第16話 帰還
なぜだろう。なぜ俺はあんなにも照れてしまったのだろう。いつものように理子にからかわれただけだというのに。
本当は、俺も知らない心の奥底で、柚希にまた会いたいと思っていたのかもしれない。
それを理子は見透かしたのだ。
だとしたらそれは、なんで恥ずかしいのだろう。
そんなことを延々と考えながら、俺は廊下を早歩きしていた。
俺のスピードというか、勢いに、廊下で駄弁っていたであろう生徒たちが道を開ける。
背中からはコソコソと俺について話す声も聞こえる。
が、今の俺にはそんなことを気にする余裕はない。
一刻も早く、教室の自分の席へと戻り、突っ伏すとかなんとかして、平常心を取り戻さねば。
いろんなことが頭の中をぐるぐると巡っていたが、突然、胸の辺りに衝撃を感じた。
「うわあぁっ!ちょっと、どこ見て歩いてんのよ!?」
声色から女子だとわかるが、その語気は強い。
「す、すいません!」
先輩かも知れなかったので、俺は念のため敬語で謝罪する。
「まったく…気をつけてよね」
「はい…」
去り際、ぶつかった女子生徒の上履きの色で、同学年だとわかった。そして、どこかで聞いたような声をしていたが、その場では思い出すことができなかった。
今の俺は、なんて情けないんだろう。
きっと、声もか細いだろうし、弱々しい見た目だろうな。
今までそんなこと、考えたこともなかったのに。
きっと、理子のせいだな。
俺は力無い足取りで教室に着くと、泰正に声をかけられた。
「おいどうした、受験票忘れて第一志望校受けそびれたみたいな顔してるぞ」
「微妙な例えはやめてくれ…ちょっと指田先生に
「そっか、話は聞くからな?飯奢ってもらうけど」
「最後の一言が余計だ」
なんだかんだ言って、泰正はいい友達だ。3年ちょっとの付き合いでも、それはわかる。
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