第151話 没収


「ファイヤーですわああああああああああああああ!」


「「「ぎぴいいいいいいいいいいいいいっ!?」」」


 荒川ダンジョン深淵第3層。

 一時はどうなることかと思われたその高難度階層はしかし、いまやドレスを纏った怪物カリンの独壇場となっていた。



〝お嬢様やべえええええええええええ!?〟

〝深淵の反則バフモンスたちが燃えるゴミのようですわあああああ!?〟

〝ムスカもドン引きの虐殺っぷりでおハーブ焼き畑農業〟

〝おいおい蒸し焼きだよ〟

〝このお嬢様一回討伐方法確立したらマジで止まらねぇ!〟

〝@Captain pizza:繰り返しになるが、本当にあのファッキンテロリストどもはこのお嬢様に喧嘩を売ったのかい……?〟

〝シャリー様やお嬢様と同格疑惑あるピザニキドン引きで草〟

〝まったく関係ないわたくしがガクブルなんですがセツナ様のフィギュア粉砕したテロリストさんたちのメンタルは大丈夫ですかね……?〟

〝お嬢様鬼つええええ! このまま深淵モンスもテロリストも全員ブッ殺していこうぜ!〟

〝一つ問おう! お優雅なダンジョン攻略にはなにが必要と思うかね? そう……破壊だ!〟



 大猿、アルマジロ、未来視のサメ――これまで深淵に出現した通常モンスターが大量の強化魔法重ね掛けで深淵ボス並の力を持って立ち塞がるのだが……攻略法を確立したカリンの前ではすべてが無意味。


 強化魔法を操る大量のピエロからまずは火炎放射器で蒸し焼きにし、次々と撃破していくのである。そのえげつない攻略速度には視聴者たちも引き続きドン引きしつつも大盛り上がりで、これが深淵崩壊テロという未曾有の大犯罪を食い止めるための配信だと一瞬忘れてしまいそうになるほどだ。



〝もうピエロどもが何体イったか数え切れなくておハーブ〟

〝死屍累々の具現化か?〟

〝しかしここ全然ドロップアイテム落ちないですわね……?〟

〝お嬢様がバフ魔法までゲットしてさらにパワーアップすると思ってましたのに変ですわね〟

〝バランス崩壊を危惧した運営(ダンジョン)から調整入った……?〟

〝お嬢様がすべてを焼き尽くしてるから……?〟

〝希少モンスって大量発生するエリアでもそれに反比例してドロップ率落ちて素材の希少性が変わらんこと多いらしいからなぁ〟

〝マジですの!?〟

〝そういやヒュプノシスバットのときも全然ドロップなかったっけか〟

〝厄介なだけでリターン薄いとか普通に悪辣ですわー!?〟

〝アルマジロやゴリラの素材は結構落ちてんのになぁ〟



 視聴者たちが少々落胆したような声を漏らすように、カリンが次々とモンスターたちを撃破していくなかでドロップする素材にはかなりの偏りがあった。


 希少モンスターらしきピエロからはほとんどドロップせず、凶悪な階層の割には手に入るリターンがかなり薄いものとなっていたのだ。それも含めてこの階層の脅威だと言わんばかりに。


 とはいえ、



〝まああの火炎放射器型非人道お優雅大量破壊兵器があればこの先もヘーキヘーキですわ!〟

〝追加強化あるに越したことはないけどまあ大丈夫ですわ!〟

〝なんやかんや既存装備だけでここまで突き進んでるからなこのヤベェお嬢様〟

〝てかこのお嬢様どう考えてもほかにも武器隠し持ってるだろうし……〟

〝そもそもあのピエロ自分は強化できない能力っぽいし……このままいけいけどんどんですわー!〟

〝未成年が深淵ソロで突き進んでる真っ最中とは思えないコメ欄〟

〝これまでのお嬢様の所業に皆様脳を焼かれちまってますわ……〟

〝とはいえ油断は禁物でしてよ!〟

 


 ほぼ既存武器だけで深淵を突き進むカリンを前に視聴者たちの落胆もそこまで長続きせず、多くの声援が飛び交っていく。そうこうしていれば、


「ふぅ、到着ですわ! この手の大量発生系階層はモンスター様との戦いがワンパターンになりがちなのですが、案の定ずっと似たような強化モンス様ばかりでしたわね。最初に攻略法を確立しておいて正解でしたわ!」


