柳都学園には取り扱い注意の美少女探偵がいるらしい
北川聖夜
プロローグ
「なんで『名探偵』って言うと決まって男なのかね」
私が渡したA4のコピー用紙に隙間なく並べられた文字列。
それを読み終わるなり
「いや、別に
たまにはこう・・・なんて言うか、若くて、長い黒髪が素敵で、美人な名探偵がいたっていいじゃないかなって」
コピー用紙をクリップに留め直し、それを私に返しながら言う。
「もしかしてそれって自分のことをイメージしてる?」
私はあえて少し
「そ、そんなワケないだろ。ただオレはこの男女平等の世の中で、ミステリの世界だけが旧態依然として男尊女卑なのが納得行かないだけよ」
そう言うと彼女は、少しだけ動揺しながらもほお杖を着いたまま教室の外の景色を見やりながら言う。
「ホームズにポアロ、あと明智に金田一、ドラマにしたって古畑や右京さん。み~んな男ばっか・・・」
―――なんか最後は探偵じゃなくなっているけど! そう思いながらも私は冷静に反論する。
「そんなことないわ。同じアガサにもミス・マープルがいるし、日本にだって置手紙今日子や、ドラマでは榊マリコとか
「それはそうだけどさ・・・ってか、科捜研て探偵じゃなくね??」
自分の事を思いっきり棚に上げて凛花が突っ込んで来る。私の言葉に彼女はイマイチ納得が行かない様子。
確かに古今東西、「名探偵」と言われる人物には圧倒的に男性が多いのは事実だろう。そして私が描いてきたミステリも・・・。
私、
自分で言うのもなんだが、成績はまあまあ上位に位置し、ミディアムボブに切り揃えた髪と冷静な言動が知的に見えると評判のメガネ女子だ。
まあ、反論はあるだろうけど、思っている分には本人の自由と言うことで。
対して私の前で背もたれを抱えてこちらを向いている彼女。
名前は
私とは正反対の性格で、男勝りの性格、言動はガサツ。しかし長くて艶やかなストレートの黒髪と、ぱっちり二重の目、ツンと尖った高い鼻。
薄いブルーのブラウスとチェックのスカートに身を包み、足元は校則で決められた黒のローファーを履く彼女は、口さえ開かなければ誰もが振り向く程の美少女だ。もっとも良くも悪くも本人にその自覚は全くないようだが・・・。
話は戻るが、一応文芸部員の私は今までに何作かのミステリを描いてきた。しかしその中に出てくる探偵役も凛花が言うように、毎回、男性に担ってもらっている。もっとも最近はネタ切れで一向にペンは進んでいないのだが。
「そうだ! 良いこと思いついたぜ!」
急にその整った顔をこちらに向けると、得意げに彼女が言う。
「こう言うのはどうだ。この学園でのオレの活躍を玲が描く! 女探偵も登場ってことになるし、玲も目の前で見た事件を描くなら作品にリアリティーも出るってもんだ!」
「オレの活躍って・・・! この学校で事件なんてそうそう起きないでしょ。それにあなた、いったいどんな活躍をするつもりなのよ」
「チッチッチ! 甘いな玲!」
その細長い右手の人差し指を左右に揺らしながら彼女は続ける。
「なにも殺人事件とか、強盗事件みないな物騒なモノばかりがミステリじゃないぜ。学園で起きる少し奇妙なできごと。これだって立派なミステリだ。その謎をこのオレが縦横無尽の活躍で解決する! な? 身近な方が読者にも共感が得られるってもんだろ」
「はあ・・・」
まあ、確かにそれはそうかもしれない。インパクトには欠ける気はするが、それも立派なミステリではある。でも・・・。
「でもさ、その『少し奇妙なできごと』とやらはどうやって見付けるのよ? 現実世界じゃなかなか起きないんじゃない、そんな都合の良いこと」
「いや、それは違うな玲! 名探偵が動くところに必ず事件は起こるんだ。良く言うだろ『考えるよりまず行動! 動きながら考える、走りながら悩む』ってな」
―――ううーん、どこかの啓発本ですか?
「心配すんなって! 玲の作家魂に火が付くような活躍をオレがしてやっからよ!」
一度言い出したら止まらない、そんな彼女の性格を私は充分に知っている。って言うか、だいたいの場合、大失敗して止まらざるを得なくなるのが現実なのだが。
まあいい。親友がそこまで言ってくれるのなら彼女に乗ってみるのも余興のひとつよね。私は彼女のその右手を軽く握ると小さく頷いた。
こうして凛花と私の、ここ柳都学園における少しミステリアスで少しポンコツな課外活動は幕を明けるのだった。
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