向けてくる。




「そこの新人、俺の素晴らしい提案に不満があるようだな」




『お言葉ですが司令、ここは沿岸部からは程遠く、仮に遊びに行ったとしても小一時間水浴びをするのが関の山でしょう。それに、その間の防衛はどうするのです?』




「くっくっく、それでこそ新人だ!」




私の主張はしごく真っ当なものだと思っていたので、笑われたことに少しだけ怒りを覚えた。




司令が悪辣な笑みを浮かべながら、新人と先輩方を含めた10人をどこかへと案内する。






数十年前から各国に設立された戦ワル姫キューレ隊。




その基地の多くは地下に隠されている。




私が入隊したフランス戦姫隊の基地は前述のとおり海から遠く、地盤が非常に硬いため、崩れる心配もなく敵の攻撃もある程度は防ぐこともできるとして、各国屈指の戦姫隊基地の呼び声も高い。




他国では、地面を掘っていくネビーが出現し、基地ごと攻撃された事例も多々あるが、この国ではいまだそういうことがないのもそういったおかげなのだろうか。




司令が大きな扉の前で立ち止まる。




どうやら目的地はココのようだ。




司令が扉横のパネルにパスワードを入力、すると扉の下がうなり声をあげ、ぐんぐんと上に上がっていくのが見えた。




周りを見渡すと、先輩方が口をあんぐりさせながら固まっていた。




どうしたものかと部屋の方へと視線を戻すと、そこには一面に広がるオーシャンブルーがあった。




皆の反応を見た司令が、喜びをかみしめるようにウンウンと頷く。




「どうだ!これがウチの屋内プールだ!!これなら海に行かなくとも海水浴ができる!!!」




『バッカじゃないの!?地下にプールなんて!さすがは中二病のベルジね!』




「おねぇちゃん、そんなこと言ったらベルジさんが可哀想だよぉー」




腐っても司令、この隊のトップの人間に対してする言葉づかいでは決してない生意気な声のする方を振り返ると、そこに居たのは紛れもない天使様だった。




いやというか、ココのいる者達全員、背に翼を携えているので、天使のようではあるんだけど、その二人は、他の者とは明らかに一線を画す美しさだった。




「遅かったじゃないか、ダブルスプラッタ」




『!?私と妹をセットで呼ばないでっていつも言ってるじゃない!馬鹿ベルジ!!』




「おねえちゃん、よそうよ。ベルジさん、あんな格好してる万年セクハラおじさんだけど、いちおう司令って設定なんだよ?」




スプラッタと呼ばれた二人。




金髪で女性特有の凹凸のがい華奢な身体をしている。




二人の相違点と言えば、ツンケンとした物言いで司令はむかっている方の少女の瞳は燃え盛る炎のように真っ赤で、視界に入れば、たちまちその炎で燃やし尽くされてしまいそうな印象を受ける。




もう一人の方は、大人しい印象の少女で、瞳の色は自分の髪の色とおなじオーシャンブルーの碧色だ。




この二人は、先ほどの司令室での集会にはいなかったはずだが。




「うふふ、カリナちゃんもカリンちゃんも朝から元気いっぱいねぇ。」




さらにその後ろから、またも先ほどまで居なかった者が現れた。




しかし私はこの女性を知っている。




いや、私だけではない、この世界で彼女を知らぬ者などいるはずがない。




なぜなら彼女こそが人類の最終防衛ラインとも呼ばれる地球に降り立った最古の戦姫であり、最強の戦姫、マリア・ラベル なのだから。






その後、他の者は屋内プールに各々飛び込み、楽しいひと時を過ごした。




私はというと、一人、プールサイドで体育座りをしていた。




そこに、先ほどの金髪少女(大人しい方)が声をかけに来てくれた。




『泳がないんですか?』




「お恥ずかしながら、金づちなものでして」




『新人さんですよね?』




「はい。本日から第九期フランス戦姫隊に入隊しました。アスカ・ライラットと言います。」




『アスカちゃんね、可愛い名前!私はね、カリン・スプラッタっていうのよろしくね!』




そう言って目の前の少女は明るい笑顔を私に送ってくれた。




*********




食堂で食事を済ませた4人は、指令室へと向かう。




食堂横の階段を降りる。階段を2つほど降りた後、中央の壁を5度ほど叩く。




すると壁の下からプシューと白い煙が立ち込め、壁の一部が大きな音と共に動き出し、部屋へとつながる道が現れた。




「相変わらず派手だなぁ。」




隣で眺めていたリズがそう愚痴をこぼす。




「ネビーはいつどこから襲ってくるかわからないのだから、軍の中枢を担う施設を地下に隠しておくのは当然だわ。」




理路整然とそう答えるアスカ。




「それもそうだけど、煙がでる仕掛けとか、正直必要ないと思うんだよねぇ。」




『ベルジさんの趣味らしいよ~。当時見てたSF映画に感動しちゃったんだってぇ~』




リズのもっともな反論に、カリンが補足を入れる。




ネビーが侵略してからの数十年間で、数々の新兵器や科学技術が生まれる中、それ以外の産業は大きな停滞を強いられた。




特に顕著なのが、映画や書籍などのサブカルチャーと呼ばれる産業。




今あるサブカルものは、全てネビー侵攻前にできた過去の遺物であり、それを表立って入手する方法も少ないため、今では幻の存在になりかけている。




そんな物を熱心に収集する変わり者がベルジなのだ。




四人が他愛もない議論をしていると、目の前に大きな扉が現れた。




扉の右隣にあるパネルに番号を入力、扉が開かれる。




「第十期フランス戦姫隊、全四名、先の戦闘からの帰還報告に参りました!」




アスカが代表して声を上げ敬礼をする。




他三人もそれにならい敬礼。




実に軍隊らしい光景だ。




「遅かったじゃないか、四人とも。先に飯でも食ってたか?」




四人が見つめる先にはタンクトップと短パンという、堅苦しい部屋の雰囲気とは真逆のラフすぎる格好をしたおじさんが、座って4人の行動を見透かしたようにニヤリとほくそ笑む。