 立ち止まったカリンの前に、今日何度目になるとも知れない大扉が現れていた。

 第3層の最奥に到着したことを示す門、ボス部屋への入り口である。



〝相変わらずクソはえええええええええ!?〟

〝※ここは前人未踏を超えた前人未踏の深淵第3層です〟

〝※お嬢様と殴り合えるレベルまでゴリゴリラに強化された通常モンスが湧きまくる地獄みてぇな階層です〟

〝カゼナリ含めて既存装備を惜しみなく投入してるとはいえどうなってんですの!?〟

〝サクサクすぎる……〟

〝ちょっと気が早いけど「未成年に深淵ソロ攻略依頼するとか……」と思ってたワイ政府の慧眼に震える〟



「さて、それでは第3層のボス様に挑んでいきますわね!」


 いつもどおりにそう宣言し、カリンはボス部屋では使いづらい火炎放射器をアイテムボックスに収納。油断は禁物とばかりに汎用性の高い〈モンゴリアンデスワーム〉を握り、魔龍鎧装・カゼナリを纏ったままボス部屋へと足を踏み入れた。


 そこに広がっていたのは、深淵第2層のボス部屋と同じくなんの変哲もない大広間。

 そしてその中心にいたのは――数メートルの体躯を有する巨大蜘蛛だった。


 ただしただの大蜘蛛ではない。



〝うわなんだこいつ!?〟

〝蜘蛛の下半身に腕の多い人型の上半身がついてますわ!?〟

〝インセクトウォーリアー+大蜘蛛!?〟

〝軽く閲覧注意でしてよこのボス!?〟

〝虫型モンスのキメラ!?〟

〝なんか造形からしてヤベェですわ!?〟



 それは巨大な蜘蛛の身体から虫人のような上半身が生えた、〝異形のケンタウロス〟とでもいうようなモンスターだったのだ。


 そしてそんな視聴者たちの悲鳴に呼応するように――人型部分の多腕を揺らして大蜘蛛キメラが立ち上がった。


「キュイイイイイイイイイイイイイイイイ!」



〝うわ動くと余計にキモい!〟

〝てか相変わらず画面越しでもヤベェな深淵ボスの圧……〟

〝と、とはいえお嬢様ならきっと大丈夫ですわ!〟

〝油断は禁物……とはいえサクっと討伐してしまってくれお嬢様ー!〟

〝反則装備で粉砕爆砕大喝采ですわー!〟



「ふむ……第2層の鎧様ほどではないにしろ、ボスモンスター様にしては少々小柄ですわね? さて、今度はどんな能力でして?」


 そしてカリンもまた視聴者の声援に応えるように、魔龍鎧装・カゼナリ――同時装備した〈魔龍鎧装・嵐式〉と〈魔龍鎧装・雷式〉の2つに大量の魔力を送りながら大刀を構えた。


 次の瞬間だった。

 

 バシィ!


「え……」



 カリンは一瞬なにが起きたかわからないとでも言うように目を見開いていた。


 なぜなら――カリンが身に纏っていた〈魔龍鎧装・嵐式〉と手に握っていた〈モンゴリアンデスワーム〉が掻き消えて、


「キュイイイ……!」


 ニタァと悪辣な笑みを浮かべた大蜘蛛キメラの人型部分に、


―――――――――――――――――――――――――――

分割更新的なサムシングであっさり目ですわ!

あと今後の更新ですが、ひとまず8月18日の日曜更新までは週1で。そこから突入する深淵編クライマックスは週2更新に戻す予定ですの。あくまで予定なので、更新見逃し等々気になる方は作品フォローしていただくのが吉ですわ!


ちなみに前回思いのほか反響のあったカリンお嬢様女児人気ですが「ドレスで戦う変な口調のめちゃつよ女性ヒーロー」というのが作中女児にブッ刺さってるようですの(暴風龍をぶっ飛ばしてニュースで報道されまくったあたりとかでリアルプリ〇ュア扱いされてるようですわね)。そのほかお嬢様の女児人気を加速させたエピソードもあるのですが、このあたりはいつか書籍の書き下ろしにでも出せればですわね…!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る