20話 レプリカ

 不思議がる私たちに真田さなださんは、少し申し訳なさそうに頭を掻きながら話す。


れいちゃんには怒られるかもしれないけど・・・それ、ニセモノなんだよ」

「えっ!?」「はぁ!?」


 またも重なる私たちの声。


「ちょっと子供だましのイタズラが過ぎましたかね会長」

「ああ・・・そのようだな」

「ど・・・どう言うこと?」


 いまだに不思議がる私に、真田さんが説明してくれる。


「その短刀、実は最初からレプリカなんだよ。さすがに学生さんにホンモノの短刀を持たせるわけにはいかないだろ? 銃刀法違反で捕まってしまう」

「・・・・。」

「それで以前、会長と話してそっくりなレプリカを作ったんだよ。それが・・・それ」

「えっ、これが?」

「そう、それが」

「・・・・。」


 私はすぐには状況を理解できなかった。しばらくして断片的な言葉を口から出る。


「それ・・・いつから・・・?」

「母さんに色々あっただろ? あれを機にな」


―――知らなかった。と言うことは私は始めからニセモノの短刀を後生大事に持ち歩いていたのか。


「じゃあよ・・・あ、じゃあ、ホンモノの短刀はどこにあるんですか?」


 少し怒り口調で凛花が尋ねる。


「アレは大事にしまってあるよ、金庫の中にな」

「マ、マジで・・・」

「知らなかったわ・・・」

「いや、スマンスマン! それにホンモノはもっとズッシリと重たいからね。バッグに入れて持ち運ぶにはチト不都合だしな」


 確かに・・・確かに私の持っている短刀は金属でできている割には軽かった。これは初めて手にした凛花も感じていたことだった。それにしたって・・・ヒドイ!!!



 祖父や真田さんによると、その男、南雲昭なぐもあきらは半年前に組内でちょっとした事件を起こし、品田組しなだぐみを除名扱いになっていた。その名誉を挽回して組に復帰するため、あるいは『村雨錦むらさめにしき』の旗の下、新しい組織を作ろうかとの野心もあったのだろう、とのことだった。


 ことの全てを祖父から聞いた品田組長は今回の件について心から謝罪したらしい。ヤツ、南雲昭については除名扱いにしたとは言え、半年前まで自分の組織の一員だった。そんな南雲の不祥事に対して、品田組長も責任を感じたのかもしれない。


 そして今後一切、私たちには関わらないと約束してくれたそうだ。要するに品田組長自体は話せばわかるヤツだったってことなのかしら?

 まあ「落とし前」ってことで南雲がどんな目に遭わされるかは想像したくないけど!


***


 ひと通りの話が終わると私たちは二階に上がった。

 八畳弱の洋間、そこが私の部屋だ。

 もちろん、例の村雨錦―――今となってはレプリカでえることが判明したわけだが・・・ソレも持って来た。

 それをちびかわのキンチャクごとローテーブルの上に乗せると腰を降ろした凛花が言う。


「まあこれで一件落着だな」

「そうね。なんか色々あったけど、振り返ってみるとなんとなく私が独り相撲を取っていたような気分だわ」

「まあそれは結果論だろう。親の形見ともなれば誰だって必死になるさ。例え冷静沈着がウリの玲でもな」


 そう言うと彼女は私に軽くウインクする。その額にはうっすらと汗が滲んでいる。

夏も終わったというのに、今まで締め切っていた二階の部屋は蒸し風呂のようだった。着けたばかりのエアコンが効くにはまだ時間が掛かりそうだ。


 そんな中、勝手に私のベッドに座った凛花りんかは、少し安堵の表情で私に話し掛けて来る。


「思い返せばこの二ヶ月半、色んなことがあったよな」

「そうね。」


 私も凛花同様、若干の安堵感からふぅーっと息を吐き出す。


「軽々しく言えないけど、玲にも色々とあったんだな。まあ、常にオレの脇で短刀を忍ばせていたとは知らなかったけどよ」

「まあ、オモチャみたいな短刀だけどね。って、実際オモチャだったワケだし」

 私はポツンと置かれた可愛いキンチャク袋を見下ろす。


 しばらく二人の間に沈黙が流れた。

 少しして凛花も同じようにソレを見つめながら言う。


「それにしても玲が瀬下せしものアパートに単身乗り込んだ時はどうなることかと思ったぜ。思い返しただけでぞっとする」

「ああ、あの時? あの時は短刀があったからね」

「イヤ、だからってよ暴力事件の容疑者と部屋の中で二人きりになるなんてさ。ヘタすりゃ○される可能性すらあったのによ」

「大丈夫よ。イザとなれば瀬下と差し違えるつもりだったし」


 さらっと言う私に対し、少しの間を置くと首を傾げながら凛花が言う。


「・・・・玲、お前よくオレのことを男勝りでキケンだとか言うけど、本当にヤバイのは玲、お前の方かもな」

「あらそうかしら」


 私はとぼけてそう答えた。



 旧式のエアコンはなかなかその役割を果たさず、異様に大きな室外機の音だけが部屋を支配している。

 

 今年の夏は特に暑かったわね。


 私は首筋にまでうっすらと汗を滲ませた美少女を眺めるのであった。



 ―――File4. 名探偵と学園祭 解決!

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