「いえ、帰還途中にリズが鹿を見つけたといって寄り道をしていたため、遅れてしまいました。」




とっさに嘘をつくアスカ。




隣から小声でちょっとアスカちゃん!というリズの声が聞こえ、少しだけ罪悪感をおぼえる。




さらにその隣から物凄い圧の殺気を感じ、後で姉妹への土下座を本気で考えるアスカだった。




「そうか鹿か!大物じゃないか!!って今日の夕飯はシカ肉かぁ?いやぁ肉なんて久しぶりだなぁ。」




「いえ、鹿はまだ子供だったらしく肉は少なく、先ほどリズがきれいに平らげてしまいました。」




「えええええっ!!」




再び嘘をつくアスカ。




今度は小声ではなく大声でリアクションをするリズ。




さらにその隣からの殺気が一層強まるのを感じ、アスカは死を覚悟する。




「そうか、旨かったかリズ?」




アスカの嘘に特に突っ込むこともなく、シカ肉の感想を求めるベルジ。




「えっ?あっ、うん!とっても柔らかくておいしかった!」




リズの感想を聞きそうかそうか頷くベルジの瞳には涙が浮かんでいた。




自分を慰めるように机の上にある白い箱から、白い棒を一本取り出し口に咥えるベルジ、




「司令、お言葉ですがココは地下で換気もあまり効いておりませんので、おタバコの方は。。。」




アスカがベルジの行動に待ったをかける。




しかしベルジの態度はあっけらかんとしていた




「ああ、これか?コレはシガレット酢こんぶだ。ややこしくてすまんな。アスカも一本いっとくか?」




そう言ってアスカの前に酢こんぶの入った四角い箱を差し出すも、きっぱりと断られる。




「それと司令、もう少し身なりに気を遣っていただけませんか?それではまるで不審者です。」




「いや、暑いんだよココ~」




アスカの指摘に頭をかきながら面倒くさそうにそう答えるベルジ。




格好も言動もナイター親父そのものだ。




それより、と前置きして先ほどとは打って変わり、真剣な顔つきで話し始めるベルジに、4人も背筋を伸ばし真剣に聞き入る。




「先ほど国連より警告文が送られてきた。内容は、3日後に歴代最凶レベルの敵が現れるというものだ」




国連は文字通り国際連合の略。ネビー侵略戦争に際しての総指揮や各国への情報伝達の中心でもある。




ネビーはいつどこで現れるかは、この数十年のたゆまぬ研究成果により、ネビー特有のエネルギー反応を感知することで、予測することが可能になった。これは人類の数少ない成果である。




「しかも情報によれば、現在世界各国で同時多発的にネビーの攻撃にあっており、こちらに援軍を送る余裕がないらしい。」




司令から伝えられた事実は悪夢にも似たものだったが、4人の目に曇りはない。




辛いことはこれまでに何度だって経験してきた。




仲間の死も間近で見てきた。




彼女たちに死を怖がるという選択肢などない。




自分たちは戦うために生まれてきた文字通り“戦姫”なのだから。




「これより作戦内容を伝える。」




*********




「雨と霧のせいで視界が悪いわ。カリン、はぐれない様に気を付けて。」




雨粒が目に入ったのか、目をごしごし擦りながら、アスカの言葉に無言でうなずくカリン。




「司令、私とカリンの位置をこまめに報告してください、もし離れてしまってもすぐにわかるように」




「OK、まかしとけ!」




いつもよりも速度を落とし、慎重に進んでいると、霧のむこうに人影のようなものが視認できた。




「!? カリン、構えて!戦闘よ」


『うん!』




霧の中なのだ、敵か味方かも分からない。




しかしこんな日にこんな所で出歩く人間がいるものか。




私は霧のむこうにいるのが敵だとたかをくくっていた。




人影がこちらに気づき前進してくる、周囲にも敵がいないか全方位に神経を張り巡らせる。




霧を抜け、その人影が姿を現す。




と相手は紛れもない人だった。




しかも見た目10歳もいかない程の少年だ。




背は140㎝ほどで、下を向いているので表情は視認できない服装はこんな雨の中なのに濡れている気配が一切ない。怪しすぎる。




隣にいたカリンの顔から血の気が引き、青ざめていく。




「―ぁ。マジかよ」




耳元で司令の絶句の声が聞こえる。私は無言で臨戦態勢に入る。




『そんなに怖がらないでよ。』




少年の発した一言に私の身の毛がよだつ。




彼の言葉、いや声は私にとっては黒板を爪でひっかいた時の音の様に耳に残る嫌な音だった。




この世に司令のセクハラよりも不快なモノを初めて体感し吐き気を催しそうになる。




そんな私の心の内を知る由もなく、少年は言葉を続けた。




『リズとベルって君たちのこと?』




それを聞いている少年の顔は笑っていた。




歯を見せ、頬の筋肉が瞼を押し上げ、瞳が細く横長に、そして瞳は赤く充血していた。




【登場人物紹介】


③ベル・ラベル


年齢:15歳


身長:153cm


好きなもの:おねぇ、魚介類


嫌いなもの:キノコ、おねぇを馬鹿にする奴




④ベルジ・ブランカ


年齢:35歳


身長:175cm


好きなもの:酢こんぶ、女体、サブカル


嫌いなもの:タバコ

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