第47話 私と未来と水族館。3
いつもと同じ見た目の電車に乗る。
今日は休日だが、田舎の電車なので混み具合などたかが知れている。
二人並んで座れる席はすぐに見つかったので、私たちはそこに腰を落ち着けた。
「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃって」
「ううん、全然。俺も寝癖直すの手こずったし」
私が申し訳なさそうに言うと、彼はちょっと緊張した様子で返してくれる。
「そうだったんだ、あ、ここ寝癖残ってる」
ふと、広哉の頭から小枝のように髪が跳ねているのを見つけた私は、くすっと笑って広哉の頭に手を伸ばす。そして、少し残った寝癖を直してあげた。
(さすがに恥ずかしいな…)
自分からやっておきながら恥ずかしくなってしまった私は、顔を背けて窓の外に目をやった。
やわらかな日差しが目に入ってくる。
今日はいい1日になりそうだ。
電車の中で、たくさん話した。
ほんとに何気ない会話だったけど、同じ学校の人とのかかわりはほとんど広哉に限られていたから、貴重な機会だったように思う。
1時間くらい電車に乗っていたらしいが、私にはずっと短く感じられた。
水族館にはたくさんの人がいた。many、いや、a lot ofの人々。
幸い、私たちはネットでチケットを購入していたので、スムーズに中に入ることができた。
チケット売り場の長い列に並ぶ子どもたちが「まだー?」と嘆く声を背にして、私たちは中へ入った。
(ごめんね、ちびっこたち)
中に入って、すぐに目についたのは、魚たちに餌やりができる体験型の水槽。
そこは子どもたちに大人気なようで、きゃっきゃっとはしゃぐ声が聞こえてくる。
(やりたい…)
もともと動物好きの私は、意図せず立ち止まって楽しそうな子どもたちの様子を眺めてしまった。
そんな私を見かねて、
「やりたいの?」
と南條君が声をかけてきた。でも、私は表面上はクールで、大人っぽくて、イマドキって感じの女子高生を演じていたい。だから、
「べ、別に?子どもじゃあるまいし」
と、きっぱりと言い放ってさっそうと歩き始めた。
(決まった…今のは我ながら大人っぽかった)
1人で満足していた私であったが、現実はそううまく行ってはくれない。
「可愛い~!てかめっちゃいるじゃん!すご~い!」
水族館に行くと決まってから、ずっと見たいと思っていた、念願のペンギンの水槽へ到着するなり、私は興奮のあまり歓声を上げてしまった。
周りに何組か親子連れがいるが、この場にいるどのちびっこよりも私がはしゃいでいた。おそらく。いや、確実に。
少しして、私はイルカショーの時間が迫っていることに気づいた私は、広哉に声をかけて一緒に会場まで向かった。途中、転んでしまった少年に向けて、そして人混みではぐれないように私に向けて彼がくれた優しさが、私の胸を経験がないほどに温かくさせたのは、私だけの秘密だ。
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