第127話 佐々木真冬の心配
「あわ……あわわわわわ……」
未発見ダンジョンを掘り当てた遠征配信からおよそ1週間。
カリンはホームルーム前の教室でスマホを眺めながらぷるぷると震えていた。
どうしたのかといえば……未発見ダンジョン及び犬飼工業に関するニュースが相変わらず報道されまくりで、収まる気配がないのである。
しかしそれも無理はないだろう。
国が存在を把握できていないダンジョンなど、それこそダンジョンが出現した初期にしかあり得なかったもの。しかもそこで国内有数の大企業が違法実験まで行っていたのだ。報道が過熱しないわけがなかった。
(ま、まさかあんなガバガバな未発見ダンジョンで本当に違法実験を行っていたなんて……!? よほど豪胆なのか、あるいはたまたまわたくしが赴いたときに隠匿状態が緩んでいたとかそういう感じだったんですの……!?)
とカリンは研究所に対探課のメンバーが突撃してきて以降混乱しっぱなしだったわけだが、なんにせよ犬飼工業本社が「発見されづらいダンジョン」を隠し持って違法実験を行っていたのは純然たる事実。
そこに連日リークされまくるブラック労働強制や違法操業の実態、いまなお対探課から逃げ続けている犬飼洋子社長といったセンセーショナルな要素が加わり、なんかもう大騒ぎを超えた大騒ぎになっていたのだ。
そして自分の配信がきっかけで巻き起こった「国内有数の大企業爆散」をはじめとする騒ぎにカリンはずっとびびり倒していたのである。犬飼グループの総資産○兆円が吹き飛びそうという話を聞いたときはカリンのメンタルのほうが先に吹き飛びそうになった。
と、そんなこんなでほとんど死にかけのセミみたいになっていたカリンの隣で真冬が呆れたように息を吐く。
「まったく。未発見ダンジョンに違法実験施設って……なんで毎回毎回あんたはそんな変なものばっかり引き当てんの」
そして「うごご……」しか言えなくなっているカリンを落ち着かせるように、
「まあでも別にあんたがそんなに気に病む必要はないでしょ。犬飼グループの関連会社も今回の件で色々と助かったって話しだし、ダンジョン庁の職員なんかも(死んだ眼で)感謝してたでしょ?」
「ま、まあそれはそうなんですが……それでも騒ぎが大きすぎて落ち着きませんの!」
カリンは叫ぶ。
真冬の言うとおり、確かに今回の件でカリンが責を負うような部分は実のところほとんどない。そもそも犬飼工業本社が全面的に悪いし、真冬いわく各種関連企業も(いちおう)大助かりだったようなのだ。
強いて言えば突発的な大事件発覚に行政サイドが大わらわなくらいだが、それについてもあのまま違法実験が続いていたよりもずっとマシなわけで。行政に気を遣っていれば犬飼工業に証拠隠滅や言い逃れの余地を残してしまっていただろうと考えればカリンの突撃はむしろファインプレーと言えた。
しかしまあそれはそれとして連日どこのニュース番組もそれ一色で各方面への影響も甚大となれば、発端であるカリンとしては胃がキリキリしてしまうのである。助かったという中小企業も楽なことばかりではないだろうと思えば、なんだか色々と申し訳なくなってくる。
「まあでもこの大騒ぎだってそう長くは続かないでしょ。それよりも……」
と、真冬はなにやら少し真面目な顔をして、
「私としては、今回の件でいよいよなにか事件や問題があればカリンが全部解決してくれるみたいな空気になってるほうが気になるけどね」
「? ああ、ネットの悪ノリのことですわね?」
カリンは真冬の言葉に少し首を傾げたあと、一拍遅れて心当たりに気づく。
犬飼工業の違法実験発覚からの崩壊に伴い、カリンは今回もまた山田イダラボッチだの破壊神山田だの日本が核を持たない理由だのネットで色々と言われているのだ。とはいえそれは吉田沙○里選手が霊長類最強のレベル100万とか言われているのと同じ、大げさな物言いが多いネット特有のノリ。
それにジェノサイドお嬢様だのエイリアンお嬢様だのといったお優雅でないことこの上ない風評被害に比べれば幾分マシなもので、
