第216話 現実


 カリンたちの快進撃にネット中が湧いていた。

 

 奈落での危なげない進行に神話級生物としか思えない凶悪なボスの撃破。さらには大量のヒトガタと遭遇し狩り尽くすことで空間魔法系の素材を大量に獲得。要救助者数百名を無事に地上まで送り届ける魔法装備作製の目処まで立ちはじめていたのだ。

 

 時間的な懸念は引き続きあれど、現実味を帯びてきた救助成功の可能性に当初の絶望的な空気は確実に前向きなものへと変じつつあった。


 だがやはり過去に類を見ない救出作戦には心配ごとがつきもので、ヒトガタ素材を大量入手したカリンたちに当然の疑念が寄せられる。



〝ヒトガタ素材大量入手はマジで僥倖なんだが……〟

〝奈落を移動しながら装備作製ってそんなんできますの!?〟

〝時間がもったいないってのはわかるし要救助者守りながらの加工がもっと無理筋なのはわかりますが……〟

〝それどうしても進行速度落ちませんこと!?〟

〝深淵ボス相手に戦いながら加工はしてましたが色々と状況が違いすぎません!?〟

〝とりあえず加工判定あれば奪えたボスの剣と繊細そうな空間魔法装備加工はだいぶ難易度違わない!?〟


 バケモノお嬢様を中心にした世界最強クラスパーティの快進撃が続いているとはいえ、さすがに主力のカリンが加工で両手を塞がれては攻略速度の低下は免れない。


 ましてやカリンたちがいま進んでいるのは前人未踏の奈落第2層。

 なにが出てくるかわからない伏魔殿なのだ。


 そしてそんな懸念はすぐさま現実のもとなる。


「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」


 ヒトガタの大量発生していたモンスターハウスを飛び出してすぐ。

 ビリビリとダンジョンを揺らす咆哮とともに――巌のような皮膚を持つ巨人が複数出現した。



〝うわなんか出た!〟

〝ん!? なんかこいつ見覚えないか!?〟

〝荒川ダンジョンで出てきた巨人じゃねえ!?〟

〝いやなんかそれよりヤバそうだぞ!?〟

〝イカつくない!?〟

〝おいすげー数なんだが!?〟

〝10体はいるぞ!?〟

  


 カリンたちの行く手を塞ぐように現れたソレは、かつてカリンが荒川ダンジョン最奥で遭遇した規格外の怪物。


 人造の巨人タイラント・ギガースの原種である。

 

 最も力の凝縮された部位とはいえ、猫屋敷たちの手で特殊強化された深淵ボスが取り込んだだけで奈落級へと変じた素材の大元。


 視聴者たちが指摘するように、その姿はかつてカリンが対峙したものと比べて明らかに体格で勝りシルエットも荒々しい。そして当然、力のほうも奈落〝級〟巨人とは異なり、


「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!



〝!?〟

〝なんだ!?〟

〝うわ!?〟


 

 威嚇するように振りかぶられた腕がいとも容易く奈落のダンジョン壁を広範囲にわたって粉砕。爆散した破片がそれだけで〝大砲の散弾〟がごとき範囲攻撃と化す。


 さらには、


「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」


 ドゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオン!


 巨人たちそれぞれが歪な口腔から放つのは、個体ごとに異なる色とりどりのブレス。

 炎、魔力弾、衝撃波、巨大な岩塊――純粋なフィジカルに加えてダンジョン壁の散弾とは異なる高火力のサブウェポンまで備えており、一斉にカリンたちへ向け砲撃する。



〝おいおいおいおい!?〟

〝明らかに荒川のときより強くて無茶苦茶なんだが!?〟

〝加工どころの騒ぎじゃないだろこれ!?〟

〝普通に戦えば大丈夫かもだが色々しっちゃかめっちゃかすぎんだろ!?〟

〝あの巨人と同種だとしたら再生とかクソ堅皮膚とか気配殺しまであるかもってマジ!?〟



 1層のモンスターが特殊能力に秀でているとすれば、2層から出現するこのタイラント・ギガース原種は純粋な戦闘力に特化したウォーリア。複数同時に現れたということもあって、そのシンプルな戦闘力が暴風雨のように救援パーティに襲いかかった。


 しかしそんな猛攻のなかで――ドゴオオオオオオオオオオオオオン!


「っ!? グギャアアアアアアアアアアアアアアア!?」


「ですわ! ですわ!」


 トンテンカン♪



 巨人のうち一体が悲鳴をあげて吹き飛ぶと同時――大破壊の轟音を貫くように、どこか間の抜けた加工の音色が響き渡った。



〝は?〟

〝は?〟

〝幻聴かな?〟

〝え!? なに!?〟

〝!?〟

〝いやちょっと待ってお嬢様の腕が増えてない!?!?!?〟



 一息に起こった出来事に困惑が加速する。


 なにせ巨人の大量出現と大暴れに視聴者たちが気を取られていた隙に――カリンの背中や肩から様々な加工道具を駆使。譲渡装備で地力の上がったシャリーたちとともに巨人の回避しながら素材を一気に加工しまくっていたのである。


 もちろんカリンも(いちおう)人間なので生身の腕が急に生えたわけではない。


 それは純然たる魔法装備。

 奈落合宿の際、シャリーたちへの譲渡装備を更新・改良するのにいちいち安全な深淵まで戻るのが面倒だったため、奈落でもある程度の相手であれば戦闘しながら加工できるようにと作った複腕マジックアームである。


「強度や通せる魔力量の関係でこれを攻撃に使ったり複数の魔法装備使ったりするのには向いてないんですが……やはりこういうときは便利ですわ!」


 

 

 カリンの意志に従い動く複数の義手。本人が言うように諸々の仕様もありこれでカリンの殺人パンチを再現したり複数の魔法装備を使うことはできず、本来であれば加工道具も十全な力を発揮できるものではない。だが――周囲の濃密な魔力の関係で加工スキルの精度が跳ね上がる奈落であれば精度は十二分。ましてやいまのカリンならば、あくまで深淵級素材であるヒトガタ素材の加工に巨大炉を使うまでもない。


 結果としてカリンは敵の猛攻を回避しつつ、その拡張された複数の腕で〈神匠〉製加工道具を複数操り多数の素材を一気に加工。


 そして増設した複腕で加工可能ということは、異次元の殺傷能力を秘めたカリン本人の両手は完全にフリーになるということで――シャリーたちの援護もあわせ、始まるのは加工と戦闘を並行して行う頭のおかしい奈落攻略である。


「ですわ! ですわ!」


 トンテンカン♪


「グギャアアアアアアアアアアアア!?」


「ですわ! ですわ!」


 トンテンカン♪

 

「グゲエエエエエエエエエエエエ!?」



 カリンが加工しながら放つのは、アイテムボックスから改めて取り出した空飛ぶキューブ。カリンの拳と連動して動く破壊の鉄塊。


 奈落の莫大な経験値を得てさらなる急成長を遂げたいま、一度攻略した相手なら多少スペックがあがっていようと群れで現れようと問題ないとばかり大暴れ。巨人の身体能力、極めて頑丈な皮膚、再生力、気配隠蔽――そのすべてを使ぶち抜き加工音を響かせながら巨人たちをなぎ倒す!



〝!?!?!?!?!?!?〟

〝よく見えないけどなんか加工しながら巨人ぶっ潰してるううううううううう!?〟

〝クマムシさんのときと同じで周囲に無駄な破壊を及ぼさないようお優雅地獄万力してる!?〟

〝ですわ! ですわ! じゃねえよなんだよこれ!?〟

〝なんか巨人の悲鳴とお嬢様の独特な加工音が同時に響いてるんですけど!?〟

〝さっきからなんなんだこの歌は!〟

〝巨人さん迫真の合いの手〟

〝巨人とお嬢様のセッション……?〟

〝殺生なんだよなぁ〟

〝犠牲者の断末魔を芸術(音楽)とか言い出すタイプの敵?〟

〝頭おかしなるで!〟

〝いやちょっと待てこれマジで加工しながら戦えてんのか!?〟

〝シャリー様たちの援護もあるとはいえ無茶苦茶すぎましてよ!?〟

〝いや確かに奈落進出前からバフ以外の魔法装備封じられた状態で圧倒してた相手に最初から魔法装備ありならわかるけどわからねぇよ!〟



「よし! いい感じにいけますわね! 第2層はこの巨人様がメインで出現するようですし、この調子でいけば速度を落とさず加工しながらいけますの!」


 あまりのことに困惑の声が多くなるなかカリンが努めて明るい声をあげる。

 

「要救助者の皆様の位置も既にばっちり把握しておりますので、あとほんの少しお待ちくださいですわ! シャリー様たちと一緒にすぐ行きますの!」


「バカ2人と穂乃花ももう少しだけ頑張るんじゃぞ!」


「助かった暁にはたっぷりと特製ピザをふるまうからな!」



〝う、うおおおおおおおおおおお!〟

〝やってること頭おかしくて理解が遅れたけどマジでいけるやんこれ!?〟

〝いっけええええええええお嬢様ああああああああ!〟

〝最高の年末年始をくれ!〟

〝光姫様たちも本当にあともう少しの辛抱でしてよ!〟



 と励ますようなカリンの声と続くシャリーたちの激励に、困惑に染まっていたコメント欄ではいよいよ歓声があがりはじめて――大量に流れるそんな声援と激励を背に、カリンたちは気配を完全に補足した光姫たちの元へと突き進む。


      ※



「カリンお嬢様……!」

「お嬢様がきてくれる……もう少しで……もうそこまで来てる……!」

「助かるの……!?」


 

 そしてその救援配信の盛り上がりは、いよいよ要救助者たちの間にも明確な希望をもたらしはじめていた。


 カリンたちが奈落ボスすら撃破しヒトガタの素材を大量にゲットした時点で芽吹いていた希望。それがカリンの無茶苦茶な並行加工と自分たちの位置を正確に把握しているという激励でさらに増し、本当に微かではあるが励まし合う声すら囁かれだしているのだ。


「もう少し、もう少しでお嬢様が来てくれるからね……っ」

「おじょう、さま……」


 奈落の魔力にあてられほとんど身じろぎすらできなくなっていた幼い女の子も、紫ドレスの人形を握り絞めながら周囲の空気の変化を感じ取ったのか、自分を抱きしめる母親の呼びかけを受けて小さくこぼす。


 光姫が必死にケアを続けていた人々が、ナターリヤや穂乃花の守る陣地のなかで、いまようやくはっきりとした救援の可能性を見いだせるようになっていた。


(いける……!)


(あと少し……この状態が続いてくれれば……お嬢様なら絶対に……!)


 そしてカリンのその無茶苦茶な攻略にもっとも勇気づけられているのは、ずっと神経を張り詰め籠城に全力を尽くしていた光姫や穂乃花たちだ。


 かなり成長したとはいえ感知にも限界がある2人ではカリンたちがいまどのあたりにいるはわからない。だが脱出手段をいままさに獲得しながら爆速でまっすぐこちらを目指し、自分たちと同じ階層を突き進む姿は力を振り絞るのに十分すぎて、


(あともうひと踏ん張り――! 乗客の人たちにも少し余裕が出てきましたし、万が一がないよう穂乃花さんやナターリヤさんにも補給の補助を――)


 と光姫が籠城の要である2人にも改めてケアの手を伸ばそうとした――そのときだった。


「――っ!?」


「え――」

  

 光姫の呼吸が止まった。

 なぜなら視線を向けたナターリヤの顔が、その一瞬で、酷くこわばって。


「全員! 私の後ろにもっと――」

 

 ドッゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」


「「「っ!?!?」」」


 ナターリヤの声をかき消すように響くのは、ダンジョン壁を容易く砕いて安全地帯を踏み荒らす災害の雄叫び。終焉の足音。絶対的な死が具現化された存在――すなわち


 さらには――ぎょろり。


「「「―――」」」

 

 ナターリヤたちが固まる場所と破壊された壁の位置はある程度離れている。にも関わらず彼らは安全地帯に踏み込んで来るや、背景と一体化し音と気配を消すナターリヤたちのほうへとその殺気を明確に突きつけて、


「「「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」


 放たれるのは無数の砲撃。さらに巨人のうち1体が先駆けとばかり光姫たちのもとへ迷うことなく突っ込んできて――訪れるのは酷薄なまでのタイムリミット。


 奈落最奥に生じた安全地帯、奈落を攻略できる規格外探索者の集合にヒトガタの大量出現スポット……いくつも重なっていた都合のいい現実が、そこで完全に終わりを迎えた。



―――――――――――――――――――――――

というわけで奈落救出編クライマックスに伴いまして、次回は日曜更新。ちょっとだけ週2更新続きますわっ!


※また急ぎのお知らせですが、なんとお嬢様バズ書籍5巻の発売が10月20日に決まりましたわー! 本当は次に最強女師匠7巻を出す予定だったのですが(原稿も既にありますし)、ちょっと諸事情あって前倒し刊行ですのっ。書籍についてはまた追って詳細お知らせしますが、SSメインとはいえ書き下ろしも1万5千字近くあるのでお楽しみにですわ!



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