「確かにまだ未熟なわたくしの実態から離れた少々大げさな評価はちょっと気になりますけど……とりあえず真冬が前々から言ってくれているように、こういうときは再度お優雅な配信を心がけていけばそういう変なノリも落ち着いていくはずですわ」
「……だといいけど」
と真冬がどこか歯切れ悪く言うのと同時にチャイムが鳴って。
話はそこでひとまず終わるのだった。
※
「ふぅ。真冬も報道は長続きしないって言ってましたけど……それにしたっていつになったら落ち着くんでしょう」
放課後。
帰宅したカリンは相変わらずの溜息を吐いていた。
悩みの種はもちろん、いまなお続く犬飼工業関連のニュースである。
「まああまり気にしても仕方ありませんし、こちらとしては真冬にも言ったように、これまでどおりにお優雅な配信を心がけるくらいしかできませんけど」
言いつつカリンはTVのリモコンに手を伸ばす。
ニュースを見てもお腹がキリキリするだけなので見なくてもいいとは思うのだが……それでも少しはマシになってないかなとついついチェックしてしまうのである
そうしてカリンは今朝より少しでも報道の勢いが収まってればいいなと期待しながら薄目でテレビに目を向けた。
その、次の瞬間だった。
「……え? な、なんですのこれ……」
カリンは思わず目を丸くしていた。
そこに映っていたのは連日どこかの局で必ず報道されている犬飼工業関連のニュースではなく――異国の大地を埋め尽くすモンスターの群れ。そしてリアルタイム字幕で悲鳴じみた声を上げる海外のリポーターだったのだ。
『これはフェイクではありません! いま映っているのは無人ドローンによるリアルタイム空撮です! カリフォルニア州の荒野にて深淵級ダンジョンの崩壊が発生しました! 繰り返します! フェイクではありません! もの凄い数のモンスターが地面を埋め尽くしています!』
『崩壊したのはロサンゼルス郊外に位置するイエローロックダンジョン! 近隣に住んでいる方はいますぐ避難してください!』
『現在確認されているモンスターは深層級まで! 噴出する魔力の範囲は半径2㎞ほどに留まっており、近くの空軍基地から出動した軍隊と国内最高峰クランが総出動して即座に防衛線を築いています! ですが記憶に新しい日本の
『っ!? ああ!? いま空撮ドローンが撃ち落とされました!? モ、モンスターの素材も使った最硬度の無人機が何百メートル上空を飛んでると思って……!? く、繰り返します! 大変危険です! 万が一に備えて近隣の街の方々はいますぐ避難の準備を!』
「な、なんか大変なことになってますわ……!?」
と、カリンがどの局をチェックしても当然のようにTVはそれ一色で。
もはや犬飼工業や隠しダンジョンがどうこうという次元の話ではない。
のちに「人為的連続ダンジョン崩壊テロ」と称されることとなる歴史的大事件のはじまりが、あらゆる事件事故のニュースをかき消す勢いで報道されていた。
―――――――――――――――――――――――
いちおう補足しておくと真冬をはじめ警察の面々はいちおう隠しダンジョン関連に色々と違和感は抱いていますわ
そしてちょっとお知らせなのですが、実は年末年始から続いていた体調不良が4月に入ったあたりからいよいよかなり悪化してしまっていまして…。風邪や骨折のように休んでれば治るものならいいんですが、これがどうにも周辺の匂いに体調が大きく左右されるという非常に厄介かつ治療法のない病気で、現在ちょっと対処に追われている状況になります(今回文字数が少なかったりするのもその影響が少なからずありますね…)。それに伴いお嬢様の更新も滞る可能性があるので、あらかじめお知らせしておきますの
いちおう少し書き溜めはあるので、それが尽きるまでに状況が改善してくれれば、ですわね……!
(※のちのち体調回復して執筆問題無く続けておりますが、とりあえずここだけあとがき残しておきますの…!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます